「公の施設(おおやけのしせつ)」ってなに?-わかるお役所用語解説38

公の施設とは

自治体が設置する、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設を「公の施設(おおやけのしせつ)」といいます。
具体的には、市民会館、県民体育館、図書館、音楽ホール、公立病院といった一般市(県)民を対象とする施設や公立学校、看護師養成所などある程度利用者が限定されている施設、さらに、道路、公園、上下水道など建物以外のものも広く含まれます。

一方で、住民の利用を想定していない純然たる試験研究機関や庁舎は公の施設に該当しないとされています。
また、競輪場や競馬場のような自治体の収益事業(公営競技)のための施設については、住民の利用そのものが住民の福祉の増進にはならないので、公の施設に該当しないとされています。

公の施設は、自治体が設置するものですから、ホールや展示施設であっても民間事業者の設置のものは、該当しません。

公の施設の利用についての基本的考え方

公の施設については、正当な理由がない限り、住民の利用を拒んではならず、また、不当な差別的取扱いをしてはなりません。

この「正当な理由」については、利用料金を支払わない、定員を超過するといったものや利用者が周囲の者に暴言を吐いたり、暴力をふるったりするなどの迷惑行為を行った場合には、正当な理由に該当すると思われます。

問題となるのは、一定の集団がその施設を利用することにより、それを敵視する集団が反対行動を起こし、周辺の混乱のおそれがある場合に、その集団の利用を断れるかという点です。
最高裁判所の判例では、集会の自由を保障することの重要性よりも、集会が開かれることによって、人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合に限定して利用を拒否することができると解すべきであるとしています。その認定は、個別判断ですが、断る場合にはその理由を明確にし、関係者間の連絡や調整を密にしておいた方がよいと思われます。

「不当な差別的取扱い」とは、住民の信条、性別、社会的身分、年齢などにより、合理的な理由なく利用を制限し、使用料を減額するなどの行為をいいます。
これは当該自治体に居住している住民の間での取扱いについて規定です。

では、居住していない者(他の自治体の住民)について居住している住民と差別してもいいのかという点ですが、そもそも他の自治体の住民は、当然にはその自治体の公の施設の利用の権限を有してはいません。
鉄道やバス事業は事業の性質上、利用者の居住の有無を問いませんし、道路や公園なども当該自治体に滞在中の者も当然利用できるものです。一方で、学校などの教育関係施設や福祉関係の施設については、そこで行うサービスの提供を住民に限るものが多く、これらの施設を他の自治体の住民が利用する場合には、法令の定めや後述する自治体同士の協議が必要となるでしょう。

そうした施設の性質や目的によるちがいを踏まえたうえで、自区域内の公の施設について、他の自治体の住民に利用させている場合に、例えば、居住している住民に施設への優先入場を認めることや、大学入学金について著しくない差を設けることなどは許容されると解します。

しかしながら、居住していない住民が所有する別荘に係る水道料金について、水道使用量によらず、居住している住民との均衡を図る意図で高額に設定した場合には「不当な差別的取扱い」に該当するとされた判例があります。

居住している住民と他の自治体の住民の取扱いに差を設ける場合には、「合理的な差別」か「不当な差別」なのかを判例や他の自治体の例などを参考にして慎重に検討する必要があります。

公の施設の条例による設置等

公の施設の設置や管理に関する事項については、法律やこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、条例で定めなければなりません。

一般的には、「〇〇施設設置管理条例」といった形で、名称、目的、業務内容、指定管理者による管理、利用許可手続、利用を許可しない場合などの事項を定めることが多いでしょう。

公の施設の管理―指定管理者制度

指定管理者制度導入の経緯

公の施設は、長(学校施設等は教育委員会)が設置管理します。従来は、ほとんどの業務を自治体職員が行う直営施設を除き、使用許可などの主要な業務は自治体の職員が行い、施設の日常管理、利用者の案内などの業務は公共団体、公共的団体や自治体の出資する法人(以下、「出資法人等」)に委託することが広く行われてきました。

2003(平成15)年の地方自治法の改正で、「指定管理者制度」が導入されました。
この指定管理者制度は、今まで出資法人等に限られていた管理業務や自治体だけができることとされていた使用許可業務について一般の法人その他の団体でも行うことができることとしたものです。
公の施設の管理は、直営で行うか指定管理者による方法で行うかの択一となり、従来の出資法人等に対する管理委託の手法はとることができなくなりました(出資法人等が指定管理者となることはできます)。

指定管理者制度導入の目的としては、公の施設の管理主体を民間事業者、NPO法人等に広く開放し、出資法人等とイコールフッティングで参入することができるようにする。
具体的には、
(1)民間事業者の活力を活用した住民サービスの向上
(2)施設管理における費用対効果の向上
(3)管理主体の選定手続きの透明化 を図るものだと総務省は説明しています。

指定管理者による管理

指定管理者による管理を行おうとする場合には、自治体の条例で、指定の手続、指定管理者が行う管理の基準や業務の範囲その他必要な事項を定めます。

公募により指定管理者を選定する場合には、条例の内容などをベースに条件を示して応募を募り、応募する事業者は事業計画書を提出します。
自治体によっては、選定の基準を示す団体もあります。一般に自治体で入札により契約を行う場合には、価格が非常に大きなウエイトをもちます。しかし、こうした施設管理者の選定に当たっては、価格のほかに、住民の利便性向上のためのアイデアの提案にも相当のウエイトをもたせることが重要です。

自治体は、選定委員会などを組織して選定に当たり、指定管理者の候補者を決め、議会の議決を経て決定します。
その後、正式に指定管理者として指定し、管理の詳細について協定書を締結します。

定められた期日から指定管理者は施設の管理を始め、毎年度終了後、事業報告書を作成し、自治体に提出します。
指定管理者は、あらかじめ定めた年限指定管理を行います。その期間は自治体や施設によって様々ですが、5年間が多いようです。

自治体は必要があるときには指定管理者に対して指示をし、また、管理業務の一部又は全部を停止させることもできます。
施設の管理状況について、指定管理者の評価を実施している団体も多いです。

利用料金制

指定管理者は、自治体から指定管理の費用をもらいますが、管理する施設が有料の施設の場合、自治体はその利用料金を指定管理者の収入とすることができます(利用料金制)。この場合、その収入で管理費用が賄えれば自治体は他に費用の支払いをしませんし、賄えない場合には、取り決めにより一定の管理料を支払うこともあります。

利用料金を指定管理者の収入とする場合には、その料金は指定管理者があらかじめ自治体の承認を得たうえで決定します。

利用料金制は、指定管理者の経営努力により、その得る収入が増加することから、指定管理者のインセンティブ(改善へ取り組む動機)となり、それにより、利用者の利便性も向上する可能性があると考えられています。

指定管理者制度運用における留意点

〇役割分担・費用分担の明確化
指定管理者制度では、出資法人等管理委託に比べて、指定管理者の自由度が増しています。そのため、募集要項や当初締結する協定において、施設修繕に関する事項や施設や職員を原因とする損害の賠償、緊急時の対応などについて、明確に定めておく必要があります。
地震等の大規模災害等の発生時において、施設が避難所となっている又は施設を避難所とした場合における役割分担・費用負担についても同様です。

〇雇用・労働条件等への配慮
指定管理者制度の一つのメリットとして、民間に委ねることによる管理費用の削減が挙げられます。しかしながら、それは民間企業の従業員に低賃金で長時間働かせることを前提としたものではありません。自治体としては、指定管理者に委ねる費用を適切に見積もるとともに、指定管理者においても利益の確保を図るあまり、こうした状況とならないように、協定などで労働法令の遵守などについて明記をする必要があります。
個人情報の管理についても同様です。

公の施設の区域外設置及び他の団体の公の施設の利用

自治体は、別の自治体の区域にも、その自治体と協議のうえ、自らの公の施設を設置することができます。
例えば、水道事業において、水源地が他の自治体にある場合、そこから管を引かなければ給水できません。鉄道事業やバス事業で別の自治体を路線の一部とすることもあります。また、いくつかの自治体は長野県や山梨県に青年自然の家等の施設を設けており、東京都が千葉県松戸市に霊園を設けている等の例もあります。

また、自治体同士が協議をすれば、他の自治体の公の施設を自らの自治体の住民に利用させることができます。
自治体の権限はその区域内にしか及ばないので、区域外の(他の自治体の)施設を住民に利用させる権限はなく、住民もその権限を有しませんが、上下水道、火葬場、墓地など施設によっては設置の目的や維持管理のうえから他の自治体の住民の利用を認めることが適当な施設もあります。そこで、本規定が存在しています。

なお、これらの協議には関係自治体の議会の議決を経る必要があります。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第244条(公の施設)
同法第244条の2(条例による設置、指定管理等)
同法第244条の3(公の施設の区域外設置)

利用拒否に関する「正当な理由」についての判例
平成1(オ)762 損害賠償事件(泉佐野市市民会館事件)
平成7年3月7日 最高裁判所第三小法廷判決(民集 第49巻3号687頁)

水道料金に関する「差別的取扱い」についての判例
平成15(行ツ)35  給水条例無効確認等請求事件(高根町簡易水道事件)
平成18年7月14日  最高裁判所第二小法廷判決

指定管理者関係資料
総務省のサイトにおける指定管理者関係資料
総務省トップ→政策→地方行財政→地方自治制度→地方公共団体の行政改革等→指定管理者
「指定管理者制度について」(令和6(2024)年4月26日付け地方財政審議会における総務省資料)

コメント

タイトルとURLをコピーしました