はじめに
本記事は、自治体において会計処理を行う場合の基礎となる、会計年度と個別の収入・支出についての所属年度の区分や、一般会計にのみ存在する「出納整理期間」について説明する記事です。
まず押さえよう
会計年度とは、自治体の歳入と歳出の計算を区分して、歳入と歳出の関係を明確にするために設けられた期間で、4月1日から翌年3月31日までの期間です。
これに基づき、会計年度独立の原則が定められています。
どの会計年度に属する収入、支出かは地方自治法施行令に定めがあります。
自治体の一般会計には、出納整理期間の制度があり、5月31日までに収入・支出されたものは、前年度の歳入・歳出に計上されます。
水道事業や病院事業など、公営企業会計で行われる事業については、出納整理期間はなく、3月31日ですべての会計を整理する民間の会計処理に近い方式で処理されます。
会計年度とは
会計年度とは、自治体の歳入と歳出の計算を区分して、歳入と歳出の関係を明確にするために設けられた期間です。
具体的には、4月1日から翌年3月31日までの期間です。
予算の原則の一つに、「会計年度独立の原則」というのがあります。
その内容は、各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもって充てなければならないとするものですが、この規定は会計年度の定めと同じ条に規定されています。
このことからも、会計年度が経理の期間による区分のためであるとわかります。
どちらの会計年度に属する歳入なの? 歳出なの?
こうした期間を決めますと、自治体の口座に入った振込金や窓口等で受け取ったお金、また、支払ったお金が、例えば、令和4年度の会計年度に属するのか、令和5年度の会計年度に属するかが問題になります。
そこをはっきりさせておかないと、会計年度独立の原則やそもそも期間による会計区分を定めた意味が薄れるからです。
会計年度について定める地方自治法では、歳入歳出の所属年度についても同法の施行令で定めています。
いくつか紹介しますと、
《歳入》
- 税金や契約で納期が決まっているものは、納期の末日の属する年度
- 臨時の収入で、納入通知書を発するものは、通知書発送日の属する年度
- 臨時の収入で、納入通知書を発しないものは、領収日の属する年度。ただし、地方交付税、地方譲与税等一定のものは予算計上年度。
《歳出》
- 職員の給料等は支給すべき事実の生じたときの属する年度
- 光熱水費や電話代などは、その支出の原因である事実があった期間の属する年度。ただし、3月と4月にまたがるような場合は、支払期限の属する年度
- 工事の請負代金や物品などの購入費で相手方の行為の完了があった後支出するものは、その行為の履行があった日の属する年度
このように細かく決められています。
自治体の一般会計にのみある出納整理期間
ここまでの説明を読んで、もやもやしている方もいると思います。
まず、会計年度が3月31日までと決まっているのだから、4月1日以降の収入や支出は全部翌年度になるのではないか(そうすべきではないか)と考えている方。
例えば、3月31日が納期限の税金があったとしましょう。納税者の中には、納期を失念して、4月に入ってから支払う人も一定数います。それを一律に翌年度の収入にしてしまうと、課税の根拠は今の年度の諸事情に基づいて行っているのですから、かえって、不合理になると思いませんか?
また、代金を支払うものについても、履行を確認した後に、請求書を出してもらい、それで銀行振り込みの手続をしなければならないので、3月31日で機械的に区切ると、事業者やお役所両方にとって、たいへんな負担になります。
次に、会社などで経理をやられている方。今までの説明は、簿記では、未収、未払い等で処理する範囲の話なのかがよくわからないとお思いの方。
官公庁の一般会計の経理は単式簿記ですので、未収、未払いの概念はなく、その代わりに、「出納整理」というものがあります。
4月1日以降5月31日までに収入・支出された、前年度所属の歳入歳出とすべきものは、前年度の歳入歳出とし、その後に収入・支出されたものは前年度の歳入歳出としないとするものです。
この4月1日から5月31日までの期間を「出納整理期間」といい、5月31日が「出納閉鎖期日」となります。
税金の例ですと、前年度に賦課した税金は、5月31日までに収入されたものは、その年度の歳入とされます。6月1日以降に収入されたものは、翌年度において「過年度収入」として整理されます。
この「出納整理期間」があるのは、自治体の会計のうち、一般会計だけです。水道事業、病院事業、交通事業など、公営企業会計で行う事業にはありません。これらは、複式簿記に基づく経理方法で行い、一般の企業会計に近い経理方式をとっています。
なお、一般会計と特別会計については、別のブログ『何も知らない人のための「自治体の予算」とは』をご覧ください。
出納整理期間の実際
4月と5月は新旧両年度の会計処理が並行して行われることになります。出納部局には、毎日大量の収入・支出伝票とそれに添えられた請求書などの証拠書類が各部局から回ってきます。
新旧年度の取り違えは、決算を行うと数字の合わない原因になります。また、5月31日ぎりぎりに持って来られても、処理が間に合いませんので、出納部局は、あらかじめ各部局に出納部局への伝票等提出の期限が示します。
しかしながら、ちょうどこの時期は人事異動が行われて間もないことから、各部局の担当者には経理や支払いの事務をはじめて行う者も多く、中には、「もう期限を過ぎたから受け取れません」などと言われ、真っ青になる新人もいます。
筆者も、ゴールデンウイークを何日かつぶして出勤し、伝票を整理した覚えがあります。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方自治法第208条(会計年度及びその独立の原則)
同法第235条の5(出納の閉鎖)
地方自治法施行令第142条(歳入の会計年度所属区分)
同令第143条(歳出の会計年度所属区分)
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