はじめに
長(知事や市町村長)は自治体を統括し、代表する存在であり、自治体の事務を管理し、執行する役割を担っています。具体的には、議会へ議案を提出し、予算をつくり、執行し、課税をし、財産を取得するなどします。
こうした長の役割の重要性を考慮し、長になんらかの事故があった場合や長が欠けた場合に、長に代わって長の権限を行う「長の職務代理」の制度が設けられています。
本稿は、これについて解説します。
長の職務代理とは
長に事故があるときや長が欠けたときに副知事や副市町村長などが長の行う事務を行うことです。
この「職務代理」は、原則として、長の職務権限のすべてに及ぶと考えられています。各種法令に定められた長の行うべきことのほか議会との関係においても議会の招集や予算案・議案の議会への提出と議会における執行部を代表する立場での答弁などもできます。
しかしながら、副知事や副市町村長の選任は、これらの者が長本人の考えにより選ばれるものであることから、職務代理者にはできないと解されています。一般の職員については、採用することができます。
職務代理者は、自らが長の職務代理者であることを明示して、自己の名をもって処理し、その行為の効果は長が行ったと同じ効果が生じるとされます。具体的な表示としては、例えば、「〇〇県知事(△△市長)職務代理者 〇〇県副知事(△△市副市長) 氏名」のような形式です。
職務代理を置いた場合には、住民に対し職務代理の期間やこうした表示形式などを告示やホームページなどでお知らせするとともに関係機関に通知するのが一般的です。
職務代理者には誰がなる?
職務代理者には、副知事、副市町村長(以下、「副知事等」といいます。)がなります。副知事等が複数人いる場合には、あらかじめ代理する順序を決めておきます。
副知事等にも事故あるときや副知事等がいない場合には、職員のうちからあらかじめ長が指定した者が代理します。
それもいない場合には、自治体の規則で定めた上席の職員が代理します。
「事故あるとき」とは
職務代理がどのような場合に生じるかについてです。
辞職や死亡などで長が欠けた場合については明白ですが、「事故あるとき」については、それほどはっきりしません。一般に、長がその職務につき自ら意思決定をし、職員を有効に指揮監督できないような状況のときとされています。
具体的には、長期又は遠隔地への旅行、病気、現職のまま立候補する選挙の選挙運動期間などが挙げられます。しかし最近ではこうした状況が生じても、携帯電話などの通信手段により有効に意思決定や指揮監督ができるという認識のもと、職務代理を置かない例もあります。
なお、職務代理については、事故が止んだり、長が選挙され、その地位に就いたときには、何らの行為をせずに消滅するとされます。もちろん職務代理が終了したことをお知らせすることは差し支えありません。
文書の表示
職務代理期間中に自治体から発出する文書は、前に述べた通り長の職氏名ではなく職務代理者の職氏名となります。
しかし、長の職氏名があらかじめ刷り込まれているような文書については、読替の規定を定めることによって、そのまま用いることができることとしている団体もあります。
経費の点や事務量・事務処理期間などの点からこうした定めをしているものと思われ、規定の必要性は十分理解できます。一方で、こうした対象には、納税通知書など住民に義務を課す文書も含まれることが多いことから、新たに導入するに当たっては、自らの団体なりの整理をきちんとすることが必要だと思われます。
臨時代理
職務代理と似たことばに「臨時代理」があります(地方自治法第153条第1項)。
これは、「職務代理」が「事故」や「欠員」といった事由の発生により、法的にはなんらの行為を要せず代理関係が生じ、その範囲が長の職務のすべてに及ぶのに対し、長の意思に基づき代理関係が発生し、その職務権限の一部を代理するといった点で異なるものです。
「職務代理」が「法定代理」であるのに対し、この「臨時代理」はそうした性質から「授権代理」や「任意代理」と呼ばれます。
代理人の行った行為の効力は長に帰属することになります。
臨時代理の例としては、長が代表者となっている団体と金銭の授受の関係する行為を自治体が行う場合に、自治体の代表者を長ではなく、臨時的に副知事等とするきまりを定めている自治体があります。
代決
代決は、長が不在等事故あるときに、臨時的に、副知事等が意思決定(決裁)を行うことです。「長の職務代理」はある程度の期間を想定していますが、代決はあくまでも一時的な不在等の場合に行うものです。
法令に根拠のあるものではなく、一般に自治体の「事務決裁規程」「事務処理規程」などに定められています。対外的には長が行ったものとなります。
職務代理が置かれている状況で、職務代理者の副知事等が決裁を行う場合には、長の権限の代決ではなく、職務代理者として決すべきです。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方自治法第147条(長の統括代表権)
同法第148条(長の事務の管理及び執行権)
同法第149条(長の担任事務)
同法第152条(長の職務代理)

コメント