くじ運は大切―選挙の豆知識1

はじめに

くじ引きというと、実力とは関係なしに、運がよかったから、なにかいいものを当てるというイメージがありますね。
一方で、誰しも平等に取り扱う必要があるときや、早い者勝ちにすると混乱を生じるおそれがある場合に、くじ引きはよくつかわれます。
選挙においても、こうした二つの理由によりくじ引きは多用されています。
そんな例をいくつか紹介します。

一秒でも早く選挙運動がしたい―立候補届出のくじ引き

選挙のニュースで立候補者の紹介をするとき、届出順に〇〇、□□、△△の3名が立候補をしていますなどというのをよく聞きます。
関係者以外は、立候補の届出とくじ引きは全然縁がないとお思いかもしれませんが、この届出順は「くじ」で決められることが多いのです。

立候補の届出は、公示日(告示日)の午前8時30分以降にすることになっています。
その時間の前に来た候補者が2人以上いる場合に、だれをいちばん先に受け付けたらいいでしょうか。

例えば、受付窓口の前に早く並んだ順にするということにすれば、徹夜組が現れることは、新作ゲームや新しいスマホなどの発売の状況を見ればわかりますね。
ですので、くじ引きで受付順を定めることとする例が多いです。

どうして候補者は順番にこだわるのでしょうか?

それは、立候補の届出が受理されないと、選挙運動ができないからです。
選挙運動をするために、選挙管理委員会は届出の済んだ候補者に対して、選挙運動の際に表示するものや、選挙事務所に表示するものなどを交付します。
この交付するものを、「公営物件」といいます。

これを表示したうえでないと、演説をしたり、選挙カーで街宣活動をしたりできないのです。
早く立候補の受付が済めば、早く選挙運動ができるということです。

目立ったところに載りたいー選挙公報の掲載場所もくじ引き

投票日が近づいてくると、「選挙公報」が新聞に折り込まれてきます。限られたスペースですが、候補者がいろいろ工夫を凝らして、有権者にアピールする内容をまとめています。
選挙公報は、候補者が作成した原稿をそのまま印刷して、配布することになっています。

新聞と同じぐらいのサイズの選挙公報も多いですが、やはり一番目に付くのは、1ページ目の一番上ですよね。
どの候補者の政見をどこに載せるかは選挙管理委員会が勝手に決めているわけではありません。くじを引いたうえで掲載場所を決めています。

投票所の「氏名掲示」もくじ引きで順番を決める

投票所に行くと、投票用紙に候補者の氏名を記入する台の前に候補者の一覧表が貼ってあります。
「氏名掲示」あるいは「氏名等の掲示」などと呼びますが、あれがないと、意中の候補者の名前でも間違って書いてしまう場合もありますよね。

「氏名掲示」にどういう順番で名前を載せるかというのも、例えば、五十音にしたら、候補者がたくさんいると、なんとなく、「や行」や「わ行」の人は不利な感じがしますよね。ですので、くじ引きで決めることになっています。

例えば、〇〇県知事選挙の「氏名掲示」の順番は、市町村の選挙管理委員会がその市町村ごとに決めますので、全部の市町村が同じ順番になるということはありません。
期日前投票の場所にある「氏名掲示」の順番も同様です。

開票立会人も運が悪いと出せない

投票用紙を投票箱から開けて、各候補者の得票数をカウントする開票作業。これは候補者にとって、とても大切なものです。
ですので、各候補者は開票作業が適正に行われているかどうかを確認するため、「開票立会人」を出すことができます。

開票立会人は、集計作業の途中で、各投票を見ることができます。開票管理者が、投票が有効か無効か決定する場合には、投票立会人の意見を聴いたうえで決定しなければなりません。

例えば、ある候補者の開票立会人は、記載が不明確な投票で無効と判断されるようなものについて、その候補者の有効投票と解釈できるのではないかと意見を言うことができます。
開票管理者は、それに対しては、先例や判例など合理的な理由を示して説明します。

その開票立会人は、例えば市議会議員選挙のように候補者が多数いる場合には、立会人総数が10名までで、同一政党2名までという人数制限があります。
それを超える立会人選任の届出があった場合には、くじ引きです。

当落もくじ引きで決まるー得票同数のくじ引き

国会議員の選挙や知事の選挙などは候補者が少なく、広範囲に行われますので、当落の票差が一桁などということはほとんどないのですが、市町村議会議員選挙では、けっこうあります。
中には、最後の議席を争う2人の得票数が同数などということもあります。
その場合に当選者はくじ引きで決めます。

俗に、政治家は落選すればただの人といわれます。このくじ引きは、ただの人と呼ばれるか、先生と呼ばれるか、「天国」か「地獄」かを決めるくじ引きです。

くじ引きで敗れた者の唯一の希望は、欠員が出ることです。
票数に差があって落選した次点者(もっとも票数の少ない当選者の次の順位の人)は、選挙から3か月経つと、当選議員の死亡や辞職などによる繰り上げ当選の恩恵を受けられません。
しかし、得票数が同数で、くじ引きにより落選した者は、任期中に欠員が生じれば、いつでも繰り上げ当選となります。

くじはどのように引くの?

くじ引きのやり方は、明確に定まっているわけではありません。

よく行われるのは、くじ棒をつかった方法です。立候補届出を例にしますと、細長いくじの先端に1、2,3と番号が振ってあるものを、候補者の数だけ筒に入れて、候補者や候補者の代理人に一本ずつ引いてもらいます。

その際、くじを引くのが1回だと、早くくじを引くために順番争いが起こるのを避ける意味やできるだけ偶然に任せようとする意味があると思いますが、最初にくじを引く順番を決めるくじを引かせ、その順番により、届出の受付のくじを引かせる例もあります。

また、歳末福引の際につかうような、玉の出る抽選機をつかう方法もあります。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。


公職選挙法第270条(選挙に関する届出等の時間)
同法第169条第6項(選挙公報の掲載順序のくじ)
同法第175条第3項、第6項(投票記載所の氏名等の掲示のくじ)
同法第62条第2項(開票立会人のくじ)
同法第95条第2項(当選人のくじ)

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