「建設地方債」と「赤字地方債」のちがいとは

はじめに

本記事は、自治体の借金である地方債(県債、市債など)について、発行の基本的な考え方や建設地方債と赤字地方債のちがい、発行の制限などを解説する記事です。

まず押さえよう

自治体がいろいろな事業を行ったり、お金を支給したり、職員に給料を支払うためには財源が必要です。

主な財源としては、みなさんが納める税金(地方税)や地方交付税などがあります。

地方債については、原則として財源とすることができませんが、例外的に認められるものがあります。

例えば、学校や保育所などの施設や道路、河川改修などの土木工事を行う場合などです。
これらのための地方債を建設地方債と呼んでいます。

一方で、例えば一時的な税収の減少を補うためや多額にのぼる職員の退職金に充てるためなど、建設地方債以外の通常の収支の不足を補うため特例的に発行されるものが、赤字地方債です。

赤字地方債には、地方交付税の代わりとして発行される地方債もあります。

どうして建設事業には地方債が充てられるのか

マイホームを建てる場合に、みなさんが大金持ちなら、キャッシュで工務店や不動産屋に支払うことができますが、多くの人は持ち合わせがないからローンを組みます。

マイホームは何千万円単位の買い物ですから、お金がたまるまで待っていては、定年間際か、退職後になっちゃいますし、そうしたら、わずかな期間しか快適な家に住まないうちに一生を終えてしまうかもしれませんしね。

それより、人生の一定の時期に借金をしてもマイホームを建て、幸せに暮らしながら、将来の収入から返していく。
これが合理的だと思っている人が多いからですね。

国や自治体の場合も同じで、道路や橋、学校や消防署などの施設をつくったり改修したりするためには多額の経費がかかり、またそうしたものは、将来にわたってずっと住民がつかっていったり、住民のためになるものです。

その建設費用を一年間の収入(歳入といいます)から出すと、その年の福祉とか教育とかほかのいろいろなことに充てる財源が不足してしまいます。
それではよくないので、「世代間の負担の均衡」といった考え方から、借金をして、将来的に施設などを使うこととなる人も含めて返済していくということが認められています。

そうすると、原則借金禁止の意味合いもわかってきますね。
支出の効果が一年とか短い間しか続かない支出について借金をすることは、今いい思いをして、負担は先送りになるので、原則禁止なのです。

 ※地方債を充てられる事業については、建設事業以外に出資金・貸付金の財源とする場合等があります。
  詳細は地方財政法第5条を参照してください。

建設地方債ならいくら借りてもいいの?

マイホームを建てる場合にも、自分の貯金と収入を考えますよね。ローンの返済額が収入のほとんどを占めたら、暮らしていけないですからね。

自治体も同じです。
自治体の借金については、いろいろな基準によって制限がされています。

代表的なものをひとつ紹介すると、「実質公債費比率」は、一定の算式によって算出された、自治体の歳入に占める借金の返済額(「公債費」といいます)の割合を示したものです。

この比率が18パーセント以上となると、通常は不要な起債(借金をすることです)についての総務省(または都道府県)の許可が必要となります。
また、25パーセント以上となると、一定の施設について起債ができないこととされています。

こうすることによって、借り過ぎを防いでいます。

国の財政状況と赤字国債

国も建設国債以外の国債を発行することは原則禁止されており、赤字国債を発行する場合には特別の法律をつくって国会で議決してもらいます。
この特別の法律はここの所、毎年国会に出されています。

令和5年度の国の予算では、歳入総額114兆38百億円のうち、国債が35兆42百億円と、約31パーセントを占めています。

また、国と地方の債務の残高は令和5年度末には1279兆円となる見込みです。
数字が大きすぎて、ピンときませんが、日本の総人口を1億2千万人とした場合、国民一人当たり1千万円あまりの借金となると、考えてしまいますね。

国の都合で地方が発行する赤字地方債

先ほどの債務残高は、国と「地方」を合わせたものです。
地方の債務残高には、建設地方債も今まで説明した赤字地方債も含みますが、少し特殊な赤字地方債として、本来現金で交付されるべき地方交付税の一部を地方債に振り替えた分が入っています。

地方交付税については、別の記事で解説するつもりですが、ここでは、自治体にとっての非常に重要な財源の一つであるということと、国が自治体にいろいろな事務を義務付け、それらについて全国一律の行政水準を保つために、税収だけではそうした事務を行えない団体に交付されているものだということを気に留めてください。

国は一定の交付税額を確保し、自治体に交付する義務があるのですが、地方交付税は国の予算の中でもかなりの額を占めます。
国の財政が苦しく、地方交付税を全額現金支給できないので、苦肉の策として、その一部を地方に借金をしてもらい、その償還金を後の年度の地方交付税で面倒を見るという制度になっています。

この地方債を「臨時財政対策債」といいます。

ちなみに、令和5年度に地方に交付される交付税総額は18兆4千億円、臨時財政対策債は1兆円となっています。令和5年度末の臨時財政対策債の残高の見込みは49兆1千億円となっています。

赤字地方債と赤字団体について

赤字地方債は、通常の収支の赤字を補うものですから、これを発行しないと赤字になってしまうおそれがある団体が発行するものです。
ただし、これを発行したからすぐに破綻してしまうというようなことはありません。一時的な収入の減少や支出の増加が原因のことがほとんどで、その発行額も多額にのぼることはあまりないからです。
それに先ほど少し説明したように、借金については、いろいろな基準を設けて、借り過ぎにならないようにしているからです。

一方で、臨時財政対策債については、やむを得ないこととはいえ、本来すべきでない借金をしている形であり、これによることなく、全額地方交付税が交付されるのが望ましいものです。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。

解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方財政法第5条(地方債の制限)
同法第5条の3(地方債の協議等―実質公債費比率の定義や基準)
同法第5条の4(地方債についての関与の特例―許可を要する場合等)
地方財政法施行令(地方財政法の上記各事項の詳細を定める)

参考図書・文献

「我が国の財政事情」(令和5年度予算政府案)
 令和4年12月 財務省主計局(財務省のホームページより)

「令和5年度地方財政対策のポイント」
総務省自治財政局
令和4年12月23日(総務省のホームページより)

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