はじめに
都道府県について人口要件はありませんが、市町村については、人口によってどの程度の規模の団体が市となり、どの程度の規模の団体が町となるということが定まっています。また、政令指定都市や中核市にも人口要件があります。本稿ではこれらを説明します。
市町村における人口要件
町村が市となり、村が町となる場合には、一定の要件を満たさなければなりません。町村が市となる要件については、地方自治法で定まっており、村が町となる要件については、都道府県の条例で定めることとされています。その要件にはいくつかありますが、人口は最も重要な要件です。
町村が市となる要件は人口5万人以上です。
その他の要件としては、
その自治体の中心市街地を形成している区域内の戸数が全体の戸数の6割以上であること
商工業その他の都市的業態に従事する者及びその者と同一世帯に属する者の数が、全人口の6割以上であること
当該都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市としての要件を備えていること です。
村が町となる要件については、例えば東京都の「町としての要件を定める条例」では、人口1万以上を有することなどが定められています。
また、市の中には政令指定都市、中核市がありますが、それぞれ所定の人口の基準があります。政令指定都市は人口50万人以上、中核市は人口20万人以上です。
政令指定都市、中核市の詳細については、別のブログ『市にはランクがあるー「政令市」「中核市」と普通の市』もご覧ください。
これらの人口については、「官報で公示された最近の国勢調査又はこれに準じる全国的な人口調査の結果による」と定められており、実際には5年ごとに行われる国勢調査の人口に基づき、町が市となったり、村が町となったりします。
なお、市町村の合併による場合には、5万人の要件を満たさずとも市となることができ、また、一度市となった団体が5万人を下回った場合に町村になることはありません。
市町村における権能のちがい
上記のとおり、市町村は、その人口規模を主たる基準として市(政令指定都市、中核市、一般の市)・町・村に分かれていますが、そのちがいは行うことのできる事務のちがいです。
地方行政は、都道府県と市町村が事務を分担して担うこととされており、都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、
1 広域にわたるもの
2 市町村に関する連絡調整に関するもの
3 規模又は性質から一般の市町村が処理することが適当でないもの
を処理すると定められています。
これら都道府県の処理事務を、市においては、市町村の行うべき事務に加えて、市の種別に応じ、その市の権限と責任で行うことができることとしています。
具体的に、町村が市となると、福祉事務所を設置し、生活保護法に基づく保護の決定等の事務を行うこととなります。
一般の市が中核市となると、主な権限としては、保健所を設置し、飲食店営業等の許可や旅館業・公衆浴場の経営許可を行い、また、保育所や特別養護老人ホームの設置許可・監督、廃棄物処理施設の許可や屋外広告物の制限を行うなど、保健衛生、環境、まちづくりなどの面で事務を行える範囲が広がります。
政令指定都市は、これに加え、市街化区域と調整区域の区分の決定を含む広範な都市計画に関する権限が与えられるとともに、児童相談所の設置、小中学校の学級編制や教職員の定数決定、任免、給与負担など、まちづくりや教育、福祉など住民生活に密着する部門で都道府県にかわり、かなり多くの事務を処理することができます。また、区を置くことができます。
市の規模が大きくなるにつれて、行うことができる事務を拡大することとしたのは、事務を行う役所の組織体制がしっかりし、一定の専門的知識を持つ職員の採用も可能となるという考えがあると思われます。
また、一般に都道府県より住民に身近な市町村が住民に密着した行政サービスを行うべきであるという考え(補完性の原理)もあり、それにも合致していると思われます。
そうした点からは、条例による事務処理の特例制度という、都道府県が条例を定め、自らが行う事務の権限を市町村の規模や能力に応じて市町村長へ移譲することができる制度もあります。
まとめ
市(政令指定都市、中核市、一般市)町、村は人口を重要な要件として区分されています。
一般に、規模が大きい団体ほど、都道府県に代わり自ら行うことができる事務が増え、住民サービスの充実の点からは好ましいと考えられます。
したがって、可能性のある多くの団体では、人口等の要件を満たし、「上位」の区分の自治体となることを目標とします。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方自治法第8条(市及び町の要件)
東京都の「町としての要件を定める条例」第1号(町の人口要件)
地方自治法第252条の19第1項(政令指定都市の人口要件)
同法第252条の22第1項(中核市の人口要件)
同法第254条(人口の定義)
同法第252条の17の2(条例による事務処理の特例)
市町村の合併の特例に関する法律第7条(市となるべき要件の特例)
社会福祉法第14条(市の福祉事務所設置義務)
生活保護法第19条(市長の生活保護実施義務)
地域保健法第5条(政令指定都市、中核市の保健所設置義務)
都市計画法第87条以下(指定都市の特例)
中核市市長会ホームページ
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