はじめに
自治体の議会について、議員の人数が多過ぎる、活動がよく見えないなどの批判がある一方で、投票率の低下とともに、議員のなり手が不足し、選挙を行っても無投票当選が多く、なかには定数割れが常態化している議会もあり、民主主義や地方自治の機能不全をもたらしかねないとの指摘があります。
本稿では、そうした問題を考える前提として、議員の定数の決め方や議員が任期途中で欠けた場合の補充方法などについて、解説します。
議員の定数はどこで決まっている?
自治体の議会について定めているのは、「地方自治法」という法律です。
地方自治法では、都道府県議会議員の定数も市町村議会議員の定数も条例で定めるとされています。
それを受け、どの自治体でも「〇〇市議会定数条例」などといった形で自らの議会議員の定数を定めています。
それでは、議員の数は何人でもいいのでしょうか?
議員定数に上限はない
議員の定数に上限はありません。
かつては、地方自治法で自治体の規模による上限が定められていましたが、平成11年の地方分権一括法による地方自治法の改正で、自治体の自己決定権の拡大の一環として、都道府県議会に係る上限規定が廃止されました。
また、平成23年の地方自治法改正で、市町村議会に係る上限も廃止されました。
ですから、理屈上は、人口1万人の町で定数100人などとしてもいいのですが、多くの自治体では、この上限があったときから、「減数条例」という、法定の人数よりも議員数を少なくする条例を制定していました。
議員定数に下限はない?
地方自治法では、議員定数の上限の制限とともに下限の制限も規定されていません。では、1人の議員しかいない議会でもいいのでしょうか。
議会には、議員の中から選挙された議長が置かれます。議会は合議体であり、議長は通常の表決に加わることができないので、議長以外に最低2人の議員が必要であると考えられます。
よって、定数3が制度上の下限となると思われます。
実際に定められている議員定数としては、総務省の令和5年4月1日現在の調査(地方自治月報第61号)によれば、和歌山県北山村等の定数5が最少のようです。
それじゃあ、議員定数は何人がいいの?
議員定数を何人とすべきかは、それぞれの自治体が決めることです。
議員定数は少ない方がいいと主張する立場からは、経費の節減(行政改革)や議員が働いていないことなどを理由として挙げることが多いようです。
ただし、これを首長側が言うことは、そもそも議会が首長のチェック機関であることから、慎重になるべきだと思われます。
一方、市民側から議会の定数について不満が聞かれるようであれば、議会は真摯に受け止める必要があるでしょう。
定数と欠員の補充
定数は、条例で定めた議員の数です。
議員は死亡や辞職により欠けることがあります。その不足数が一定の数に達した場合には、補欠選挙により、議員を補って定数を満たす制度となっています。
その自治体にとって、その定めた定数が適正なものですから、実態がそれと著しくかけ離れたら、適正な状態に復帰させるということですね。
具体的には次の通りです。
都道府県議会議員の場合
選挙区の欠員が2人以上となったとき。但し、選挙区の定数が1の場合には、欠けたら補欠選挙を行います。
都道府県知事選挙が行われる場合には、定数2以上の選挙区において、欠員1の場合にも補欠選挙を行います。
政令指定都市のように選挙区がある市の市議会議員の場合
欠員がその選挙区の定数の6分の1を超えたとき。但し、その市の市長選挙が行われる場合には、欠員があれば補欠選挙を行います。
一般の市町村の場合
欠員が議員定数の6分の1を超えたとき、但し、その市町村の首長選挙が行われる場合には、欠員があれば補欠選挙を行います。
上記の例外
上記の都道府県及び市町村の議会議員の補欠選挙については、その欠員が議会議員の任期満了6カ月以内に生じた場合には行いません。但し、欠員によって実人員が定数の3分の2に達しなくなった場合には、行います。
立候補者が少なかった場合には?
冒頭でも述べた通り、最近では、議会議員選挙において、定数と立候補者数が同じ、無投票当選が増加の傾向にあり、また、議員の欠員が常態化している団体も見られるところです。
民主主義や地方自治の機能不全をもたらしかねないとの認識のもと、多様な人材が集まり、住民に開かれた議会とするよう各種の検討がされ、自治体から議員個人が一定の範囲内で請負ができることや議会の役割の明確化などの法令の改正も行われています(本記事の参考文献参照)。
ここでは、それには深く触れませんが、制度的な問題として、定数を下回る数しか立候補者がいない場合にどうなるかということを説明します。
先ほど補欠選挙の説明をしましたが、立候補者数が足りなくて定数を満たせなくなった場合も考え方は同じです。
具体的に、定数5の町議会の任期満了による選挙において、4名の立候補者しかいなかった場合を考えてみましょう。
補欠選挙を行うのは、欠員が定数の6分の1を超えた場合ですが、選挙の立候補の段階で、定数5で立候補者数4ということは5分の1の欠員になっています。5分の1は6分の1より大きいので、補充のための選挙を行います。この選挙については、補欠選挙ではなく「再選挙」と呼ばれます。
いったん全数改選の選挙(「一般選挙」といいます)を行った後、立候補者数の不足のために、また、すぐに「再選挙」を行うことになります。
この再選挙は、立候補者がいなければ、理屈上は何回でも行います。
実際には、こうしたことが起これば、自らの意思で、あるいは、危惧する者たちの相談により立候補者が出るケースが多いと思われますが、なり手がいない問題は、自治体の貴重な財源を使っての選挙が繰り返されるおそれにもつながるわけです。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方自治法第90条第1項及び第91条第1項(議員定数)
同法第103条(議長)
同条第116条(表決)
公職選挙法第113条(補欠選挙)
同法第34条第2項(任期満了近くの特例)
同法第110条(再選挙)
参考文献等
地方自治月報第61号(各自治体の定数などが記載されている)
地方議会・議員のあり方に関する研究会報告書(令和2年9月)
多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた対応方策に関する答申(令和4年12月 第33次地方制度調査会答申)
地方自治法の一部を改正する法律(令和4年法律第101号)(議員個人の請負を可能とする改正)
地方自治法の一部を改正する法律(令和5年法律第19号)(議会の役割の明確化等)
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