第3章 平成の都道府県-平成の30年間の平均寿命の推移1

経済とならんで重要なのが、いや、もっとも大切なのは、「命」です。国や都道府県・市町村の行政は、究極的には命を守るためにあります。そういう観点から地域に居住する人々の寿命の長短は重要だと考えており、平成30年間の比較項目として、「平均寿命」を選んでいます。

30年間の間に、各都道府県民の「寿命」はどのような経過をたどったでしょうか。厚生労働省が作成する「完全生命表」及び「都道府県別生命表」に基づき見ていきます。

3-1 日本全体の状況―伸び続ける平均寿命

3-1-1 平均寿命とは

都道府県の状況を説明する前に、日本全体の平均寿命はこの30年間でどのように推移したのかを見ます。

まず、平均寿命ということばについて説明します。
厚生労働省が公表している「生命表」は、ある人口集団(日本全体や各都道府県)の死亡状況が今後変化しないと仮定したときに、各年齢の者が死亡する確率や平均してあと何年生きられるかという期待値などを死亡率や平均余命などの指標によって表したものです。

「平均寿命」とは、0歳の平均余命をいうとされ、これに合わせて、主な年齢の平均余命も公表されています。

なお、完全生命表、都道府県別生命表ともに、国勢調査人口等を基礎とし、国勢調査年の資料として作成されますので、本章においても、平成の期間は1990(平成2)年から2020(令和2)年までとしております。

3-1-2 平均寿命は30年間で5歳あまり伸びた

2020(令和2)年の完全生命表と1990(平成2)年のものを比較します。2020(令和2)年の平均寿命は、男性81.56歳、女性87.71歳、1990(平成2)年は男性75.92歳、女性81.90歳で、この30年間に、男性は5.64歳、女性は5.81歳伸びています。

これとともに、主な年齢の平均余命について見ると、20歳では、男性61.90年、女性68.01年です。これは現在20歳の男性があと61年あまり生きるということです。20を足すと81.90となり、平均寿命を超えますが、これはこの20年間死亡しなかったので、0歳児に比べればそのリスクがないということでしょう。

同様に、40歳の男性は42.50年、女性は48.37年の平均余命があり、65歳の男性は19.97年の、女性は24.88年の平均余命があります。65歳の女性は89.88歳まで生きることになり、平均寿命より2歳余り多く生きることとなります。

この平均余命の1990(平成2)年からの伸びを見ると、20歳では、男性5.13年、女性5.47年、40歳では、男性4.92年、女性5.31年、65歳では男性3.75年、女性4.85年となっています。
30年間でみると、最初の15年間は男女間の差が開く傾向がありましたが、最近では縮む傾向となっています。

なお、厚生労働省の「令和2年簡易生命表の概況」資料の平均寿命の国際比較によれば、香港が男性82.71歳、女性88.14歳で男女とも日本を上回っているほか、スイスの男性が81.9歳で、日本はこれに次いでいます。女性はスイスより高く、国単位としてみれば、資料記載の中では第1位です。

全国の水準として世界トップクラスであり、また、この30年間順調な伸びを見せてきた平均寿命や平均余命ですから、次に述べる都道府県ごとのデータを見ても、どの団体も一定の伸びを見せています。

これから各都道府県を比較し、高低を論じますが、この寿命については、各都道府県と市町村が医療制度の充実、健康指導の実施、各種年齢層に向けたきめ細かい啓蒙・啓発などにそれぞれ努力し、もちろん、国も皆保険制度をはじめとする各種医療関連政策や財政面で役割を発揮し、医師はじめ医療従事者がたゆまぬ努力で命を救い、国民(県民、住民)も、生活態度を改善し、また、健康保険料等の負担に耐えた結果であり、こうした努力が報われた部門です。このことは誇りに思いたいですね。

3-2 平均寿命の高い県、低い県

3-2-1 平均寿命の最も高いのは男性:滋賀県、女性:岡山県

まず、「令和2年都道府県別生命表」により、都道府県における平均寿命の状況を見ていきます。

平均寿命の高いほうのランキングでは、男性では、

①滋賀県 82.73歳
②長野県 82.68歳
③奈良県 82.40歳
④京都府 82.24歳
⑤神奈川県82.04歳 となっています。全国平均は、81.49歳です。

女性では、

①岡山県 88.29歳
②滋賀県 88.26歳
③京都府 88.25歳
④長野県 88.23歳
⑤熊本県 88.22歳 となっています。全国平均は、87.60歳です。

男女ともベスト5に入っているのは滋賀県、長野県と京都府です。

1990(平成2)年時には、男性は、①長野県、②福井県、③岐阜県、④神奈川県、⑤沖縄県の順でした。30年を経て、長野県と神奈川県が両年のランクに入っています。

女性は、①沖縄県、②島根県、③熊本県、④長野県、⑤岡山県の順でした。熊本県、長野県、岡山県が両年のランクに入っています。
当時の男性のトップ長野県が30年を経て第2位で残っているのと対照的に、女性のトップ沖縄県は姿を消しています。

滋賀県は、男性について、1990(平成2)年には12位でしたが、調査のたびに着実に順位を上げ、前回トップとなり、今回はその座を守りました。また、女性については、1990(平成2)年には37位と平均以下でしたが、急激に順位を上げ、前回4位から今回は2位まで上昇しています。

長野県は、男性について、1990(平成2)年調査の際トップに立って以来、前々回の2010(平成22)年調査まで5回連続その地位を守っていましたが、前回と今回は2位となっています。女性も上位の常連であり、前々回と前回はトップでしたが、今回は4位となりました。

京都府は、男性については、以前から10位圏内におり、前回6位から3位へと順位を上げ、今回は4位となっています。また、女性については、1990(平成2)年には全国平均値と同じ平均寿命で、29位でしたが、調査ごとに順位を上げ、前回の9位から今回3位となりました。

女性でトップの岡山県は、1990(平成2)年から、4位から8位の間にありましたが、前回1位長野県と微差で2位となり、今回晴れてトップとなりました。男性については、1990(平成2)年以来その平均寿命は、全国平均より高いものの、概ね10位台で推移しており、今回も第10位となっています。順位について、男女においてある程度の差がみられますが、このことは珍しいものではありません。

3-2-2 平均寿命の低いのは男女とも青森県

一方、平均寿命が低い団体については、男性は、

①青森県 79.27歳
②秋田県 80.48歳
③福島県 80.60歳
④岩手県 80.64歳
⑤沖縄県 80.73歳 となっています。

女性では、

①青森県 86.33歳
②福島県 86.81歳
③栃木県 86.89歳
④茨城県 86.94歳
⑤岩手県 87.05歳 となっています。

平均寿命の高い団体には地域的な偏りはそれほどありませんでしたが、平均寿命の低い団体については、男性の4位までが東北地方、女性は1位から5位までを東北地方3県とそれに隣接する関東2県で占めています。

なお、1990(平成2)年時には、男性が①青森県、②大阪府、③長崎県、④和歌山県、⑤福岡県の順でした。青森県だけが、両年のランクに入っています。

女性では、①大阪府、②栃木県、③青森県、④茨城県、⑤愛知県の順でした。栃木県、青森県、茨城県の3団体が両年のランクに入っています。

青森県については、男性は1975(昭和50)年調査以来、女性は2000(平成12)年調査以来連続して都道府県の中で最も平均寿命が低いです。

青森県と並んで、男女ともに5位までに入っているのは、福島県と岩手県です。

福島県は、男性について、もともと平均寿命が高い県ではありませんでしたが、2005(平成17)年調査からその傾向が顕著になり、前回のワースト7位から、今回は3位となりました。女性についても、男性と似たような傾向を有しており、前回のワースト5位から2位となりました。

岩手県は、男性について、前回調査まで3回続けてワースト3位であり、今回はひとつ順位が改善し、4位となりました。女性については、前々回調査から順位の一段の低下がみられ、ここ3回の調査では、ワースト5位と6位を行ったり来たりしています。

3-2-3 平均寿命格差

最も平均寿命が高い県と低い県の差は、男性が滋賀県対青森県で3.46歳。男性の全国平均は81.49歳なので、滋賀県が平均より1.24歳高く、青森県が2.22歳低くなっています。

女性は、岡山県対青森県で1.96歳。女性の全国平均は87.60歳なので、岡山県が平均より0.69歳高く、青森県が1.27歳低くなっています。

なお、ここで用いた男女の全国平均は「都道府県別生命表」において厚生労働省が用いている数値で、全国一本の「完全生命表」の数値とは若干異なっています。

1990(平成2)年の平均寿命の都道府県格差については、男性が1位長野県77.44歳、最下位が青森県の74.18歳。その差が3.26歳。女性が、1位沖縄県84.47歳、最下位が大阪府81.16歳。その差が3.31歳です。30年前と比べ、男性が0.2歳差が開き、女性は1.35歳差が縮みました。

ここで男性の平均寿命について見ていただきたいと思います。第5位の沖縄県、第4位の岩手県、第3位の福島県までは、平均寿命との差が1歳以内であり、しかも各順位の間の差が0.1歳未満です。第2位の秋田県と第3位の福島県との差も0.12歳ですが、青森県はその岩手県と1.21歳も離れています。

この青森県の値について、どう考えたらよいでしょうか。

3-2-4 格差の程度を見る方法ー四分位法

青森県の平均寿命は、男女とも全都道府県中最下位で、全国平均との差やすぐ上の順位の県との差についても述べたとおりです。ここでは、それがとびぬけて低いのかそうでもないのかという点について、統計における数値の散らばりを見る方法を紹介しながら、説明したいと思います。
それは、四分位法です。統計の学習の比較的初めの方に出てくるものなので、十分に知っていると思われる方は、この項は読み飛ばしてください。

《四分位数と四分位範囲》
いきなり、47個の数字を扱うとわかりづらいので、まず、7個の数字で例を示します。
1から7までの数字(1,2,3,4,5,6,7)があったとき、これの真ん中の数字の値はいくつでしょうか。

真ん中の数字とは、小さい方から数えても大きい方から数えても同じ番目になる数字のことです。この場合は、「4」です。4は小さい方から4番目、大きい方からも4番目です。この真ん中の数字のことを「中央値」又は「第2四分位数」といいます。
四分位というのは、四つに分けたという意味で、四つに分けたうちの二つ目のくぎり、つまり、真ん中という意味です。

次に、4より小さい1から3までの間で真ん中の数は?

「2」です。これを第1四分位数といいます。7までの数字を、4を(含まず)境にして、前半と後半に分けた中で、その真ん中の数字は、全体の4分の1に相当する数字なので、そのようにいいます。

同様に、5から7までの間の真ん中の数字「6」は第3四分位数といいます。

ここで、第3四分位の数字から第1四分位の数字を引いた数を四分位範囲といいます。数字の並びの中央部を占める総数の半分の数字の幅です。この場合は、6-2で4です。

 四分位範囲=第3四分位数-第1四分位数

ここまでのことをまとめると、1から7までの数字があるとき、第1四分位数は2,中央値(第2四分位数)は4,第3四分位数は6で、四分位範囲は4となります。なお、最小値は1、最大値は7です。

さて、ここで、この最小値と最大値が全体の傾向から見て、とびぬけているのかそうではないかということを見ます。その物差しとなるのは、四分位範囲の数です。
 一般的な統計の考え方では、最小値については、第1四分位数から四分位範囲の1.5倍以内にあれば、とびぬけて小さい値ではない。それより小さければとびぬけて小さいと判断します。
最大値については、第3四分位数から、四分位範囲の1.5倍の範囲にあるかどうかです。

具体的には、この例では、四分位範囲が4ですから、その1.5倍は6。第1四分位数の2から6離れたら-4。最小値の1は-4からの2の間に入っていますから、とびぬけていないことになります。最大値の7も6+6=12の範囲に入っているからとびぬけていない。つまり、最小値も最大値も全体の散らばりの中で、とびぬけたものではないということになります。

なお、今の例は全体もそれを半分にしたときも奇数になる例で説明しましたが、偶数の場合は、真ん中の数字がないので、2で割った数字とその次の数字の平均をとることになっています。例えば、1から8までの数字の中央値は、(4+5)÷2=4.5です。その場合、第1四分位数は、8までの数字を前半と後半を分けた前半の1から4までの数で、4を2で割った2とその次の数字3の平均の2.5となります。詳細は統計関係の入門書やネットをご覧いただきたいと思います。

《外れ値》
それでは、同じ7つの数字でも、(1.5.5.6.6.7.7)の場合はどうでしょうか。

最小値は1、第1四分位数は5,中央値(第2四分位数)は6,第3四分位数が7、最大値が7となるのは、すぐにお分かりでしょう。四分位範囲は7(第3四分位数)から5(第1四分位数)を引いた2であり、その1.5倍は3です。第1四分位数5から3を引くと、2になり、最小値の1はその範囲に入っていません。

こうした範囲外の数値を「外れ値」といいます。全体の範囲が同じでも、中身の数字の偏りで最小値や最大値やそれら付近の値は、外れ値になったりならなかったりします。

イメージとしては、おわかりいただけると思います。前の例は均等に数字が並んでいたから、極端な値(=外れ値)はなさそうだし、今回の例は、見るからに1だけが孤立していました。それを四分位範囲との比較で数値化して、確かに範囲外だと確認したわけです。

3-2-5 青森県の平均寿命はとびぬけて低いのか?

これと同じことを、2020年の47都道府県の男女の平均寿命について見てみます。あとでご自身で確認されてもいいですが、各数値は以下のとおりとなります。

〈男性〉

最小値     79.27(青森県)
第1四分位値  81.01(長崎県)
第2四分位値  81.44(埼玉県)
第3四分位値  81.88(大分県)
最大値     82.73(滋賀県)

四分位範囲    0.87①=(81.88-81.01)
①の1.5倍    1.31②
第1四分位値-② 79.70③
第3四分位値+② 83.19④

この結果、青森県の数値は、③と81.01(第1四分位値)の範囲に入らず、外れ値となります。なお、青森県の次に平均寿命が低い秋田県は、80.48歳ですので、外れ値ではありません。
また、最大値の滋賀県は、81.88(第3四分位値)と④の範囲内のため、外れ値ではありません。

〈女性〉

最小値     86.33(青森県)
第1四分位値  87.37(大阪府)
第2四分位値  87.59(三重県)
第3四分位値  87.94(山梨県)
最大値     88.29(岡山県)

四分位範囲    0.57①=(87.94-87.37)
①の1.5倍    0.86②
第1四分位値-② 86.51③
第3四分位値+② 88.80④

この結果、青森県の数値は、③と87.37(第1四分位値)の範囲に入らず、外れ値となります。なお、青森県の次に平均寿命が低い福島県は、86.81歳ですので、外れ値ではありません。
また、最大値の岡山県は、87.94(第3四分位値)と④の範囲内のため、外れ値ではありません。

以上のとおり、男女とも平均寿命最下位の青森県の数値については、男女とも47都道府県唯一の外れ値となってしまいました。47都道府県の平均寿命の分布の状況のなかで、統計的な観点からかけ離れた数値であるといえます。

本書では、この後の章においても、四分位法による外れ値を探す方法を、特定の都道府県の値が47都道府県の中でとびぬけて高い(低い)のか、それほどでもないのかを判別する手法として用いています。この場合、専門用語ではありませんが、「四分位法の物差しを当てる」と表現します。

ある数値が、全体の数値の散らばりの中で、かけ離れたものかどうかを見るには、他にも方法があります。例えば、よくテストで目にする偏差値のもとになっている、標準偏差を用いた分析の仕方もあります。今は、計算ソフトのエクセルにも簡単に標準偏差が出る関数が備わっており、その使い方の解説もネットで探すとたくさん出てきます。ご興味のある方は、トライしてください。

3-2-6 青森県の平均寿命はなぜ低い

こうした状況に対して、青森県は以前から危機意識をもっており、「短命県返上」を掲げ、「平均寿命アップ基本方針」「平均寿命アップ計画」「健康あおもり21」などの計画をつくり、県民運動の展開も含めて、平均寿命が伸びるよう努力を続けています。

それらの計画の中で、平均寿命が低い原因を分析しています。それによれば、県民の多くが生活習慣病により死亡することを大きな原因だとし、喫煙率や多量飲酒をする人の率が全国トップクラスであり、また、運動不足の人が多く、肥満率も高いといったことがその背景にあるとしています。

青森県においては、喫煙率や飲酒者の比率は、30年間の間に減少が見られますが、全国的にも減っており、都道府県における順位ではまだ同県は上位にあります。

改善に向けての努力が実っている部分もあると思いますが、住民の意識と生活態度の変化や平均寿命の長寿化のスピードが全国の方が速く、相対的になかなか今の位置を脱せられないのではないかという印象を受けます。

こうした生活習慣を一変させることが、いかに難しいかを物語っているのかもしれません。

つづく(平均寿命の推移2を読む)

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