自治体の契約は一般競争入札が原則

はじめに

本記事は、自治体が契約を締結する場合の基本的な考え方やその原則と例外、実務的な取り扱いを解説する記事です。

まず押さえよう

自治体が仕事をするに当たって、民間事業者に業務を発注したり、物品を購入したりするための契約行為は欠かせないものです。

自治体の契約については、地方自治法に定められています。

一般競争入札で行うのが原則で、例外的に指名競争入札や随意契約の方法によることができます。

自治体の仕事を分けてみると

都道府県や市町村はたくさんの仕事をしています。福祉の仕事、教育の仕事、警察や消防の仕事、農林水産業や商工業振興の仕事、道路、公園、河川整備などの仕事、水道の供給やまちづくりといったように。

これらの仕事の中には、都道府県や市町村の職員がメインにやる仕事と、民間企業などに発注してやってもらう仕事があります。
福祉の相談や各種助成金の交付業務や学校の授業、警察の取締りや消火救急の対応は前者ですね。
一方で、建築、建設の仕事や専門的な調査の仕事などは大半が業務を他へ発注することになります。また、庁舎の受付や警備、清掃などといった仕事も同様で、今では多くの自治体が外部へ委託しています。
また、業務に必要な物品の購入や交通機関を利用しての出張などは当然に行われます。

部局や課によって、だいぶ偏りがあり、発注をメインにする所属と、ほとんどそのような予算がなく、パソコンと印刷用紙ぐらいしか使わない所属があります。

自治体の契約についての考え方

仕事を民間の事業者に発注したり、民間の事業者から物品等を購入などするためには、契約の手続を踏みます。

自治体における契約の手続は複雑です。
税金をつかっているので、公正な手続のもと経費を最少限に抑える必要があり、また、透明性を確保しないと汚職や着服の問題や不適正な事務処理が生じかねないからです。
現に毎年のようにどこかの自治体では贈収賄容疑で職員と業者が逮捕されていますし、かつて複数の県で物品の不適正な購入手続や職員の着服が見られたこともありました。

一方で、自治体は地元経済の振興を、施策だけでなく、事業の発注によっても担っている側面があります。
事業者が、民間からの受注だけでなく、自治体からも仕事を受け、一定の利益を確保することが、地元経済が発展していくためのひとつの方策でもあります。

このようないろいろな要請のバランスの上に成り立っているのが、自治体の契約の制度です。

これから、契約制度の解説をしていきますが、建設・土木などの工事関係の契約と、調査や業務の委託や物品の購入などの契約では、大もとの制度は変わりませんが、運用にはちがいがあるのが現状です。本記事では、主に建設・土木の工事などを行う場合の契約を想定した解説となります。

自治体の契約は「一般競争入札」によるのが原則

自治体の契約の締結方法については、地方自治法に定めがあります。

「入札」というのは、複数の会社が、自社ならこの額で自治体から示された内容の工事などができるという額を紙に書いて(あるいは電子の方法で)自治体に出し、自治体はその中から一番安い金額を示した業者と契約するという方法です。
先ほどの、税金をつかっているから経費を安く抑えなければならないというための方法が、このように業者を競わせる「入札」になります。

入札の中にも、自治体側が特定の数社を指名して入札させ、その中で競わせる方法と、入札できる条件を示してその条件を満たす事業者に広く入札してもらう方法のふたつがあります。前者を「指名競争入札」といい、後者を「一般競争入札」といいます。
後者の方が広く門戸が開かれている点で透明性が高いので、この「一般競争入札」による方法が地方自治法の定める原則になっています。

入札に基づかなくてもいい場合があります。工事の価格が一定の基準より安い場合や性質上入札に適さない内容の発注などです。そういう場合には「随意契約」という契約方法で、複数の会社から「見積書」を取って価格比較をしたり、一社のみから「見積書」を取って、そのままその会社と契約する場合があります。

なぜ、3つの方法があるのか

一般競争入札が透明性が高いのであれば、すべての業務をその方法でやればいいのではないかと考える方がいるかもしれません。

地方自治法では、指名競争入札ができる場合と随意契約ができる場合を細かく定めています(法律の本体ではなく、「地方自治法施行令」で定めています)。

指名競争入札によることができる場合としては、工事などの「性質又は目的が一般競争入札に適しないもの」、入札参加者の数が「一般競争入札に付する必要がないと認められる程度に少数」、「一般競争入札に付することが不利」という3つの場合を挙げています。

また、随意契約によることができる場合としては、先ほど触れたように、自治体がこの金額で発注しようと考えている額(これを「予定価格」といいます)が一定の基準の額以下の場合、「性質又は目的が競争入札に適しない」場合、「緊急」の場合、「入札に付することが不利」な場合などを挙げています。

一般競争入札と指名競争入札の実際の運用

法令上の規定は上記の通りですが、その法令を踏まえ、実際には、自治体により、予定価格で、一般競争入札とするか指名競争入札とするかの基準を決め、運用している例が多いと思われます。

一般競争入札は、指名競争入札に比べて、手続が非常に煩雑であり、施工能力に問題のある事業者が参加しやすいというような問題もあり、また、自治体の規模や域内の事業者の状況によっては、一般競争入札を実施しても手を挙げる者がいないおそれもあるからです。

土木・建設工事業者はその規模や事業内容は様々です。

正確なデータはありませんが、自治体(特に都道府県)の多くでは、資本金や経営状況、工事実績などにより、事業者を「Aランク」「Bランク」というようにランク付けしています。
そうしたランクに応じ、予定価格が「〇〇万円以上□□万円未満」の工事には「Aランク」から何社指名、予定価格が「××万円以上〇〇万円未満」の工事には「Bランク」から何社指名というような形の運用をしていると思われます。

このように、工事規模の範囲を決め、それに応じたランクの事業者を指名して入札に参加させるのは、工事の信頼性の確保とともに、地元企業が自治体の事業に参加できる機会を与える意味があるからです。

随意契約の留意点

随意契約については、「性質又は目的が競争入札に適しない」、「緊急」などの場合には、予定価格がいくらであっても随意契約によることは可能です。
しかし、当然に、どうして入札に適さないのか、ほんとうに緊急なのかなどという説明責任があります。
そうした理由が希薄ななかで、特に一社と随意契約することは、職務の公正さに疑念をもたれるおそれがあるので、厳に慎まなければなりません(これは工事の発注でも、委託業務の発注でも同じです)。

まとめ

この記事では、自治体が事業を発注し、契約を締結する場合の基本的な考え方を述べ、その方法について、一般競争入札が原則であることと、その例外である指名競争入札と随意契約について解説しました。

一口に一般競争入札といっても、そのやり方にはいろいろあります。また、こうした入札制度における問題点も指摘されており、それへの対処方法も検討が重ねられています。
こうしたことについては、今後、別の記事で解説していきます。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第234条(契約の締結)
地方自治法施行令第167条(指名競争入札によることができる場合)
同令第167条の2(随意契約によることができる場合)

地方公共団体の入札・契約制度(総務省ホームページ→政策→地方行財政→地方自治制度(2023年2月25日参照)

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