『平成の都道府県-平成の30年間の経済の状況1』『平成の都道府県-平成の30年間の経済の状況2』では、日本全体の国民所得(GDP)の変遷に触れた後、県別の県民所得の総額と一人当たりの県民所得について、比較しました。
全国的傾向として、「失われた30年」という言葉に代表されるように、ほとんど所得の伸びがない中で、個別の県の県民所得についても、東京都を例外として、低成長下で県民所得が減少した団体やわずかな伸びにとどまった団体が多いことが分かりました。
それは人々の暮らしにどのように表れているのでしょうか。
世帯や個人の所得を示す統計資料もいくつかありますが、筆者が注目するのは、生活保護世帯の状況です。
一人当たり県民所得の比較では捉えることのできない、生活困窮者の状況について示してくれるのがこの数値であり、長く行政に携わった身として、これに目を配る必要を感じるからです。
2-4 平成の30年間の生活保護の状況
2-4-1 全国の生活保護世帯数の推移
各県の状況を見る前に、まず、全国の状況を見てみます。
第2-6表は、1990年から5年毎の生活保護を受けている世帯(被保護世帯)の数、全世帯数、世帯保護率(千世帯中の被保護世帯の割合)を示したものです。なお、本来は2020年の数値を記載すべきですが、調査未実施のため2019年数値を記載しています。
第2-6表 全国の生活保護被保護世帯数の推移

1990年に61万4千世帯だった被保護世帯は、2019年には約100万世帯増加し、161万5世帯となりました。2.6倍に増えたことになります。この間、世帯数全体も増加しています(28.6%増)が、大変な伸びです。
世帯保護率は、1990年の15.2から2019年には31.2と倍増しました。
経過を見てみると、平成前期の1990年から2000年にかけては横ばいから後半にかけて増加傾向、平成中期の2000年から2010年にかけて、さらに平成後期の2015年までが5年ごとに30万世帯程度が増加するという激増期、その後横ばいといったところです。
世帯保護率について見ると、平成中期の2000年から2010年の間に12.2上がり、この10年で倍増に近い伸びを示しました。
生活保護を受ける世帯は、平成中期(2000年から2010年)に大幅に増加したわけです。
では、その要因は何でしょうか。
第2-7表 種別ごとの被保護世帯数

第2-8表 種別ごとの世帯保護率

厚生労働省は、生活保護を受ける世帯を「高齢者世帯」「母子世帯」「障害者・傷病者世帯」「その他の世帯」の4つに区分しています。第2-7表は、それぞれの種別ごとの被保護世帯数を、第2-8表は世帯保護率を5年ごとに示しています。
この30年間(正確には29年間)で保護世帯は100万世帯増加しましたが、このうち65万8千世帯は「高齢者世帯」の増加です。そして、18万2千世帯が「その他世帯」の増加であり、15万7千世帯が「障害者・傷病者世帯」の増加です。母子世帯はほぼ横ばいです。
「高齢者世帯」は高齢者全体の数が激増していることから、保護を受ける世帯も増え、被保護総世帯数が増加した主要な要因です。しかし、世帯保護率を見てみると、1990年の77.1から2019年60.4と約17ポイント減少しています。この点を見ると、高齢者全体としては貧困層の割合は減ってきているものの、貧困者の人数は非常に増えていることから、福祉・医療・年金の制度を絡めた高齢者対策として大きな問題といえると思われます。
次に寄与度の大きい「その他世帯」についてです。「その他世帯」とは、「高齢者世帯」「母子世帯」「障害者・傷病者世帯」のいずれにも該当しない世帯というのが厚生労働省の定義です。これをかみ砕くと、就業可能な年代で、障害や傷病を抱えていない、独身者(子どもなし)又は夫婦(子どもの有無にかかわらず)がその主な世帯ということになってきます。実際上の能力の差はあるにせよ、働くことが可能な者の世帯ということになり、それで生活保護を受給しているということは、何らかの事情により、働いていないか、又は、働いているが、生活保護の基準の収入に満たない世帯ということになります。
この「その他世帯」の伸びが著しく、2000年には4万2千世帯だったものが、2010年に20万6千世帯に、2015年には27万8千世帯にまで増えました。倍率で言えば7倍弱です。世帯保護率は、「障害・傷病者世帯」との合算でしか算出されていませんが、2000年の8.6が2010年に17.3、2015年には19.0まで上昇しています。
この「その他世帯」の激増は、就業可能世代の貧困の問題として極めて重要であると思われます。
それでは、こうした全国の状況が最も色濃く出ているのはどの県か、相対的にこうした状況を免れている県はどこか、各県の状況について見ていきます。
2-4-2 生活保護世帯の多いのは、東京都、大阪府、北海道
2020(令和2)年度において、生活保護世帯の多い団体は、
①東京都 22万9千世帯
②大阪府 21万7千世帯
③北海道 12万千世帯
④神奈川県11万9千世帯
⑤福岡県 9万4千世帯 となっています。
当然のことながら、人口の多い団体が上位に来ていますが、国勢調査人口と比較すると次のような特徴があります。
1位の東京は変わらないが、2位の大阪府は人口順では3位であり、人口順で2位の神奈川県は4位となっています。人口順4位の愛知県、5位の埼玉県は登場せず、人口順では8位の北海道が生活保護世帯数では3位に、人口順では9位の福岡県が5位となっています。
この5団体で約78万世帯と全保護世帯の半分近くを占めています。同じ5団体の人口占有率が約34パーセントであることから、これら5団体への生活保護世帯の集中率はかなり高いといえます。
2-4-3 生活保護世帯の少ないのは、富山県、福井県、島根県
生活保護世帯の少ない団体は、
①富山県 3.3千世帯
②福井県 3.4千世帯
③島根県 4千世帯
④鳥取県 5千世帯
⑤山梨県 6千世帯 となっています。
これも国勢調査人口の順とはだいぶ異なっています。保護世帯の少ない順第1位の富山県は、人口の順では少ない方から11番目、同じく第2位の福井県は人口順で5位です。3位の島根県は人口順で2位、4位の鳥取県は人口順で1位、5位の山梨県は、人口順では6位となっています。
人口の少ない順3位の高知県は保護世帯少ない順の23位、4位の徳島県は13位となっています。
2-4-4 世帯保護率の高いのは、大阪府、北海道、沖縄県
保護世帯数の多少は、やはり人口規模によるところは大きいので、実際にどの県に生活保護世帯が多いのかは、世帯保護率を見ることが適当と考えられます。
2020(令和2)年度において、世帯保護率の高い団体は、
①大阪府 52.6
②北海道 49.2
③沖縄県 48.2
④青森県 46.4
⑤高知県 45.8 となっています。
なお、この数値は、厚生労働省の「福祉行政報告例」の値を2020年国調の一般世帯数で割った数で、筆者が独自に算出したものであり、厚生労働省の数値とは異なることがあることを申し添えます(以下、断りのない場合には、この方法を用いています)。
大阪府は、生活保護世帯の数でも東京都に次いで第2位でしたが、数は21万7千世帯と22万9千世帯の東京都とさほど変わりませんでした。一般世帯数は東京都が約722万世帯、大阪府が413万世帯であり、大阪府は東京都の6割弱の世帯数しかないことから、世帯保護率が高くなったものです。
第2位の北海道は、保護世帯数でも第3位で、世帯数、世帯保護率とも高いです。
第3位の沖縄県は、人口が中規模県であることから、保護世帯数は12位でしたが、保護世帯率でこの位置となりました。第4位の青森県、第5位の高知県も同様の理由です。
2-4-5 世帯保護率の低いのは、富山県、長野県、福井県
一方、世帯保護率の低い団体は、
①富山県 8.1
②長野県 10.6
③福井県 11.7
④岐阜県 12.2
⑤石川県 12.8 となっています。
北陸3県とそれに隣接する中部地方の2県が上位を占めるという、極めて地域的に特徴のあるものとなりました。ちなみに6位は群馬県、7位は滋賀県で、それぞれ長野県と福井県・岐阜県に隣接しています。
こうした傾向は1990年時点でも見られ、上記7県の内4県は、順位は異なるものの当時の上位7団体に入っています。
2-4-6 世帯保護率の増加数が多いのは、大阪府、沖縄県、北海道
平成末期(2020年)の状況もさることながら、平成30年間にわたる数値の変化が重要です。以後はそれを見ていきます。
第2-9表 世帯保護率の増加数の多い団体

第2-9表をご覧ください。これは1990年と2020年の世帯保護率の伸びの大きい団体です。最も伸びが大きいのは、大阪府、以下、沖縄県、北海道、青森県、神奈川県の順となっています。
個々の団体に目をやる前に注目していただきたいのは、1990年の時点で神奈川県を除いて、全国の平均を大きく上回っている団体ばかりであるということです。90年の世帯保護率がこの4団体の内で最も低い大阪府でさえ、当時の世帯保護率による順位は(多い方から)10番目です。90年(平成初期)に世帯保護率が高かった団体が、この30年間にさらにその率を伸ばしています。
増加数31.2で第1位となった大阪府は、1990年には21.4で順位も10位でしたが、2000年に27.7で第4位、2010年に53.7で第1位となり、2020年も52.6で1位でした。大阪府の増加数は唯一の30台で、第2位以下と著しい差があります。
ここで思い出していただきたいのは、大阪府が総額でも県民一人当たりでも、平成の30年間で最も県民所得を減らした団体であるということです。大阪府の場合には、県民所得の減と生活保護の世帯保護率の増加が同時に起こっています。
第2位の沖縄県は、1990年には26.4で7位でしたが、2000年25.5で6位、2010年38.5で同じく6位、2020年に48.2で2位となっています。全国的には、2010年から2020年にかけては伸びが鈍化していますが、沖縄県の場合には、この間の伸びも比較的高いことが特徴です。沖縄県は全体の県民所得の伸びでは全国第2位ですが、一人当たり県民所得では依然として最下位という状況にあります。これを合わせて考えると県民間の格差が広がっているのかもしれません。
第3位の北海道は、1990年には29.3で3位、2000年には30.1で1位、2010年には45.6で3位、2020年には49.2で2位となっています。
2-4-7 世帯保護率の増加率では、埼玉県、千葉県、静岡県
次に、増加数ではなく、この30年間の世帯保護率の増加率を見てみます。第2-10表をご覧ください。
第2-10表 世帯保護率の増加率の高い団体

前の増加数の表と重なっているのは神奈川県だけです。
本表記載の団体に共通しているのは、1990年の世帯保護率が比較的低く、2020年においても平均値を下回っているということです。
割る1990年の数値が小さいので、この30年間の増加数が同程度でも、他団体に比べ増加率は高くなっています。ちなみに静岡県は1990年において最も世帯保護率の低い団体です。
ただし、埼玉県、千葉県、神奈川県の17台の数値は、増加数としては上位になるので、留意が必要です。
2-4-8 その他世帯の世帯保護率の高いのは、高知県、長崎県、北海道
全国の状況で述べましたが、その他世帯は、就業可能な世帯なのに生活保護を受けているという点で、貧困問題の点から把握が重要だと思われます。
2020(令和2)年度において、その他世帯の世帯保護率の高いのは、
①高知県 7.8
②長崎県 6.4
③北海道 6.2
④福岡県 6.0
⑤大阪府 5.9 の順です。
なお、全国の平均値は4.1です。
第1位の高知県は、保護世帯全体の保護率でも第5位に入っています。他に重複しているのは、3位の北海道(全体2位)と5位の大阪府(全体1位)です。2位の長崎県は全体では7位、4位の福岡県も全体で6位ということで、順位の差こそあれ、全体の保護率が高い団体は、その他世帯の保護率も高いということがいえそうです。
長崎県、北海道、大阪府は1990年の保護率も高く、また、30年間の増加数の第1位から3位を占めています。これも1990年当時に高い団体の伸びが大きいという世帯保護率の全体の傾向に似ています。
ただし、増加数では、東京都がこれら3団体に次ぐ、第4位になっています。東京都は、1990年当時はその他世帯の世帯保護率0.9で、平均を下回り、順位は27位でした。それが2020年には4.7で、順位も10位まで上がってきています。県民所得では他を圧している東京都ですが、その陰にあって就業可能世代の貧困層は急速に増えているのではないかと思われます。
2-5 この章のまとめ
以上のように県民所得と生活保護世帯の推移を見てきた結果、次のようなことがいえます。
第1に、この30年間の日本の国民所得の伸びは、額にして28兆円弱、伸び率で7.9%、年率に換算すると0.28%という結果で、前10年に比べ、10分の1以下の伸びであり、まさに「失われた30年」でした。
第2に、その中にあって、人口の増加した東京都は、県民所得でも人口増加以上の伸びを見せ、一人勝ちの状況です。その結果、人口格差以上の県民所得格差が生じました。
第3に、3大都市圏の一角関西圏の中核大阪府が最も県民所得を減らしました。この現象の要因は、財産所得と企業所得の減少が主であり、大企業はわずかに増えましたが、減少した中小企業の従業員を吸収しきれず、従業者数は減少しました。大阪府は企業活動の地としての魅力が薄れたことが大きく、それは大阪府の人口がこの間横ばいであったことと関係するのではないかと推察します。
第4として、沖縄県は人口増加もあり、県民所得の伸率は東京に次いで第2位でした。一人当たりの県民所得で見ると、1990年も2020年も最下位でありますが、都を除く各県との差は縮まっています。
第5として、一人当たり県民所得の比較では、上位に位置したのは、東京都以外は、中小規模の人口減少団体でした。これはこの間の低成長により、人口増加団体において、その増に見合う所得の増が見られなかった一方で、人口減少団体においても、総所得の増と人口減の相乗効果を発揮する余地があったためです。
第6として、一人当たり県民所得の比較では、増加額で第3位、増加率で第2位に島根県が位置しました。同県のように人口減少県でも県民所得を伸ばしている団体はあり、全県が人口減少県となっても、それぞれの県が県民所得総額を伸ばしていくことが重要です。
第7として、生活保護世帯の状況では、1990年に61万4千世帯だった被保護世帯は、2019年には約100万世帯増加し、161万5千世帯となり、2.6倍に増えたことになります。世帯保護率(千世帯当たりの被保護世帯数)は、1990年の15.2から2019年には31.2とほぼ倍増しました。この30年間で、平均としての県民所得はほぼ横ばいでしたが、貧困層は大幅に増加しました。
第8として、都道府県別では、1990年当時に世帯保護率の高かった団体が、その増加数も多い傾向があり、2020年に最も世帯保護率が高かった大阪府は、30年間の増加数も最も多くなっています。大阪府は最も県民所得を減らし、最も世帯保護率が多く、かつ、増加した団体です。
第9として、世帯保護率の低いのは北陸地域とその周辺地域であり、地域的な特徴があります。
第10として、就業可能な世代の世帯保護率が急激に高まっており、この世代の貧困の問題として重要です。
参考文献
内閣府経済社会総合研究所「国民所得(要素費用表示)」及び「県民経済計算」、厚生労働省「被保護者調査」(平成23年度以前は「福祉行政報告例」)を基礎資料とし、筆者の責任で数字の集計や加工を行った。

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