まわりはほとんど知っている「土地のはなし」

はじめに

自治体にとって、「土地」は様々な意味合いを持ち、多くの部署で何らかの関係があります。例えば、自治体の権限の及ぶ範囲としての「土地」、課税の客体としての「土地」、財産としての「土地」等です。今回は、そうした中から、「土地利用の規制」について、取り上げます。

土地利用規制の原則―省庁縦割り主義

自治体は法律や条例に基づき、いろいろな種類の土地について、それぞれの根拠法令で利用の仕方を規制したり、土地の所有者に適正な管理を求めたりします。

日本の土地については、その利用規制は省庁の縦割りとなっています。
それは、同じ土地でも、種類(地目)によって、居住用、農産物生産用というように土地の利用目的が異なり、利用目的に応じた所管省庁が決まっているからです。そして、その利用目的によって、土地の価値(取引価格)も異なってきます。

自治体は省庁の所管する法律によって土地利用規制の権限の一部を行使しますが、ひとつの省庁の所管法律内で片付くこともあれば、そうでないこともあります。

まず、土地の種類と根拠法令と所管省庁について、記します。

市街地、住宅が多く建設されている土地―都市計画法―国土交通省都市局
田、畑などの農地―農地法―農林水産省農村振興局
山林―森林法―林野庁
道路、河川などの用地―道路法、河川法等の個別法令―国土交通省の所管部局

これらが代表的なものですが、このほかに、国立公園用地は環境省、赤道青道といわれるものは財務省又は市町村の管理などとなっています。

また、急傾斜地や土砂災害の危険がある土地などを災害防止の観点から規制している法律もあります。 土地の種類に基づく規制法とこれらの規制は、通常は、重ねて適用されますが、実際の適用に当たっては、住民の権利を制限することとなるので、慎重な確認が必要です。

省庁の権限が移るときが問題

土地の規制は、こうした省庁の縦割りでできています。
縦割り行政というのは、自分の所管に関係ないところには口を出さないのが原則ですので、例えば、都市計画法の適用を受ける土地について、その規制方法に従って土地の利用を規制している場合には縦割り行政の問題はほぼ起こりません。

ところが、いったん自分の所管に少しでも関係すると、その所管省庁はできるかぎりその影響を小さくするよう、つまり、自らの影響力を残すよう関与してくるのが、縦割り行政です。
そうした典型例は、農地を宅地にするような場合です。すでに都市計画法の網がかかっている市街地の農地の場合は、さほどでもありませんが、農地法で守られている農地を広く宅地にするような場合については、調整が必要です。

自治体でも、この地域は人口集積を図る、この地域は農業振興を図るというような計画を有しています。そうした考え方を変える場合には、自治体としての街づくりの考え方についての整理も必要となってきます。

法の範囲外の行為について

法律はどんな土地利用の形態もすべて規制しているわけではありません。規模が一定以上のものについてのみ規制し、あるいは、まったく規制していない類型の行為もあります。
例えば、山林原野などを宅地にする開発行為を一定の都市計画区域で行う場合、規制対象となるのは3000㎡以上とされています。

また、最近まで、谷津と呼ばれる山間の窪地を土砂で埋め立てる行為も、一部の山林で行われる場合等を別として、法律による規制はありませんでした(2021年の静岡県熱海市の大規模土石流災害を契機とした「宅地造成及び特定盛土等規制法」の改正法施行により、いくつかの条件のもとにこうした行為にも法規制の網がかぶせられました)

独自規制と限界

事業者の中には、法律の規制がないのを知り、周囲の迷惑となるような土地利用を行う者もいます。そうした状況に対して、都道府県や市町村は独自の条例などをつくって規制をしてきています。

しかしながら、事業者の中には無許可で、あるいは、一定の計画について許可を受けても、その計画を超えて改変行為を行ったりする例が多く、指導、命令等に従わない事例もあります。

撤去を命じても、資力がないと応じず、姿をくらましてしまうなどのケースも目につきます。結局、周囲に危険がある場合には、税金を使った代執行を行政が行いますが、その費用を請求しても事業者から回収できるケースはまれです。

原因と対処

こうしたことの直接的な原因は、不法に自らの利益を図ろうとする者の存在や、必要な不要物処理経費を支払わない発注事業者の存在が挙げられます。
その背景として、日本では、所有権の力が強く、所有地内での行為に対する規制がなかなかかけられないということがいわれます。

昨今では、自治体が条例によって対処してきたものが、先の「宅地造成及び特定盛土等規制法」や「空家等対策の推進に関する特別措置法」の制定、改正など、法律レベルで規制するものも増えてはきました。
しかし、どうしても、やったもの勝ちというような現実はあります。

こうした悪質な事業者やそれに協力する土地所有者に対する法律による規制の強化や適切なその運用はこれからも検討されなければなりません。

自治体としては、法律でカバーできていない部分についての条例での規制の検討、都道府県と市町村の連携強化、区域内のパトロール、事業者に対する重ねての指導や命令と要件を満たした場合の躊躇ない告発といった手段をとっていくのが最善の方法ではないかと思います。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

都市計画法
農地法
森林法
道路法
河川法
宅地造成及び特定盛土等規制法
空家等対策の推進に関する特別措置法 等土地利用規制の法律は多岐にわたる。

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