はじめに
自治体には、いろいろな仕事を行う「執行機関」があります。その中心は都道府県知事や市町村長などの「首長」ですが、それとは別に、いくつか「委員会」が設けられています。これを「行政委員会」といいますが、その制度や果たす役割について解説します。
自治体の組織
自治体の組織としては、「議会」と「執行機関」があります。
「議会」については、選挙で選ばれた議員が、執行部の提案する条例案や予算案や各種議案について審議し、可否を決定するのが大きな役割です。そのほかに、その自治体の事務について、検査権や調査権などを有します。
「執行機関」は、法律や条例等の規則に則り、自治体が行うべき事務について、「自らの判断と責任において、誠実に管理し、執行する義務を負う」機関です。
平たくいえば、いろいろな仕事をする機関です。
自治体の執行事務の多くは、都道府県知事や市町村長が行います。自らを補助する職員を採用し、部や課を編成して、担当事務を割り振り、仕事を行っていきます。
しかし、自治体の行うべき事務の全部を首長が行うわけではありません。一部の事務については、法律に基づいて、「委員会又は委員」を設け、首長から独立した立場で仕事をすることになっています。そのために設けられるのが、「行政委員会」です。
行政委員会の種類
自治体は次のとおり委員会又は委員を設けることとされています。
《都道府県に設ける委員会》
教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、公安委員会、労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会、監査委員
《市町村に設ける委員会》
教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会又は公平委員会、農業委員会、固定資産評価審査委員会、監査委員
最後の「監査委員」は「監査委員会」ではありませんので、ご注意を。
自治体には、〇〇審査会、△△審議会といった名称の機関がたくさんありますが、これらは、執行機関の「附属機関」という位置づけの「調停、審査、諮問又は調査」のための機関です。自治体の執行事務の一部を行う行政委員会とは異なります。
行政委員会の特徴
行政委員会は、仕事の性質上首長の業務としない方がよいものや政治的に中立性を図る必要があるものについて、設けられているものが多くみられます。
例えば、選挙の管理については、首長の選挙について、自らが管理するより第三者的な委員会が管理する方が妥当ですし、監査事務は、そもそも首長部局の仕事が適正に行われているかを自治体内部でチェックするための組織です。
教育についての政治的中立も要請されます。
警察を所管する公安委員会については、戦後、警察行政をどのように位置づけるかで制度の改正が何回か行われましたが、強い権力を持つ仕事なので、首長部局ではなく、委員会によることされています。
行政委員会の委員の選任方法
こうした行政委員会の中立性の確保については、委員の選任に議会を関与させることによっても担保されています。
例えば、選挙管理委員については、議会で選挙すると定められています。
教育委員会、公安委員会の委員や監査委員については、首長の任命に当たって議会の同意が必要です。
行政委員会のできないこと
一方で次の事項については、行政委員会は行うことができません。
1 予算を調製し、執行すること
2 議会の議決を経るべき事件について、議案を議会に提出すること
3 税金などを徴収すること
4 決算を議会の認定に付すこと
これらについては、議会や住民との関係において、執行機関として、まとまった対応をとることが自治体の一体性の確保の点から好ましいという判断がなされているためです。
実務的には、各委員会がそれぞれの名前でできないということで、例えば予算書は、財政部門が、警察費や教育費や監査業務の費用など行政委員会経費も含めて1冊で作成します。決算書も首長部局の出納部門などが同様に取りまとめます。
議案を提出する場合には、首長の名前で議会に提出しますが、審議の過程では、細かい話は当然委員会の職員が議員へと説明します。
予算の執行については、首長部局の権限の一部を委員会に委任又は補助執行させることができるという規定をつかって、各委員会で執行させている自治体は多いと思われます。
人事異動と行政委員会の独立性
こうした独立性の高い業務を行う行政委員会ですが、職員の採用やその後の人事異動について、必ずしも、その委員会で採用し、その委員会内部だけで人事異動が行われるわけではありません。
人事異動のやり方は、各自治体様々ですし、何より、自治体の規模によっても大きく異なります。
小規模な市町村では、基本的に職員は首長部局や行政委員会部門に関係なく異動することが多いでしょう。
県では、学校事務(教育委員会)や警察事務(公安委員会)について、職種限定の採用を行っている例がありますが、そうした職種で入庁した者は、その委員会内部で異動することが多いです。
いわゆる一般行政職で入庁した者については、多くの団体で知事部局や行政委員会部局に関わらず異動していると思われます。
極端な例では、知事部局から監査委員事務局に異動して、昨年自らが行った事務を監査するということもあり得るわけです。そうした場合には、担当事務に配慮が必要でしょうね。
行政委員会の独立性は、委員の選任の方法や個々の業務について首長の指揮命令を受けないという点で担保されており、その業務に従事する職員は、法令と上司の命令によって業務を行うので、人事面での独立性はそれほど意識されていないということです。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方自治法第138条の2(執行機関の義務)
同法第138条の4(委員会、委員及び附属機関の設置)
同法第180条の2(長の事務の委員会等への委任及び補助執行)
同法第180条の5(自治体に置くべき委員会、委員)
同法第182条(選挙管理委員の選挙)
同法第196条(監査委員の任命)
地方教育行政の組織及び運営に関する法律第4条(教育委員の任命)
警察法第39条(公安委員の任命)
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