何も知らない人のための「自治体の予算」とは

はじめに

本記事は、予算の必要性、予算のつくり方、議会の予算議決、一般会計と特別会計の区別や当初予算、補正予算などの予算の種類について解説する記事です。

まず押さえよう

自治体の予算は、一年度(4月1日から翌年3月31日まで)の間の収入の見通しと支出予定の内訳をひとまとめにしたものです。

自治体の行う仕事には必ず予算の裏付けが必要です。

予算は首長(都道府県知事や市町村長)が議会に提案し、議会で議決してもらう必要があります。否決された場合には、そのままだと一切の仕事ができません。

予算とはベストなお金の使い道一覧

銀行のATMでお金をおろそうとしたら、残高がマイナスだった。クレジットの引き落としがされていたのだった。ひと月前に衝動買いしたコートの代金だ。まだ一度も着ていないコートの。

こんな経験をした方はいらっしゃいませんか。

これには問題点が二つあります。
1. 自分の収入や預金残高がいくらあるかがわかっていなかった。
2. コートが本当に必要なものかよく考えなかった。

それでは今度はある自治体での話です。

最近の物価高で市民はみんな困っています。各世帯に10万円ずつ支給することとしてはどうでしょうか。みんな喜ぶと思いますし、市長の株も上がるでしょう。早速市長に相談しましょう。

みなさん、どうお思いですか?
もし、このまま市長に相談したとしたら、支給に必要なお金はどこから持ってくるのでしょう。それはコートの1.の問題です。
また、全世帯に10万円支給することは本当に必要でしょうか。仮に支給するとしても、生活困窮世帯に限るとかの方法があるのではないでしょうか。また、10万円は妥当な額でしょうか。これはコートの2.の問題です。

予算はこうしたことが起きないために必要なものです。

自治体の仕事をお金の流れの面からみると、自治体に入ってきたお金をいろいろな分野に分けることです。
予算をつくることで、どういう分け方をしたら一番住民のためになるかをあらかじめ考えます。
予算は、いわば、自治体が考えた「ベストなお金の使い道一覧」を示したものです。

予算のつくり方

自治体では、たくさんの部や課が福祉、教育、産業振興、施設建設などそれぞれの分野の仕事をしています。仕事に必要は費用については、継続的に行う事業は前年度実績などを見ながら、新しく行う事業は事業のやり方を考え、費用を見積もっていきます。
そうしたものを積み上げていくと歳出(自治体の支出を歳出といいます)が決まってきます。

一方、収入の見積もりは、家計であれば、給与収入とか年金収入とか比較的シンプルですが、自治体の歳入(自治体の収入を歳入といいます)は、住民の方々に納めていただくいろいろな税金や使用料・手数料、国や都道府県から交付される補助金や交付金、地方交付税などいろいろな種類があります。それらも担当部署が見積もります。

このようにしていくと、たくさんの仕事をする自治体は、歳入より歳出が多くなってしまうことがあります。それではまずいので、予算を取りまとめる財政課というような部署があります。

財政課は翌年度予算の編成の方針を示し、事業を行う部局に予算要求書を提出するよう指示します。
予算要求書を集計し、税収などの見通しを聞けば、歳入歳出の全体像が把握できます。
その後、事業の必要性や必要な額について話し合いをし、最終的には首長まで話を持っていき、事業を実施するかどうかやその額について決めます。これを予算の「査定」といいます。
また、一連の予算をつくる動きのことを「予算編成」といいます。

予算編成の過程で先ほどの1.と2.の問題が起こらないようにしています。
査定後の一般会計(後ほど説明します)の歳入歳出予算は、通常、歳入歳出同額でつくられます。

議会の予算議決

翌年度の予算(この1年間の収支をまとめた予算を「当初予算」といいます)は、だいたい秋ごろから年明けにかけて、財政課と担当部局とのやりとりを経て、首長の査定、最終とりまとめ、予算書の印刷製本、報道機関への公表などが行われ、自治体の2月又は3月に開会される議会に提出されます。

ルールでは、都道府県と政令指定都市については、年度開始前30日、その他の市町村については年度開始前20日までに首長が議会に提出する努力義務が定められています。

また、予算書だけでなく、予算の内容を説明した説明書も合わせて提出します。

この2月(3月)議会は、予算議会といわれるくらい予算の審議がメインの議会です。
審議のやり方は各自治体の議会によって異なりますが、予算を審議する専門の委員会をつくって審議する団体もあります。

多くの議会では、首長提案の予算が原案通り議決されますが、中には一部修正がされたり、否決されたりするケースもあります。
否決されたまま4月1日を迎えると、予算の執行ができませんので、それまでに暫定予算(後ほど説明します)をつくるなどの対応をします。

事業の種類による予算の分類―一般会計と特別会計

最近、副業が奨励されています。今までは、本業に専念するのが望ましいという世の中だったのに、時代は変わるものです。

副業を家計の足しにするのであれば、副業の収支がプラスでないと意味がないですね。
例えば、ぬいぐるみをつくって販売する副業をする場合に、生地や綿や厳密にいえばミシンの損料などの合計より売り上げが上回らないといけません。
そのためには、売り上げと合わせて、そうした費用を家計簿でも別に計算します。

自治体でもそうした種類の仕事があります(副業ではなく、これも本業ですが)。
例えば、水道事業とか病院事業とか大都市で行っているバスや地下鉄の事業などです。
これらは、行った事業から得た収入でその費用を賄って、しかも一定の利益を上げることが想定されている事業です。

こうした事業を行う会計は通常の会計と別にすることになっています。これを「特別会計」といいます。これに対して通常の仕事(福祉や教育や産業振興、道路や公園の建設など)を行う会計を「一般会計」といいます。

なお、特別会計には、先ほどの水道事業、病院事業、交通の事業のように「地方公営企業法」という法律で特別会計を設けることが義務付けられているもの、国民健康保険の特別会計のように個別法令で特別会計が義務付けられているもののほか、自治体の判断で収支を別にする必要があると考え、特別会計を設ける場合があります。

予算の作成時期や内容による分類―当初予算、補正予算等

1 当初予算

「当初予算」は、新年度が始まる前に作成して議会の議決を得る、新年度の収支の項目や額などを網羅した予算です。
自治体の一番基本となる予算で、ほとんどの自治体は、予算案を公表し、マスコミに発表したりして、新年度にどういう事業に重点的に取り組んでいくかを示します。
1月から2月頃には、新聞の地方版に県や市町村の予算の概要が載ります。
通常、予算といえば、当初予算を指します。

これに対して、「暫定予算」、「補正予算」、「骨格予算」というものがあります。

2 暫定予算

「暫定予算」は、当初予算が否決されたときなどに、一定の期間を区切って予算を組むものです。
一定の期間というのは、その期間内に再び当初予算を議決してもらうのに必要な期間ですので、何か月と決まっているわけではありません。

暫定予算を組む必要があるのは、執行部側(知事や市町村長と県庁や市役所・役場の職員側のこと)と議会の多数派の間に、当初予算計上の特定の事業について、意見の相違がある場合が多いです。
議会が紛糾したり、その結果、予算が否決されたりします。
首長与党が議会の中で少数派であったり、首長と議会の反りが合わなかったり、意思疎通が今ひとつのときに起こりやすいものです。

暫定予算の期間中に双方がよく話し合い、落ち着きどころを探すなどして、再び議会を開いて、当初予算を可決する流れになるのが大方です。

3 補正予算

補正予算は、当初予算がつくられた後の状況の変化で、当初予算に事業や予算額の追加あるいは減少などを加えるためにつくられる予算です。

当初予算は前年度の秋から冬頃に固められます。夏ごろには1年近く経つので、いろいろな状況に変化が生じます。
そのひとつとして、最近は国が経済対策や特殊事情として新型コロナウィルス対策で、国の予算を補正し、それに基づいて、自治体にもいろいろな事業を行わせたりします。
そうしたこともあり、補正予算が頻繁に組まれるようになっています。

4 骨格予算

骨格予算は、当初予算をつくる時期や新年度当初に首長選挙(知事選挙や市町村長選挙)が行われる場合に、新規の事業や重要な事業(賛否が分かれる事業)をあえて予算に計上せず、それ以外の事業は通年計上するものです。

暫定予算とのちがいは、通常の事業は1年間分組むが、特定の事業は計上しない点で、すべての経費を一定期間しか組まない暫定予算とちがいがあります。

例えば、4月に市長選挙が予定されており、現職市長が不出馬を表明しているとします。
その場合に、議会や市民の賛否が拮抗するような事業については、現職市長の責任で予算計上するという考え方と、新市長にゆだねようという考え方があります。
現職市長が新市長の判断に任せようとした場合には、骨格予算を編成することになります。

市長選挙後に当選した市長がそうした事業を補正予算として編成する場合に、その補正予算のことを「肉付け予算」といいます。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第211条(予算の調製及び議決)
同法第96条(議決事件)
同法第209条(一般会計と特別会計の区分)
同法第218条(補正予算、暫定予算等)
地方公営企業法第2条(適用企業の範囲)
同法第17条(特別会計)

総務省ホームページ(地方行財政関係)

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