市にはランクがあるー「政令市」「中核市」と普通の市

はじめに

本記事は、「市」について「政令指定都市」「中核市」とそれ以外の市という3つの区分がどのようしてできたのか、また、違いは何かなどについて解説する記事です。

まず押さえよう

「市」は、人口5万人以上などの条件を満たした町村が、一定の手続きを経てなる自治体で、町村に比べ、行う業務が増えます。

その市の中に、現在では、「政令指定都市」「中核市」という区分が設けられ、3区分となっています。
この違いは、主に、都道府県が行う事務を自ら行える権限のちがいです。加えて、政令指定都市には、「区」が置かれます。

市とは

みなさんは「町民、村民」ではなく、「市民」だという方が多いと思います。2020(令和2)年の国勢調査では、日本の総人口1億26百万人のうち、1億15百万人余りは市部に住んでいます(これには東京都の特別区を含んでいます)。
ただ、市と町村の数を比べると、市は全体の約46パーセントですので、町村の方が多いのですね。

それでは、「市」の条件はどういうものでしょうか。
それについて定める地方自治法では、次の4つを挙げています。
1.人口5万以上
2.中心市街地の戸数が、全戸数の6割以上
3.商工業など都市的業態に従事する者とその家族が、全人口の6割以上
4.上記のほか、都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市として要件を備えること

こうしてみると、農林業や水産業のような第1次産業に従事している人々だけではない地域で、ある程度人が密集している地区がある人口5万人以上のところというイメージのようですね。
もっとも、この人口要件はいろいろ変遷があり、特例的に人口が3万人で認められるときもありました。

なお、この要件は、市となるときの要件で、なった後にこの要件を満たさなくなったとしても、町村に戻ることはありません。

市と町村の業務の大きな違いは、市は生活保護などを行う福祉事務所を設ける義務があることと、知事が都市計画区域を指定し、都市計画決定の事務を行うことで、町村には福祉事務所の設置義務や知事の都市計画区域指定義務はありません。

どうして市に3区分ができたか―政令指定都市の経緯

今の都道府県や市町村の制度は、1947(昭和22)年にできた地方自治法という法律で決まっていますが、多くの規定は、それ以前のものを踏襲しています。

市の制度のはじまりは、1888(明治21)年の市制町村制という制度からですが、そのときに東京、京都、大阪の3市は特別扱いがされていました。市長を置かず府知事が兼務することとされていたのです。それだけほかの地域よりも重要視されてきたのでしょう。
その後、横浜、名古屋、神戸が加わり、6大市になりましたが、この6大市は「特別市lをつくることを訴えてきました。

東京市は、戦時中に東京府と一緒に「東京都」となりましたが、残りの5市について、戦後の地方自治法では、「特別市」が定められました。そこでは、特別市は都道府県の事務も行い、また、都道府県の区域外とすることとされました。
それに猛反対したこれら5大市を含む府県の働きかけもあり、具体的な特別市の指定は行われず、制度の議論が続いていました。

その一定の解決策としてできたのが、今の「政令指定都市」制度です。政令指定都市は人口50万人以上の市について、国が指定するものとされました。

政令指定都市は扱いとしては通常の市ですが、仕事を行える範囲が「都道府県並み」とされ、また、普通の市と最も違うところは、「区」を設けることです。

政令指定都市は、よく「政令市」と略されます。本記事でも、以後、そのように表記します。

どうして市に3区分ができたか―中核市の経緯

しばらくの間は、市の区分けとしては、この政令市と普通の市の2つだけでした。

その後、都市機能の集積が高く、一定の圏域の中心的な都市については、政令市に準じた権限を県から移すべきだという議論の高まりもあり、1995(平成7)年に「中核市」という制度ができ、2000(平成12)年には、「特例市」という制度ができました。

この段階で、市のランクとして、「政令市」(人口50万人以上)、「中核市」(人口30万人以上)「特例市」(人口20万人以上)その他の市という4ランクになりました。

その後、「特例市」制度は廃止され、中核市に吸収されるような形になりました(中核市の人口要件が20万人とされた)。
その結果、現在の3ランクとなったのです。

政令市、中核市の行える事務

政令市や中核市が通常の市と異なるのは、都道府県が行う事務についても処理できることです。

政令市は、市街化区域と市街化調整区域の区域区分(いわゆる「線引き」)の決定をはじめ種々の都市計画の決定ができ、また、廃棄物処理施設や保育所の設置の許認可をすることができるなど、かなり広範囲に都道府県の行う事務ができます。

中核市は、保健所を設置し、また、飲食店営業や旅館業などの許可を県に代わってできます。

また、政令市には「区」が置かれ、住民に身近な住民票や戸籍の事務などを処理しています。
同じ区ですが、東京都の特別区とは根拠規定や事務内容が異なります。

県VS政令市

前の項で5大市が特別市制度の創設を訴え、いったんは地方自治法において実現したが、県の猛反対により頓挫し、その代わりに政令市制度ができたという説明をしました。

現在でも政令市で組織している指定都市市長会では「特別自治市」の創設を訴えています。
そのイメージは県の事務のすべてを行い、県の区域から独立するというものであり、かつての「特別市」にかなり似ています。

これに対し、これらの政令市をかかえる県をはじめとする都道府県のスタンスは現状維持のようです。

もし、政令市が特別自治市となって県の区域から抜けたとしましょう。
県の権限が及ぶ範囲は政令市以外の区域のみになってしまいます。その影響がもっとはげしいのが神奈川県です。

神奈川県の人口は2020(令和2)年の国勢調査で923万人です。東京都に次いで、全国2番目です。そのうち、政令市の人口は、横浜市377万人、川崎市が153万人、相模原市が72万人、合計で602万人です。
政令市の人口を県全体の人口から除くと残りは321万人。これでも静岡県ぐらいの規模でベストテンには入りますが、65パーセントも減ってしまいます。

よく国の三要素として、領土と国民と主権だといわれますが、自治体においても区域と人口は重要です。今まで、政令市の区域も一体として行政を行ってきた県としては、それなりの言い分もあるでしょう。

だが、この戦い? は政令市側がじりじりと優位を拡大しています。県の事務について、権限がだんだん政令市側に移っています。例えば、教員の人事については政令市、給与負担は県というねじれがありましたが、これは政令市に財源を付与して、すべて政令市が行うことになりました。

この点で異質だったのは、大阪における「大阪都構想」でした。政令市を解体し権限を府に持ってこようとするのは、いままでの流れとは一線を画すものでした。
住民投票では2回否決されましたが、市の一部の権限の府への移譲を条例に基づいて進めているようです。これも通常は、県の権限を市に下ろすタイプの条例が多い中で珍しい試みだと思います。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。

解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第8条(市の要件)
同法第12章(大都市等に関する特例)
地方自治法第252条の19第1項の指定都市の指定に関する政令
地方自治法第252条の22第1項の中核市の指定に関する政令

令和2年国勢調査関係資料(総務省統計局ホームページ)
市と町村の主な相違点(総務省ホームページ→政策→地方行財政→地方自治制度の概要(2023年2月2日参照)
地方公共団体の種類について(総務省ホームページ→→政策→地方行財政→地方自治制度→地方公共団体の区分(2023年2月2日参照)
新たな大都市制度「特別市(特別自治市)」の創設に向けて(指定都市市長会ホームページ→主張(2023年2月2日参照)

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