はじめに
投票用紙に候補者の氏名を書いて投票箱に入れる。これであなたの投票は、意中の候補の得票数にカウントされます。しかし、氏名以外の事項を書くと、無効とされる場合があります。この記事では、投票の有効・無効について解説します。
まず押さえよう
投票用紙には候補者の氏名だけを記載します。
候補者の氏名以外の余分な事項を書くと、その投票が無効とされる場合があります。
候補者の氏名を間違って書いた場合や一部しか書かなかった場合には、選挙の状況によって有効とされたり、無効とされたり、あるいは、得票数が分配される場合があります。
無効とされる投票
投票用紙には、一人の候補者の氏名を記載します(衆議院と参議院の比例代表の選挙は別です。以下、この記事の解説では、原則として、候補者の氏名を書く選挙の場合について述べています)。
それ以外のことを書くと、無効とされます。例えば、〇×△などの記号を書いたり、「がんばってください」とか「日本一」などと書いたりした場合は無効です。こうした記載のことを「他事記載(たじきさい)」と呼んでいます。
では、どうして、他事記載をすると無効なのでしょうか。
投票の秘密は侵してはならないとされています(秘密投票制度)。憲法第15条第4項で「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない」と定められています。
また、選挙についての詳細を定めた公職選挙法でも、投票用紙に選挙人の氏名を記載してはならないことやだれに投票したか陳述する義務を負わないことが定められています。
しかし、発注者と下請けや上司と部下など仕事の主従関係をもとに、また、買収により、自らが推す候補者に投票させようという考えをもつ者もいます。
その者が、投票用紙に候補者の氏名に加え特定の記載をさせることを強いて、自らの陣営の開票立会人にそれを確認させれば、投票の秘密の原則はたやすく破られてしまいます。
そうしたことをなくすには、そのような投票を無効としてしまえばいいという考えの下、他事記載による投票の無効の制度があります。
他事記載でも有効とされる記載
他事記載には、例外が定められています。
「職業、身分、住所又は敬称の類」を記載したものは有効です。
例えば、〇〇先生、△△様、××さんなどは有効な他事記載です。
そのほかに、最初の一字を書いたが、字を間違ったので、二本線で消して書き直したような場合には、有効とされる場合が多いでしょう。何度も繰り返しているような場合には故意性も疑われますが、通常は、単なる誤記の訂正は有効とされます。
不完全な記載
無効とされる投票のひとつとして、候補者のだれを書いたか特定できない投票があります。
例えば、木村洋子という人が立候補していた場合に、「木村陽子」という投票について考えてみましょう。
こうした投票については、一概に有効無効は決められません。選挙の立候補者の状況によっても異なります。
ただし、投票の記載が不完全であっても、できるだけ選挙人(投票者)の意思を汲み取り、有効とする方向で解釈するべきであるという一般的な考え方は最高裁判所の判決などでも示されています。
そうしたことを踏まえると、「木村陽子」票は、通常、木村洋子候補に投票しようとして文字の記載を誤ったと考え、同候補の有効投票と判断してもよいでしょう。
一方で、例えば、同じ選挙に本村陽子候補が立候補していた場合には、「木村陽子」票は、本村候補の「本」を誤って「木」と書いたとするか、木村候補の「洋」を「陽」と間違って書いたとするかを決めるのは難しく、無効投票とする判断も有力となるでしょう。
こうした場合にもどちらの有効票とするか、あるいは無効票とするかは必ず決定しなければなりません。
投票の有効無効の決定は、開票立会人の意見を聴き、開票管理者が決定することとされています。
候補者の氏名の一部しか書いていない投票も、どの候補者へ投票したかが判断できれば有効とされます。
按分
それでは、鈴木一郎と鈴木二郎という候補者がいた場合に、「鈴木」と書いた投票は有効でしょうか。
今までの考えからすれば、一郎候補、二郎候補のどちらに投票したかわからないから無効ですね。
ところが、これには例外が定められています。
同一の氏名、氏又は名の候補者が二人以上いた場合に、その氏名、氏又は名だけを記載した投票は有効投票として扱われ、それぞれの候補者に得票数が分配されるのです。
その分配のしかたは、「鈴木一郎」と書かれた投票が100票、「鈴木二郎」と書かれた投票が200票あり、「鈴木」と書かれた投票が1票あったとすると、この1票を100対200の比率に分けます。つまり、一郎候補へ0.333票、二郎候補へ0.666票分配されます(通常、小数点以下第3位まで計算し、残りは切り捨てます)。
これを投票の「按分(あんぶん)」といいます。こうした場合には、関係の候補者の得票数に小数がつくのです。
市町村議会議員選挙では、候補者がたくさんおり、また、同じ氏の人が多い地域もありますから、この按分は実際にはかなり頻繁に起こっています。
そのほかの有効とされる例
投票用紙には氏名の記載の枠がありますが、これからはみ出ても大丈夫です。
また、投票記載台には鉛筆が用意されているのが通常ですが、自分の持ってきた筆記用具で書いても無効とはなりません。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
憲法第14条第4項(投票の秘密保持)
公職選挙法第46条第4項(投票用紙に選挙人の氏名記載禁止)
同法第52条(投票の秘密保持)
同法第68条(無効投票)
同法第67条(開票の場合の投票の効力の決定)
同法第68条の2(同一氏名の候補者等に対する投票の効力)
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