「一時借入金」ってなに?-わかるお役所用語解説24

はじめに

クレジットカードの引落日に銀行残高が足りなかった。あわてて翌日に入金し、再度の引落日に間に合った。そういう方はいませんか? こういうことを繰り返すと、信用情報に傷がつくおそれがありますね。

企業の場合には、口座に残高がなければ、取引先への支払いが遅れ、信用を失います。資金ショートは倒産へつながります。資金繰りをきちんとしないと、黒字の企業にも思わぬ落とし穴があります。

では、自治体の場合にはどうでしょうか。

自治体では毎日のように工事代金・物品購入代金や給付金などの支払いを行い、また、税や国(県)からの交付金などを受け入れています。そうしたお金は指定金融機関がとりまとめ、自治体の出納部局が管理しますが、時折、支払いのための資金が不足する場合があります。

そのような場合にも、支払いが滞らないように、いろいろな仕組みが設けられています。
本稿は、「一時借入金」を中心に、そうした一時的な資金不足に対応する制度について解説します。

歳入歳出面での制度・手立て

自治体が資金不足に陥らないためには、個々の自治体の資金状況に合わせた対応も重要ですが、歳出に不足しない歳入額を年間を通じて確保できる制度となっていることがより重要です。

自治体の歳入の主なものは、税と地方交付税です。そして、税については、市町村の税収の大半を占めるのは、住民税と固定資産税です。

給与所得者の住民税は、給与から天引きされることが多く、自治体には毎月一定額が入ってきます。
普通徴収(納税通知書により個人が支払うもの)の住民税と固定資産税については、できるだけ納期が重ならないようにしています。これは、住民の負担が偏らないようにするためですが、自治体の収入の面からも偏りを防ぐ意味合いがあるでしょう。

また、自治体職員のボーナスは6月と12月に支給する団体が多いですが、地方交付税のほとんどを占める普通交付税については、4月、6月、9月及び11月に交付され、人件費が増える時期の資金手当てをしています。

出納整理期間においては、年度内に完了した事業への支払いが多くなされ、支出全体に占めるこの期間中の支出の割合は、収入のそれより高いと思われます。

こうした制度上の仕組みや事業執行に際しての財政部局や出納部局への合議制度とともに、出納部局では、一定の金額以上の収入支出については、あらかじめその時期を報告させ、ときにはその時期を調整したり、資金の手当てをしたりして、支払資金不足が生じないようにしています。

以下に、出納部局等が行う資金手当ての方策(資金繰り)を説明します。

当座借越(貸越)制度

自治体は、資金運用として、指定金融機関等に定期預金をすることがあります。その場合に、歳計現金(支払いに使用する現金)が不足した場合に、定期預金の範囲内で、一定額を自動的に支払いに回す契約をする場合があります。

個人でも同様の制度がありますが、その自治体版です。

基金の繰替運用

自治体は、いわゆる自治体の貯金である財政調整基金や特定の目的のためのいろいろな基金を持っています。基金は自治体の持つ財産の一種です。

基金は、現金を指定金融機関に預けていることが多いのですが、それを資金不足時に歳計現金に繰り替えて運用することができます。
ただし、そのためには、その基金に関する条例中にその旨定めるとともに、「運用」ですから、利息を付す必要があります。

なお、基金について詳しく知りたい方は、別のブログ『「基金」ってなに?-わかるお役所用語解説4』をご覧ください。

一時借入金

自治体の長は、歳計現金に不足を生じた場合に、一時借入金を借り入れることができます。借入れをするのは、会計管理者ではなく、長です。

借入れの限度額は、予算において定めることとされています。ですから、不足が生じた分を青天井で借り入れることはできません。当初の限度額を超えて借り入れる場合には、予算の補正が必要です。

また、その会計年度の歳入をもって償還することとされています。年度をまたがると「地方債」になってしまいます。
「その会計年度の歳入」とは、年度の3月31日までに調定したものが、4月1日以降出納閉鎖期日の5月31日までに収納されたものは含みますが、新年度に調定されたものは、4月及び5月に収納されても、当然のことながら含みません。

一時借入金は、歳入の項目として、予算に計上するものではありません。一時の資金ショートを埋めるものです。

一時借入金については、金融機関は利息を取るのが通例ですから、資金管理をきちんと行い、できるだけその借入れを行わないこととするのが、適正な財務管理です。

財政状況との関係

一時借入金が発生したことをもって、ただちに当該団体の財政状況が悪いというわけではありません。

しかしながら、過去には、出納整理期間とこの一時借入金制度を利用し、不適切な会計処理が行われた例もあります。詳細については、別のブログ『出納整理期間をつかった不適正処理―自治体経理の基礎3』、『「財政健全化法」ってなに?-わかるお役所用語解説19』をご覧ください。

一時借入金制度は、出納事務が円滑に行われるため必要なものですが、制度の趣旨を踏まえた運用をしなければならないのは当然のことです。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方交付税法第16条(地方交付税の交付時期)

地方自治法第237条(財産)
同法第241条(基金)
同法第235条の3(一時借入金)

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