そのカタカナ語、おわかり?―「リスキリング」「ベーシックインカム」

はじめに

本記事は、お役所の文書でつかわれる、外国語をそのまま記したカタカナ語について取り上げ、意味内容を説明するとともに、わかりやすい日本語への言い換えの例を示します。
カタカナ語はお役所のあらゆる分野に存在していますが、今回は、「労働・福祉分野」のことばで、耳にはするが、意味がよくわからないものをいくつか解説します。

外国語崇拝

世の中には外国の言葉があふれています。
同じことを日本語で言うより、外国語で表現する方がかっこよく見えたり、理知的な印象を与えるという思いがあるのかもしれません。
その傾向は、お役所の世界には一層強いのではないかという気がします。

各省庁では、毎年、たくさんの計画を発表したり、予算において新規の事業をスタートさせたりしますが、それらの説明の中にはほんとうに外国語が多く含まれています。まれに定着したものもありますが、ほとんどは数年のうちにお払い箱になるようです。

リスキリング

最近話題となっていることばです。

「リスキ・リング」でも「リス・キリング」でもなく、「リ・スキリング」です。「re・skill」を辞書で引くと「新しい技術(技能)を習得させる、労働者を再教育する」と出てきます。

これまでも、これに似た「リカレント教育」というものを政府は推進してきましたが、今回のイメージとしては、いわゆるITやDX(デジタル・トランスフォーメーション)を意識して、そうした分野の新技術を学び、新しい職を得るということのようです。

岸田首相の所信表明演説で、「リスキリング」を「成長分野に移動するための学び直し」と言い換えていますが、そのほうがよくわかりますね。少し長いなら「新技術再教育」とか「IT転職学習」ということになるのでしょうか。

また、新しいことばが出てきましたね。このことばが輝くような具体的な施策を打ち出していただき、労働者が満足のいく仕事を得て、「ワークライフバランス」のとれた生活を送ることができればいいですね。

ワークライフバランス

「ワークライフバランス」は、今はやりの「働き方改革」のなかでよく出てくる言葉です。

日本人は働きすぎだ。日本の企業の労働生産性が低いのは、残業ばかりしているからだ。男性が家事や育児をやらず、女性だけにしわ寄せが行き、その結果、女性の社会進出が遅れているなどという指摘のあとに、それを解消するために推奨されるのが「ワークライフバランス」です。

もともと、日本の企業の働き方については、このことばが登場する前から、問題視されてきました。そのために「時短」つまり労働時間の短縮が唱えられてきました。
このことばはそれに加え、生活の充実も主張している点で新しいのでしょうが、日本語で「仕事と生活の両立(調和)」と言ってもまったく問題ないと思います。

セーフティネット

これも最近よく聞くことばです。

サーカスで細い綱の上を一本の棒でバランスをとりながら渡っていく、命綱もつけずに。
慎重に、一歩ずつ足を出していき、ようやく半分まで来たときに、ちょっとした気のゆるみからバランスを崩す。
棒を巧みに操りながら、なんとかこらえようとするが、耐え切れずに、真っ逆さまに転落。あわや、大ケガか、へたをすれば命がないか? 
しかし、地上すれすれに張ってあった網のうえに落ちて、無事だった。
この網のことをセーフティネットといいます。

今広くつかわれるのは曲芸やサーカスの世界ではなく、曲芸師の代わりに生活困窮者や社会的弱者、綱渡りの綱が不安定な雇用や収入や不安だらけの日々のくらしであり、救いの網というのが、民生委員や福祉窓口、各種保護施設や生活保護制度です。

ある分野において、大規模な破綻から守る最後の砦の制度もセーフティネットといいます。
日本語で言えば、「安全網」ですが、いつの頃からか、英語のこのことばが幅を利かせてきました。

ベーシックインカム

これは前の「セーフティネット」などがつかわれる文脈でよく出てきます。

「ベーシック」には、基本的なという意味もありますが、この場合には、「最低の」という意味です。「インカム」は「収入」です。
「最低収入」では何を言っているかわからないので、日本語では、この後に「保障」とつけて、「最低所得保障」といいます。

高度経済成長を支えた世代には、日本は貧富の差の小さい国だという意識が強いかもしれませんが、それは昔の話で、今や日本の貧富の格差は経済先進国の間でも大きい方になります。
「相対的貧困率」という中間的な所得の世帯の半分以下の所得しかない世帯の割合が高いのです。
この貧困率を測る係数を「ジニ係数」といいますが、詳細の説明は省きます。

いわゆる生活困窮世帯には「セーフティネット」として「生活保護」の制度があります。
しかし、生活保護の制度は、申請から認定に至るまでの壁が高く、なかなか実際の受給が受けられないといわれます。
こうした状態を、これもカタカナ語ですが、「アクセス」が悪いなどと表現されます。

そこで、国民に広く最低限度の収入を保障するという「ベーシックインカム」の提言が一部の論者からされています。
そんなことできるの? と思われた方は、財源を心配しているのだろうと思います。そうでなくても、日本は国債を発行しすぎているのにと。

もし、この制度を実施する場合には、所得税などの税率を引き上げる、生活保護制度は撤廃するなど、抜本的な制度改革を行わないと難しいのではないか。また労働意欲を失われせるのではないかという指摘もあります。

夢のような話と思う方もいるかもしれませんが、ドイツやフィンランドではこの制度の実験を行っているとのことです。

アウトリーチ(型アプローチ)

このことばは、政府の「骨太の方針2022」等で目にします。

「アウトリーチ」とは、手を差し伸べるということです。独居老人や障害者など、困っているのに、なかなか声を上げられない(相談できない)人に対して、積極的に行政側から働きかけるという意味です。

そうした方向で取り組みは進んでいくべきですが、用語は「差し伸べ型」の方がわかる人は多いと思います。
「インテーク」が困った人に対する最初の面接・相談という意味で用いられ、それとの対比となっているのかもしれませんが。

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