はじめに
ほとんどの方は、住所をもっています。住所地の役所に住民登録し、登録した市町村の住民となり、様々な行政サービスを受けるとともに、住民税などを支払っています。こうした関係が法律ではどのように定められているか、解説します。
どこの自治体の住民ですか?
朝起きて支度をして、学校や職場に行き、帰ってきて、寝る。そういう方は自ら又は家族などが所有又は賃借している、家財道具が置いてあり、生活をしている建物のある自治体に住民登録をしているでしょうし、その自治体の住民であることに、疑いの余地はないでしょう。たとえ、通学・通勤先がその自治体以外の自治体であったとしても。
地方自治法第10条第1項で、「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。」と定められています。
冒頭の事例では、建物のある場所が「住所」であるので、この規定により、その建物のある自治体の住民となるのですが、中には、いろいろな事情で実家や家族の住んでいるところと現在の居住場所のどちらが「住所」なのかを認定しなければならないことがあります。
住所の認定については、こうした場合の住所はこちらにあるというような明確な基準はなく、事実認定の問題だとされています。多くの行政解釈や裁判所の判例が積み重ねられていますが、その中から基本的な考え方を紹介します。
- 住所とは生活の本拠である。
- 住所の認定は、いろいろな客観的事実を総合して判断すべきである。単に滞在日数が多いかどうかで判断すべきものでもなく、客観的施設の有無によって判断すべきでもない。
- 留守中の管理を妹に任せた転地療養者やたとえ長期にわたる出稼ぎであってもこのような出稼ぎ者については、住所は滞在地とは別にあると考えるべきである。
このように、住所の認定は、様々な事情を考慮したうえで行う必要があります。
なお、法人も住民ですが、法人の住所については、主たる事務所の所在地又は本店の所在地です。
また、自然人も法人も住所は1か所です。
住民の権利と義務
ある自治体の住民となったときに、どのような権利や義務が生じるでしょうか。地方自治法第10条第2項で、「住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。」と定められています。
「役務の提供」というと難しく思えますが、上下水道の利用、市(県)立学校への通学、図書館、市民会館や公園など各種公共施設の利用、住民票の交付、健康診断、福祉関係の給付、警察、消防・救急など、市や県が行うサービス全般です。
そもそも自治体は、「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う」(同法第1条の2第1項)ものです。
「負担を分任する」の「分任」とは、分かち合うという意味で、市(県)税、使用料、手数料、分担金などを支払うという意味です。
選挙権と直接請求権
住民の権利としては、行政サービスを受けることのほか、その属する自治体の長や議員を選ぶ選挙権と条例の制定改廃、長や議員などの解職などを請求する権利(直接請求権)があります。
市町村長や市町村議会議員の選挙権の要件
日本国民で、年齢18歳以上で、引き続き3か月以上、その市町村の区域内に住所を有する者で、一定の刑に処せられる等公職選挙法第11条に定める欠格条項に該当しないこと。
国会議員の選挙の選挙権には住所要件はありませんが、自治体の長や議員の選挙の選挙権には「3か月」という住所要件があります。
都道府県知事や都道府県議会議員の選挙権の要件
前記の市町村長や市町村議会の議員の選挙権を有する者。
上記に加え、日本国民で、年齢18歳以上で、引き続き3か月以上、その都道府県の区域内の一つの市町村に住所を有していて、その後も引き続きその都道府県内に住所を有している者(同一県内引っ越し)で、欠格条項非該当者。
都道府県議会議員と市町村議会議員の被選挙権
都道府県議会議員と市町村議会議員に立候補するためには、それぞれその区分の選挙権を有している(=住所要件を満たしている)ことが必要です。
なお、知事や市町村長の被選挙権に住所要件はありません。
議員選挙において、住所要件を満たしていないことを理由として当選無効の異議の申出や審査の申立てがされる場合があります。その場合には、申出等を受けた市町村や都道府県の選挙管理委員会は実態調査を行うことになります。ここで、先に説明した居住の実態に基づく住所の認定が問題になります。
直接請求権
直接請求権は、住民がその自治体の長や議員の選挙権を有する者(有権者)の一定数の署名を集めて、所定の手続きを行うことによって、条例の制定改廃、長や議員などの解職などを請求することができるものです。直接請求制度は、地方自治制度においてのみ認められており、間接民主制を採用する中で、住民の直接参政の要素を残すもので、住民自治の基本理念を制度化したものとされています。
具体的に、請求できるものは、
- 条例の制定改廃の請求(地方税、分担金、使用料、手数料の徴収に関するものを除く)(改廃とは改正または廃止することです)
- 自治体の事務の監査の請求
- 議会の解散請求
- 議員、長、副知事や副市町村長、政令指定都市の総合区長、選挙管理委員、監査委員、公安委員会の委員、教育長、教育委員会の委員の解職請求(解職請求は「リコール」と呼ばれます。リコールについては、別のブログ『「リコール」は首長や議員をクビにできる制度』をご覧ください。)
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方自治法第10条(住民の定義と権利義務)
同法第1条の2第1項(地方公共団体の役割)
同法第11条(住民の選挙権)
同法第12条(条例の制定改廃請求権及び事務の監査請求権)
同法第13条(議会の解散請求権及び主要公務員の解職請求権)
同法第74条から第88条まで(直接請求の手続)
公職選挙法第9条第2項及び第3項(自治体の長や議員の選挙権)
同法第11条第1項(被選挙権)
同法第12条(選挙権及び被選挙権を有しない者)
直接請求制度(総務省ホームページ→政策→地方行財政→地方自治制度 2026年7月20日参照)
最高裁判例
昭和29(オ)412 昭和29年10月20日 最高裁判所大法廷判決
住所とは各人の生活の本拠を指すものと解するを相当とする旨の判決。
(内容)ある村にある大学附属寮に起居する学生について、実家等からの距離が遠く通学が不可能ないし困難なため入寮を許されたこと、休暇における帰郷具合、配偶者や財産の有無、主食の配給も同村で受けていたことなどを認定したうえで、学生の住所は当該村にあるとした原判決を支持したもの。
昭和35(オ)84 昭和35年3月22日 最高裁判所第三小法廷判決
住所は一つである旨を示した判決。
(要旨)選挙権の要件としての住所は、その人の生活にもつとも関係の深い一般的生活、全生活の中心をもつて その者の住所と解すべく、(略)、私生活面の住所、事業活動面の住所、政治活動面の住所等を分離して判断すべきものではない。
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