はじめに
くらしを考えるうえで大切な選挙。でも、選挙の制度はなかなか複雑でわかりにくい、とっつきにくいと思われている方もたくさんいると思います。
選挙を身近に感じていただくため、選挙の制度や事務の中から、「へー」「ふーん」というようなエピソードをいくつか紹介します。
今回は、投票にまつわるお話です。
投票用紙は紙じゃない
投票所に行って、受付を済ませてもらう投票用紙。じっくり眺めることもなく、四角い記入欄に候補者の名前を書いて、そそくさと投票箱に入れて帰るのがほとんどの方だと思います。
その投票用紙。多くの自治体で採用しているのは、「紙」製ではなく、合成樹脂(ビニール)製です。
紙より、ビニールの方が高いと思いますが、どうしてビニール製なのでしょうか。
選挙管理委員会は選挙の結果を選挙人に対して速やかに知らせるように努めなければならないとされています。
ほとんどの自治体では、投票日の当日に開票作業を行い(即日開票といいます)、しかも、できるだけ短時間で終わらせるため、大勢の職員を動員します。
そうしたこともあり、選挙には多額の経費が掛かります。投開票事務だけをとってみても、市役所の通常業務は8時半又は9時から午後5時までですが、投票所は午前7時に開けます。そのためには、その何分か前に来て準備をします。
午後8時に投票所を閉めてから、たくさんの投票所の投票箱を一か所に集めて、開票作業です。
開票作業は、衆議院や参議院の選挙ですと、比例代表選挙と選挙区選挙の2本立てで、しかも、比例代表選挙の開票は細かく分類しなければならないで、徹夜になることもあります。
多くの職員がたくさんの時間外労働をすることになるのです。当然時間外勤務には手当を支払いますし、また、職員の健康面からも、長時間労働はよくありません。
ですので、投開票事務の経費と時間を節約するため様々な工夫をしています。
そこで先ほどのビニール製の投票用紙の登場です。
投票に行って、投票用紙を投票箱に入れるとき二つ折りにしますが、なんとなく折り目が付きにくい感じがしませんでしたか? 実は、この折り目が付きにくい性質によって、ビニール製のものが投票用紙に採用されたのです。
折りたたんで投函しても投票箱の中で自然に開き、開票に当たって一枚一枚手で開く必要がないので、開票時間の短縮になるからです。
何十万票の投票用紙をたくさんの職員が開いている場面を想像すれば、こちらの方をつかいたくなりますね。
また、投票用紙を数えるのにも計数機というお札を数える機械と同じような構造を持つ機械をつかうのが当たり前になっています。その性能も年々アップしています。こうした技術革新によって、なんとか開票事務を早く、正確に行おうとしています。
投票所一番乗りでできること
近頃は、選挙に行った証明書を選挙管理委員会が発行し、それを商店にもっていくと、割引などの特典が受けられるなどという催しを行っている商店街やチェーン店もあるようです。
それでは、投票所に一番早く来た有権者に対して、選挙管理委員会から、特別に豪華景品が授与される・・・なんて話は聞いたことがないですよね。
すべての選挙管理委員会を調べたわけではありませんが、まあ、啓発活動のためのグッズぐらいは差し上げるとしても、そういう例はないと思います。
そうした特典はなくても、有権者の中には午前7時の投票所が開く時間の前に行って、待ってでも一番乗りをしたい人もいるそうです。
誰よりも早く投票することが気持ちいいと思われるのでしょうが、一番乗りの人には一つ役目があります。
それは投票箱が空なのを確認することです。
選挙は不正が行われないようにいろいろな定めをしています。その中の一つとして、投票所の管理者が投票前に投票する人の面前で投票箱を開いて、その中に何も入っていないことを示さなければならないこととされています。
事前に不正な投票がされていないことを有権者とともに確認するためです。
〇をつける投票方法がある!
最高裁判所裁判官の国民審査の用紙には、辞めさせたい裁判官の氏名の上に×をつけます。
それ以外の「選挙」の投票用紙には、候補者の氏名や政党の名称を書くことになっていて、へたに氏名(政党名称)以外のことを書くと無効投票にされます。
ところが、自治体の長や議会議員の選挙について、投票用紙に候補者の氏名が印刷されていて、投票したい候補者の氏名の上に〇をつける投票方法があります。この投票方法を「記号式投票制度」といい、通常の候補者氏名を記入する投票方法を「自書式投票制度」といいます。
なお、現在は、国会議員の選挙について、対象ではありませんが、過去に衆議院議員選挙について記号式投票制度が導入されたことがありました(平成6年)。この間選挙が行われることなく、すぐに自書式に戻されました(平成7年)。
記号式投票の有権者側のメリットは、いちいち名前を書かなくていい。間違って書いて、無効投票とされるおそれがない、投票の秘密が守られやすいなどたくさんありますね。
でも、実際に導入している自治体はかなり少ないのが実情です。
それは、自書式投票用紙ならあらかじめ準備ができますが、記号式の投票用紙は立候補者が確定してからでないと準備できません。市長選挙や市議会議員選挙ですと、告示日から投票日までが7日、町村長選挙と町村議会議員選挙では5日しかありません。
また、この場合でも、期日前投票の投票用紙は自書式です。そうすると2種類用意することになります。
こうしたことがあって、なかなか選挙管理委員会として、記号式投票には踏み切れないのです。
それでは、一足飛びに電子投票はどうかということです。
電子投票も自治体の長と議員の選挙では行うことができます。過去に数団体実施した例があります。
実施した団体の中には、機器の不具合が発生したり、運用のミスが起こったりした団体がありました。ある団体では、訴訟が起こされ、選挙自体が無効とされ、選挙のやり直しとなりました。
こうしたこともあり、現在は、制度としてはあるものの、実施している団体はないようです。
技術面がしっかりクリアでき、不正の行われる余地がなくなれば、電子投票は素晴らしい投票方法になりますね。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
公職選挙法第6条第2項(選挙結果の選挙人へ早期に知らせる努力義務)
同法第46条の2(記号式投票)
公職選挙法施行令第34条(投票箱に何も入つていないことの確認)
地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に係る電磁的記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律
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