第2章 平成の都道府県-平成の30年間の経済の状況1

第1章で平成30年間の人口の推移を見ました。自治体にとって人口は基本的には多い方がよいと考えられています。それは大きな自治体ほど自ら仕事をできる権能を持つということのほかに、人が集まることにより、いろいろな産業が盛んになり、にぎわいや活気が生まれ、住民の所得水準が向上し、経済の規模が大きくなる。それがまた人を呼ぶという好循環が期待されるからです。

経済の規模を測る指標はたくさんありますが、筆者が注目するのは県民所得です。国民全体の所得は、GDP(国民所得)を用いて示されますが、これと同じような計算の仕方で、各県とも県民所得を算出しています。

県民所得は、その県内の県民や企業の創出した付加価値であり、この変化を見ることで、どの県が栄え、豊かになったのか、あるいはその逆かということがある程度分かると思われるからです。

2-1 日本経済の状況ー失われた30年

都道府県の状況を説明する前に、日本全体の所得、つまり国民所得の状況はこの30年間でどのように推移したのかを見ます。
資料については、内閣府経済社会総合研究所の資料(「国民所得(要素費用表示)」によっています。

なお、人口についての国勢調査の調査年に合わせ、本章においても、平成の時代を1990(平成2)年度から2020(令和2)年度と捉えていることをお断りしておきます。

第2-1表 国民所得の推移 (単位:百億円)

年度1990(H2)199520002005201020152020(R2)
国民所得34,83537,42837,90738,81236,46939,26337,600

本表は、1990(平成2)年度から2020(令和2)年度の国民所得について5年ごとの数字を示したものです。1990年度の国民所得は348兆35百億円、2020年度の国民所得は376兆円。30年間で27兆5百億円の増加です(端数処理の関係で誤差があります)。増加率は、約7.9%。30年かけて7.9%ということは年率にすると0.26%となります。

ちなみに1990年度の10年前、1980年度の国民所得は203兆24百万円。それからの10年間で145兆1千億円増加しており、増加率は71%、年率で7.13%でした。

この対比を見て、「失われた30年」という言葉を実感しました。

推移に触れると、1990年度348兆35百億円から、10年後の2000年度には379兆7百億円に増えています。この間は30兆72百億円、8.8%の伸びですが、それまで毎年増加していた国民所得は、91年度をピークに翌年度には減少し、その後は、増減を繰り返すようになってきます。

さらに10年後の2010年度には364兆69百億円となり、14兆39百億円減少しています。この間においても増減を繰り返すが、全体的に若干減少傾向が強いです。

そして、その後の10年間は若干の上昇傾向を示してはいますが、2015年度と2020年度の数値を比較すると、減少しています。この数字で見る限り、本格的な上昇傾向とはいえません。

この30年間における大きなマイナスとなる経済的事象としては、
1990年代後半から2000年代初にかけて本格化した「バブルの崩壊」、2000年頃に発生した「ITバブルの崩壊」、さらに、2008年の米国リーマン・ブラザースの破たんに端を発した「リーマンショック」などが挙げられます。

国民所得低迷の背景にはこれらの事象があると考えられます。

2-2 都道府県の県民所得の特徴

まずは、都道府県ごとの所得(以下、都道府の所得についても、「県民所得」という)について見ます。
なお、本稿で述べる県民所得には、個人の給与所得や事業所得だけではなく、企業による所得も含まれることをお断りしておきます。
根拠となる資料は、内閣府経済社会総合研究所の資料(「県民経済計算」)によっています。

2-2-1 全体の2割弱を占める東京都

2020(令和2)年度の県民所得の多い団体は、

①東京都73兆25百億円、②神奈川県27兆35百億円、③愛知県25兆86百億円、④大阪府25兆1百億円、⑤埼玉県21兆23百億円 となっています。

この順位は愛知県と大阪府が逆なほかは人口の多い順と同じです。やはり、人口規模の大きさはある程度その県の県民所得の多寡と関係しているようです。
なお、1990年度は、東京都、大阪府、神奈川県、愛知県、埼玉県の順でした。当時は、大阪府が第2位で、人口の順と県民所得の順は同じでした。

ここで注目すべきは、「県民経済計算」における全県の県民所得の合計は393兆96百億円(この数値は「国民所得」の数値とは集計方法が違うので一致しません)で、東京都の全国の所得に占める割合が18.6%に及んでいることです。

東京都の2020(令和2)年の国調人口の全国シェアは11.1%ですので、所得面における一極集中は人口の一極集中よりさらに激しいといえます。また、1990年に比べると、人口のシェアは1.5ポイントの増加ですが、所得のシェアは5.0ポイント増加しており、企業活動の集中度の高まりもうかがえます。

2-2-2 県民所得の少ないのは鳥取県

県民所得の少ないのは、

①鳥取県1兆28百億円、②高知県1兆72百億円、③島根県1兆86百億円、④佐賀県2兆9百億円、⑤徳島県2兆17百億円 の順となっています。やはり人口規模の小さな団体が並んでいます。

国調人口の順との比較では、高知県と島根県が人口順では逆です。また、佐賀県は人口による順位では少ない方から6番目ですが、県民所得による順位は4番目となっています。徳島県はそれにより、人口の順位は4位ですが、県民所得の順位は一つ高い5位となっています。
なお、1990年度は、鳥取県、島根県、高知県、佐賀県、徳島県の順で、2020年度と比較すると、高知県と島根県の順位が入れ替わっています。

東京都と鳥取県を比較すると県民所得では約57倍の開きがあります。人口の比較では約25倍ですので、この点から見ても東京都への所得の集中度合いが見て取れます。

人口で約55%を占めた9つの大規模県(人口が500万人以上の東京都、神奈川県、大阪府、愛知県、埼玉県、千葉県、兵庫県、北海道、福岡県)の全国の県民所得に対する比率は、約60%で、所得の集中度が人口の集中度を上回っています。 

2-2-3 増加額―ケタ違いの東京都

続いて、この30年間の県民所得の伸びを見ます。1990年度と比較した2020年度の県民所得の増加額については、

①東京都24兆18百億円増、②愛知県3兆66百億円増、③神奈川県1兆67百億円増、④千葉県1兆67百億円増、⑤福岡県1兆32百億円増 の順となっています。

東京都は、49兆7百億円から73兆25百億円へと24兆18百億円増えており、この間の全体の増加額32兆63百億円の7割強を占めるという結果となっています。

概ね、この30年間に人口が増えた団体が並んでいます。この中で福岡県が5位(人口順は9位)となっていますが、福岡県は九州の県(沖縄県を除く)の中で、唯一1990年と比べ2020年の人口が多い県であり、九州において経済面での地位がより高まったものではないかと推察されます。

2-2-4 増加率が2番目に高い沖縄県

県民所得の増加率では、

①東京都49.3%増、②沖縄県37.5%増、③滋賀県18.1%増、④宮城県17.6%増、⑤愛知県16.5%増 の順となっています。

これらの団体はいずれも人口がかなり増えた団体で、沖縄県は人口増加率1位、滋賀県が4位、愛知県は率では7位ですが、増加数で4位となっています。沖縄県が他県に比べてかなり高い伸びを示しているのが特徴的です。

宮城県は、東北6県の中で唯一1990年より2020年のほうが人口が多い県で、先の福岡県の例と同様に東北地方において経済面での集中が見られたのではないかと思われます。

ここで、1990年度と2020年度の全県の県民所得の合計の値(全国平均)を見てみましょう。1990年度が361兆33百億円、2020年度が393兆96百億円です。差し引き32兆63百億円の増、率にして、9.0%の増加となります。なお、この数値は国民所得の数値(第2-1表)とは集計方法が異なるため一致しません。

30年間の伸び率を示す方法にはもうひとつあります。各県の伸び率を合計して47(都道府県の数)で割る方法(単純平均)です。これによると4.2%となります。

全国平均と単純平均がこれほど差があるのは、東京都をはじめとする人口規模や県民所得の大きい団体の影響が全国平均には大きく出る一方、単純平均ではそのウエイトがすべての団体において同一だからです。どちらの結果も正しいのですが、県同士を比較する場合には、単純平均も考慮に入れて比較した方がより的確な比較ができると考えます。

2-2-5 30年間で最も所得を減らした大阪府

次に1990年から2020年の間に県民所得が減少した団体について見ます。減少額については、多い順に、

①大阪府6兆40百億円減、②奈良県47百億円減、③京都府42百億円減、④岡山県28百億円減、⑤鳥取県24百億円減 となっています。

大阪府は、31兆41百億円から25兆1百億円へと6兆40百億円の減となっていますが、2020年の宮城県の県民所得が6兆45百億円なので、この30年間で宮城県1県分の県民所得が大阪府から消えたことになります。

人口のところでも若干触れましたが、わが国では首都圏、関西圏、中京圏が3大都市圏という扱いです。県民所得の点で、首都圏は東京都をはじめ構成の埼玉県、千葉県、神奈川県(これらは特に「東京圏」と呼ばれます)もそれぞれ一定の増加を見せています。中京圏の中心の愛知県も同様です。それに反して、関西圏では、中心の大阪府が日本で最も県民所得を減らし、それに次ぐのは奈良県、京都府となっています。
首都圏や中京圏に比べ、人口の増加率がいま一つだったのは、県民所得の状況と関係があるのではないかと強く推察されます。

なお、県民所得が減少した団体は、47団体中14団体です。約3割の県は30年前より県民所得が減りました。これらは大阪府を除いて、すべてこの間の人口減少団体です。

2-2-6 減少率でも大阪府

県民所得の減少率の順では、

①大阪府20.4%減、②鳥取県15.9%減、③奈良県12.5%減、④秋田県7.4%減、⑤富山県6.6%減 となっています。

このうち、大阪府、鳥取県、奈良県は減少額が多い団体と重なっています。

秋田県は、人口が2割以上も減っており、この位置に来ることもやむを得ないかと思われます。富山県は、減少額による順位は6位ですが、率では5番目となっています。

2-2-7 大阪府の県民所得はなぜ減少したのか

大阪府がこの30年間にひと際目立つ減少額を記録したのはなぜなのかを探るため、東京都と比較し、県民所得の内訳に当たってみます。

県民所得は、大きく、「雇用者報酬」「財産所得」「企業所得」に分けられます。
「雇用者報酬」というのは、いわゆる給料のことです。県民が総体としていくら給料をもらっているかということです。
「財産所得」というのは、金融資産や土地などを貸借する場合に、この貸借を原因として発生する所得の移転だとされ、具体的には利子や賃貸料などです。
「企業所得」はいわゆる会社の利益です。その団体に所在する企業がどのくらい儲けたかということです。
これら3区分について、東京都の数字とも比較のうえ、大阪府の数字を見ていきます。

第2-2表 東京都と大阪府の県民所得の推移(1990→2020)

単位百億円
団体名所得の内容1990年度2020年度2020/1990
東京都雇用者報酬3,2443,9591.22
財産所得4708551.82
企業所得1,1932,5102.10
県民所得計4,9077,3251.49
大阪府雇用者報酬1,8712,0191.08
財産所得5341760.33
企業所得7363060.42
県民所得計3,1412,5010.80

まず、雇用者報酬についてですが、これは2020年度の1990年度対比で、東京都、大阪府とも増加していますが、増加率は、東京都22%増、大阪府8%増とだいぶ差があります。東京都の人口がこの間に18%あまり増えているのに対し、大阪府は、ほぼ横ばいであることの表れでしょう。

財産所得については、東京都と大阪府で対照的な動きとなっています。1990年度では、大阪府5兆34百億円、東京都4兆70百億円と大阪府のほうが約64百億円東京都より多かったです。それが、2020年度においては、1990年度比東京都は3兆85百億円の増、大阪府は3兆58百億円の減少となり、東京都の方が6兆79百億円多くなっています。

企業所得については、さらに対照的であり、東京都は1990年度比で13兆17百億円、率にして、110%の増であるのに対し、大阪府は3兆6百億円まで落ち込み、1990年度の半分以下となっています。

このことから、大阪府が県民所得を減少させたのは、財産所得と企業所得の減少が主な要因であることがわかります。つまるところ、大阪府は投資対象や企業活動の地としての魅力がこの30年で失われ、そのかなりの部分は東京都に吸い上げられたのではないかと推察します。

2-2-8 従業者数が減った大阪府

このことを東京都と大阪府に所在する事業所数と従業者数の比較により見てみます。

第2-3表 東京都と大阪府の事業所数及び従業者数比較

第2-3表をご覧ください。東京都と大阪府の事業所数と従業者数について、1991(平成3)年度と2021(令和3)年度を比較したものです。

事業所数については、東京都も大阪府もこの30年間で15万か所あまり減っています。もっとも減少率でみると、もともとの数が多い東京都の方が減少率は低いです。
従業者数については、東京都は877万7千人から993万5千人へと115万8千人も増えているのに対し、大阪府は、507万4千人から472万8千人へと34万6千人減っています。大阪府内で働く大阪府民や周辺の府県民は減っています。

これを従業者数300人を境にして、いわゆる中小企業と大企業別に見てみると、特に大企業について東京都の優位がはっきりしています。第3表の真ん中の「従業者数300人以上」の表をご覧ください。

大阪府の大企業の従業者数が71万4千人から79万5千人へと、約8万人しか増加していないのに対し、東京都は177万6千人から297万6千人へと120万人も増加しています。
一方で、第3表一番下の「従業者数299人以下」の表をご覧いただくと、大阪府の中小企業の従業者数はこの間42万6千人減っており、その減少を大企業の従業者数で吸収できていません。東京都の中小企業従業者数は30年間でほぼ変わらない(約4万人減)なので、計算上は、東京都で増えた従業者数は全部大企業の従業者ということになります。

企業活動地としての大阪府の魅力の低下は、企業所得のみならず、企業数の減に加えて、従業者数も減っていることでも裏付けられ、これも大阪府の人口がそれほど増えていないことの理由となるのではないかと思われます。

つづく(経済の状況2を読む)

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