「議員」って何をする人なの?-わかるお役所用語解説37

はじめに

自治体の議会の議員は、議会の一員として、議決権や調査権などを行使できるとともに、議員として、質疑・質問権を有するほか、一定の数の議員の賛同を得れば、臨時会の招集の請求や議案の提出をすることできます。本稿では、これらの議員の権限を説明します。

議会の権限と議員の権限

議員が行うことのできるものには、議会の権限についてその構成員としてできるものと、議員個人としてできるものがあります。

例えば、議会の議決権は、主に長から提案された議案について、その賛否を決定するものですが、個々の議員の賛否の判断に基づき、議員の多数の意思が議会の意思となるものです。
また、地方自治法第100条に定める調査権も議会に対して付与されたものであり、これを根拠として、議員個人が調査をすることはできません。

なお、議会の権限については、別のブログ『「議会」って何をやっているの?-わかるお役所用語解説36』をご覧ください。
本稿では、議員個人として行うことのできるものについて、説明します。

質疑・質問権

質疑と質問のちがい

「質疑」とは、会議において、提案された議案などについて、討論や表決を行う前提として、内容を明確にするために、疑義を質すことです。「議案質疑」などともいわれます。
対象は議案等(議案や委員長報告が主なものです)に限られます。会議規則で質疑のできる回数が一般には決められており、また、質疑に当たっては、議員は自己の意見は述べることができないこととされています。

「質問」は、当該自治体の一般事務について、事前の通告をしたうえで、事務の執行状況などについて尋ねるものです。「一般質問」ともいわれます。とくに、会派を代表して質問する場合と個人において質問する場合があるときには、前者を「代表質問」、後者を「一般質問」といいます。
この「(一般)質問」の対象範囲は、当該自治体の事務のすべてに及び、議員は尋ねたいことを基本的にはなんでも尋ねることができます。

なお、質問には、例外的に、緊急の場合行うことができる「緊急質問」もあります。

質問権の適切な行使

議員は質問を含む発言をしようとする場合には、あらかじめ議長に発言通告書を提出することとされています。
これは、議長が発言順序の整理などを行うためですが、この議長あての発言通告の内容を執行部側(長及びその補助機関である部長や課長などの職員)に知らせ、執行部側は、それをもとに質問についての答弁書を作成することとしている自治体は多いものと思われます。

執行部側が議会で答弁した内容については、いわゆる公式見解になり、議会の議事録にも議員側の発言とともに正確に記録され、後の検索も可能です。したがって、以前の答弁との整合性を図り、誤解を与えることがない、過不足のない表現で、一定の根拠のある現状認識や見通しなどに基づいて答弁しなければなりません。県や市町村の行政の範囲は広く、所掌する事務も複雑化していますので、このようにきちんと答弁することは、簡単なことではありません。

そのため、通告内容だけでは質問内容がよくわからない場合には、直接議員に質問趣旨を訊くこともあります。しかしながら、議員の中には、通告も「〇〇について」というようなあいまいな表現で、自ら尋ねたいことを執行部側に対してあえて知らせようとしない議員も見受けられます。

議会と執行部側にはチェックする機関とされる機関という関係がありますから、癒着と思われるような関係となることは避けなければなりません。その一方で、一般質問は当該自治体の行政全般について質問できる貴重な場で、それで得た答弁を有権者に返すのが自治体の行政運営をチェックする議員の重要な職責です。そのためには、自ら尋ねたい内容をできるだけ正確に通告するのが議員のあるべき姿であると考えます。そのうえで、答弁内容について、疑義や問題があるのならば、議場における発言で執行部側を質すべきです。

臨時会の招集請求権

定数の4分の1以上の議員が集まれば、長に対して、付議事件を示したうえで臨時会の招集の請求ができます。

これに対して、長は、請求のあった日から20日以内に臨時会を招集しなければなりません。

長がこの規定に反して臨時会を収集しない場合には、議長は、請求した議員の申出に基づき、その申出のあった日から、都道府県議会及び市議会にあっては10日以内、町村議会にあっては6日以内に臨時会を招集しなければなりません。

議案の提出権

定数の12分の1以上の議員が集まれば、議会の議決すべき事件について、予算以外の議案を提出することができます。

この「議会の議決すべき事件」については、その事件の性質や内容により、①議決をもって当該自治体の意思が決定されるもの②議決の結果、機関としての議会の意思が決定されるもの③執行機関の執行の前提要件又は手続として議会の議決が必要となるものの3つに分けられます。

このうち③については、議員に提案権はありません。また、②については、議員が提案できるのは当然のことと解されています。よって、残る①が問題です。①に該当すれば、すべて提案できるのではなく、明文で除外されている予算のほかにも、長に専属すると考えられるもの(条文中に長が〇〇すると規定されているものなど)については、議員に提案権がありません。一方で、議会の組織に関する事項など、長には提案権がなく、議員にあるものもあります。

なお、議案を修正する動議についても、定数の12分の1以上の議員の発議により行えます。

議会の運営に関するもの

上記のほかに、議会の運営に関するものとしては、動議の提出権、修正動議の提出権、懲罰動議の提出権、議事進行発言の権利があり、また、議会として行う選挙や表決に加わる権利があります。

委員会の委員としての活動

一般に議会は、議員全員で審議する本会議のほかに、その下部組織として、委員会を有しています。委員会の種類としては、常任委員会、議会運営委員会、特別委員会があります。
委員会制度については、別のブログ『「ここから出ていって」「あなた、除名!」-議会の仕組みと用語2』の「本気を出したら100条委員会-委員会制度」をご覧ください。

議員は、一般に複数ある常任委員会のうちいずれか一つの委員会の委員になります(複数の委員会に所属することができると定めることも可能です)。

常任委員会は、本会議において、その委員会へ付託された議案や請願について審議し、委員会としての賛否(採択・不採択)を決定し、本会議へ報告します。その過程で、委員は議案等の内容について質疑を行ったり、賛否の意思表示をしたりします。また、必要に応じ、動議の発言をすることができます。
本会議では、委員会の報告に基づいて、議案の賛否が決められることが多く、委員会は議案等の実質審議の場として重要です。

委員会には、正副委員長がいますが、これは委員の互選で選ばれ、議会を代表する議長や副議長に比べ、比較的経験年数が少ない議員でもなることが多いです。

請願の紹介権

請願は、憲法第16条に定められている、損害の救済、公務員の罷免、法律などの制定等について意見を述べ、希望を表明することです。
自治体の議会に対して行う場合には、議員の紹介により請願書を提出することとされています。

費用弁償及び議員報酬等の受給権

議員は、特別職の地方公務員であり、費用弁償や議員報酬(条例で定めれば期末手当も)を受け取ることができます。

政務活動費(議員の調査研究その他の活動に資するための必要な経費)については、条例で定めれば受け取ることができます。

議員の義務

議員について最も重要な義務は、議会の会議(委員会を含む)に出席することです。

議員の失職等

議員は、被選挙権をなくしたときには失職します。議会が解散された場合も同様です。自ら辞職することもできますが、議会又は議長の許可が必要です。

また、当該自治体に対して請負をし、又は、当該自治体から事業を請け負う法人の役員であった場合には、失職することがあります。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第6章議会
同法第101条第3項以下(議員による臨時会の招集請求)
同法第112条(議員の議案提出権)
同法第115条の3(修正の動議)
同法第124条(請願の提出)

地方公務員法第3条第3項(特別職)

地方自治法第203条(報酬及び費用弁償)
同法第100条第14条(政務活動費)
同法第127条(議員の失職及び資格の決定)
同法第178条(不信任議決の場合の長の議会の解散)
同法第13条(議会解散の直接請求)

地方公共団体の議会の解散に関する特例法

地方自治法第126条(辞職)
同法第92条の2(議員の兼業禁止)

標準市議会会議規則第1章第2節(本会議における議案及び動議)
同規則第1章第7節(本会議における発言)
同規則第62条(一般質問)
同規則第2章(委員会)
同規則第160条(懲罰動議の提出)

※「標準市議会会議規則」とは、全国市議会議長会が作成している市議会の標準となる会議規則で、全国の市議会はこれを参考とし、自らの市議会の会議規則を作成している。同様なものに、「標準都道府県議会会議規則」や「標準町村議会会議規則」がある。

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