仏の顔も三度―「指導」「勧告」「命令」その先は?

はじめに

本記事は、自治体の仕事の内、許認可やいろいろな規制を行ういわゆる権力行政について、不適正行為や許認可法令違反をした許認可事業者や広く各種の規制に違反した住民に対する、自治体の是正の働きかけのプロセスと根底にある考え方を解説する記事です。

まず押さえよう

自治体は様々なサービスを行う一方で、税の徴収、許認可、土地利用規制などのいわゆる権力行政も行っています。

許認可条件や法令違反をした事業者や規制を守らない住民に対しては、是正の働きかけをしますが、それには段階を踏むものが多く見られます。

指導→勧告→命令→許認可の取消(代執行)といったプロセスをたどるのが典型例ですが、権力の行使に当たって、その都度行使の必要性を確認し、濫用を防ぐとともに、行為者自らによる是正を促すものとなっています。

自治体の「権力行政」

自営で仕事をやっている方や会社勤めでも属している部署によっては、お役所(特に自治体のお役所=都道府県庁や市町村役場)は煙たい存在だと思っている方もいると思います。

自治体は、住民票を交付したり、イベントを行ったりするばかりではなく、税金を徴収したり、事業者に事業等の許認可を与え、許認可事業者に報告を求めたり、検査や監査に行くという仕事をやっています。そして、時には、事業者の行為が不適切又は違法だとして、是正に乗り出すということをします。また、その区域内において、土地利用や建築物の建築を規制し、それに反した利用者に対しては、是正を求めます。これらが、自治体の行ういわゆる「権力行政」といわれるものです。

昔のことわざに「仏の顔も三度」というのがあります。その意味は、どんなに温和な人であっても、無法なことをたびたびされれば、しまいには怒るということです。
この「三度」は「三度まで」というと3回は許容ですが、どうも「三度撫でれば腹が立つ」ということのようで、これですと2回までが許容ですが、そのあたりは、厳密に解釈しなくともよいでしょう。

「権力行政」はいきなり強権をふるうことは稀で、段階を踏んでいきます。それを無視しつづけすると最後には・・・。

自分は税金は天引きだし、事業をやっているわけではないから、権力行政は関係ないと思われている方は多いでしょう。確かにそうかもしれませんが、あなたやあなたのご両親は「空家」をお持ちではないですか。
権力行政を身近に感じていただくため、「空家」を例にして、説明します。

空家を放置しているとあなたも「仏の顔も三度」

都市部に住んでいる方はそれほど実感がないかもしれませんが、今、日本中では空家が増えています。平成30年に国土交通省が行った「住宅・土地統計調査」では、空き家数は848万9千戸と過去最多となり、全国の住宅の13.6%を占めているとのことです。なんと住宅の8軒に1軒が空き家という計算になります。
だいぶ前から少子化が進んでおり、子どもが一人しかいない家庭も多いですが、一人っ子同士で結婚すれば、仮にどちらかの家に一緒に住んだとしても、片方の家は親が死ねば空家になるし、子どもが便利な都会に住めば、両方の実家はやがて空家になります。

空家は人が住んでいる家に比べて、老朽化しやすく、また、だれも住んでいないので放火や不心得者の住みかとなるといった危険があります。そうした空家に対する対策も、やはり法律がないとなかなか進まないので、「空家等対策の推進に関する特別措置法」、通称「空家法」というのが2014(平成26)年にできました。

《助言・指導》
これによりますと、あなたが田舎に空家となった家を持っていて、忙しさにかまけて、管理をせずに、ぼろぼろになってちょっと強い風が吹いたら隣家に倒れそうになっているような状態だったとしましょう。こうした状態になると、市役所(町村役場)によって「特定空家」とされます。

市役所は、「特定空家」がだれのものかを調べて、文書で、あるいは直接、「その家をなんとかしてくれませんか」と言ってきます。
これは「助言・指導」の段階です。これを右から左に聞き流していると、仏の顔を一度撫でた状態になります。通常は、この段階でも一度ではなく、二度、三度と役所からアプローチはあると思いますが、それでも従わずに、知らんふりをしているとします。

《勧告》
次に「改善勧告」というのがされます。これは先ほどより強い、「修繕するか解体するなど、周りに危険のないような状態にしてくれ」ということが猶予期間とともに文書で示されます。
これに馬耳東風だと、二回仏の顔を撫でたことになります。

《命令》
そして、次に来るのは「改善命令」です。これは「修繕か解体をしろ」ということです。この段階では、市役所はかなり怒っていますが、これも無視したとしましょう。三度撫でたわけです。

《代執行》
市役所はあなたの家をあなたに代わって取り壊してしまう場合があります。ふつうは人の財産に行政が手を触れることはありません。しかし、「代執行」という制度を使えば、壊すことができます。

「あー手間が省けた」と思っていけません。取り壊し経費はすべてあなたに請求されます。それを拒めば、法的措置がなされます。市役所は裁判に訴えて、あなたからお金を取り戻そうとするでしょう。
取壊し経費は住民の税金から出ていますし、これに費やした職員の人件費や時間もばかになりません。
お役所からの接触には、早い段階で対応しましょう。

「仏の顔も三度」は行政の基本的考え方

こうした、「仏の顔も三度」的なやりかたは、行政では一般的なものです。

例えば、保育所等の児童福祉施設を開くは、児童福祉法の規定により、都道府県知事の認可が必要です。
都道府県は、認可した施設に対し、認可の基準に従った運営がされているか報告を求め、立ち入り検査などをしますが、その結果、基準違反が見つかった場合には、必要な「改善を勧告」します。

その勧告に従わず、児童福祉に有害だと認められた場合には、「改善を命令」します。

それにも従わない場合には、「事業の停止」を命じ、また、「認可の取消」をすることができます。

実際には、こうした流れの中に施設側の責任者と行政側の担当者のやりとりが何回かあるのが普通で、改善命令やその先の事業停止や認可取消に行くのは、何らかの事情により、どうしても改善が図られない場合でしょう。

こうした権力的な対応について、段階を踏むことは、社会一般のものごとの進め方に合っているほかに、その措置に対する必要性をその都度確認することとなり、濫用を防ぐとともに、行為者自らによる是正を促すものとなっています。

一方で、人的な理由や財政的な理由から、また法制度の不備等諸般の事情から、確信犯的な事業者に対し、なかなか厳しい措置や最終的な措置に踏み切れず、「正直者が馬鹿を見る」ことや反社会的勢力が不当な利益を得る、あるいは人命が失われるような事態を招くような結果となることもあります。
許認可や規制を行う行政の責任が問われることもあり、権力行政を適正に行うことは住民にサービスを提供する行政とは別の難しさがあります。

なお、税の滞納者に対する自治体の働きかけについては、別のブログ『怖いのは税務署だけではありませんー徴収のことば』をご覧ください。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

空家等対策の推進に関する特別措置法第2条(定義)
同法第14条第1項(指導)、第2項(勧告)、第3項(命令)、第9項(代執行)

児童福祉法第35条第4項(児童福祉施設の認可)
同法第46条第1項、第3項(改善の勧告、改善命令) 第4項(事業の停止命令)
同法第58条第1項(認可の取消)

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