「国民健康保険(税)と(料)」「現物給付・現金給付」―お役所ことばの似て非なるもの3

はじめに

「国民健康保険税」と「国民健康保険料」のちがい、わかりますか?
「現物給付」ということばを聞いたことがありますか?「現金給付」とどうちがうのでしょうか。

お役所ことばがわかりにくいのは、似ていて紛らわしいことばがあることです。
本稿では、これらを解説します。

「国民健康保険税」と「国民健康保険料」どうちがうの?

健康保険制度の簡単な説明

最初に、健康保険制度について、簡単に説明します。

医者にかかるときに窓口に出すものは、診察券と保険証ですね。今は、多くの方は、保険証の機能の登録をしたマイナンバーカード(マイナ保険証)で手続をされていると思います。
保険証は、健康保険制度に加入している証ですが、人によって加入している保険はちがいます。

会社勤めの方は、ご自身の勤める会社に「健康保険組合」があれば、そこに、なければ、「全国健康保険協会」(通称「協会けんぽ」)に加入するのが原則です。ただし、船員と私立学校にお勤めの方は、それぞれ独自の制度があります。
公務員の方は、国家公務員や地方公務員の共済組合に加入します。
加入者に扶養されている方も健康保険の制度の適用があります。

自営業、勤めていても保険加入の資格を満たさない方や無職の方(年金受給者を含みます)については、都道府県とお住いの市町村が運営する「国民健康保険」制度の加入者になります。
なお、75歳以上になると、すべての人は後期高齢者医療制度に加入することになります。

こうして、国民の全員がどれかの保険制度に加入することを「国民皆保険」といい、医者にかかりやすく、日本人の長寿を支えている制度です。

国民健康保険税と国民健康保険料は受けるサービスはおなじです

国民健康保険以外の保険制度に加入の方は、「保険料」を支払います。給料をもらっている方は、通常は給料から天引きされます。
なお、健康保険の保険料は、厚生年金の保険料と並んで、社会保険料の主要部分を占めるものです。

国民健康保険に加入している方は、お住いの市町村が定める「国民健康保険税」または「国民健康保険料」を市町村からの納税(納入)通知又は年金天引きにより納めます。
どちらの名称で通知されても、受けるサービス内容はおなじです。

では、なにがちがうの?

国民健康保険税と国民健康保険料の2つの費用負担方式があるのは、国民健康保険法第76条第1項で、市町村は、「被保険者の属する世帯の世帯主(中略)から保険料を徴収しなければならない。ただし、地方税法の規定により国民健康保険税を課するときは、この限りでない。」と定められているからです(「被保険者」というのは、保険加入者のことです)。

原則が「保険料」で例外が「保険税」のような書き方になっていますが、現在、多くの市町村では「保険税」方式に拠っています。
総務省の「令和7年度市町村税課税状況等の調(国民健康保険関係)」によれば、「保険税」方式が1500団体、「保険料」方式が241団体となっています。

先ほど記したように、どちらの方式でも、受けるサービス内容にちがいはありません。ちがうのは市町村による徴収方法です。
「保険税」方式の場合は、固定資産税や市町村民税などと同様の税金になりますので、税に関する制度の適用があり、「保険料」方式の場合には、税に比べて、弱い制度となっています。

具体的には、
差押え等の滞納処分による弁済を受ける順位について、「保険税」方式では、国税や他の地方税と同順位となりますが、「保険料」方式では、これらに次ぐ順位となります。
また、負担を求めた保険料(税)の徴収権の消滅時効が、「保険税」方式では5年に対し、「保険料」方式では2年、負担をさかのぼって求めることができる期間についても、「保険税」方式では3年に対し、「保険料」方式では2年となっています。
こうしたことから、多くの市町村では、「保険税」方式を採用しているものと考えられます。保険税とすることで、他の税目と合算しての滞納処理ができるという便宜もあるでしょう。

「現物給付」と「現金給付」

「現物」ってなに?

「現金給付」は、文字通り、現金を給付することですね。最近は、物価高対策などで、家族一人につきいくらなどという計算で、現金が支給されることもあります。また、病気になって働けなくなったときに、申請に基づき交付される「傷病手当金」なども現金給付の例です。

それに対するものとして「現物給付」ということばがあります。
このことばは、医療や介護の分野で比較的よくつかわれます。

例えば、医者にかかるとき、保険証(マイナンバーカード)を提示して受付し、医師から診察を受けたり、必要な検査をしたり、ときには手術をし、薬を処方されます。
健康保険の加入者が、こうした医療サービス(診察、検査、手術、投薬など)という「現物」の提供が受けられることを「現物給付」といいます(健康保険法第63条第1項の「療養の給付」)。

診療が終わったあとに会計をしますが、会計時に支払うお金は「負担金」で、多くの人は「3割負担」ですが、一定の高齢者など「1割負担」「2割負担」の人もいます。負担金を除いた経費については、病院が診療報酬の請求といった手続で審査・支払を行う機関から支払を受けます。
これが健康保険制度に基づく「現物給付」の仕組みです。

「償還払い」と「現物給付化」

健康保険の制度は、我々の支払う保険料(税)、事業主負担、国や自治体の公費負担と受診のたびに支払う負担金を財源としています。
ですから、受診時の負担金だけで医療サービスを購入しているわけではありません。

これを、例えば旅行中の外国人のような、健康保険制度の適用がない場合と比較してみますと、これらの人は一般の商品を購入するのと同様に医療サービスを購入するのですから、その費用の全額を支払うことになります。対して、健康保険の加入者は保険の仕組みの中で「現物給付」を受けます。

なお、保険加入者が保険証を忘れた場合などは、いったん治療費の全額を支払い、自らが手続をして、負担金以外の分の払い戻しを受けなければなりません。こうした制度は「償還払い」制度といいます。
健康保険制度は、すべてが「現物給付」というわけではなく、「償還払い」制度によるものもあります。また、先の傷病手当金のように「現金給付」のものもあります。

自治体が行っている独自の医療費支援の制度には、「償還払い」のものが多いですが、これについて、保険加入者の立て替えと自治体からの支援金支給をなくすることを「現物給付化」といいます。「現物給付」は「償還払い」制度と比べて、サービスを受ける人の事務負担や一時の金銭的負担が少なくて済みます。それだけ医者にかかりやすくなるというメリットがあるので、「現物給付化」は重要です。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

健康保険法第4条(健康保険組合と全国健康保険協会の根拠)
船員保険法(船員保険の根拠)
私立学校教職員共済法(私立学校教職員対象保険制度の根拠)
国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法(公務員対象保険制度の根拠)
国民健康保険法第5条及び第6条(国民健康保険の対象者)
高齢者の医療の確保に関する法律(後期高齢者医療制度の根拠)

国民健康保険法第76条第1項(保険料と保険税による負担方式)
同法第79条の2による地方自治法第231条の3第3項(保険料方式における滞納処分時の先取特権の順位)
国民健康保険法第110条(保険料方式による徴収権の消滅時効2年)
同法第110条の2(保険料方式による賦課の遡及期間制限2年)

地方税法第703条の4(国民健康保険税の課税の根拠)
同法第14条(保険税方式における滞納処分時の先取特権の順位)
同法第10条(保険税方式における徴収権の消滅時効5年)
同法第17条の5第3項(保険税方式における賦課の遡及制限3年)

健康保険法第52条(保険給付の種類、国民健康保険法等の各種保険法に同様の規定があるが、以下は、健康保険法の規定のみ記載する)
同法第63条第1項(療養の給付、これが現物給付されるもの)
同法第74条(一部負担金)
同法第76条第1項(保険者(健保組合等)から病院への療養の給付に関する費用の支払い規定)
同法第99条(傷病手当金)

医療保険制度について
厚生労働省ホームページ ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 医療保険 > 我が国の医療保険について

現物給付の説明例
健康組合連合会(けんぽれん)ホームページ HOME > 健康保険を知る・学ぶ > 用語集 > 現物給付

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