はじめに
全国にはどの自治体の土地か定まっていない土地があります。このような土地を「境界未定地」といいます。この記事は、境界未定地の例を示しながら、その問題点や境界確定の手続などについて解説します。
境界未定地はどのくらいある?
国土地理院は日本の国土の面積を測る機関です。その一環として、全国の市町村ごとの面積も測定し、公表しています。
その国土地理院の資料(「令和5年全国都道府県市区町村別面積調(4月1日時点)」)によると、日本の総面積は、377,969.27平方キロメートルですが、都道府県をまたがる境界未定地だけでも、宮城県蔵王町、同県川崎町と山形県山形市、同県上山市の区域(蔵王山)をはじめとして、14か所が示されています。その面積を合計すると12,780.08平方キロメートル(全国土の約3.4パーセント)となります。
同じ県内の市町村における境界未定地はこれよりはるかに多いので、全国には意外にどの市町村に属するか決まっていない土地が多いことがわかります。
お住いの市町村に境界未定地があるかどうかは、この国土地理院の資料を見ればわかります。ネットでも見ることができるので、興味のある方はご覧ください。
市町村の境界はどのように決まっているの?
都道府県や市町村など自治体の基本的な決まりを定めているのは、「地方自治法」という法律ですが、そこには「普通地方公共団体の区域は、従来の区域による」と定められています。
都道府県や市町村は地方自治法の成立以前から存在していたので、その区域をそのまま地方自治法の適用を受ける団体の区域としようというものです。
市町村は江戸時代に庄屋や名主が治めていた小規模な集落が、その後の合併などによって大きくなった例が多いですから、田畑を耕作するために必要な水をもたらす河川や、分水嶺や通行上の支障となる山の稜線などをその境とする例は多かったものと思われます。
しかし、大きな湖の区域や川の中にできた洲、明確に境界を決めなくとも済んでいた山奥などは、いざ境界をはっきりさせようとすると、関係団体の意見が異なり、境界が未定のまま現在に至っているケースがこうした境界未定地の多くを占めているものと考えられます。
有名な境界未定地の例
〇富士山山頂付近
富士山山頂付近の境界は未定です。国土地理院では、山梨県富士吉田市と静岡県小山町にまたがる257.47平方キロメートルの区域及び山梨県鳴沢村と静岡県富士宮市にまたがる478.66平方キロメートルの区域について、境界未定地として挙げています。
山梨県、静岡県とも富士山の保全のための取組を優先させ、この問題については棚上げするというスタンスのようであり、積極的に境界を確定する方向ではないようです。
〇十和田湖の湖面区域
青森県十和田市と秋田県小坂町にまたがる十和田湖の湖面の区域については、長い間境界が未定でした。
しかし、平成20年8月に両市町長が、2県の知事の立ち合いの下、十和田湖の湖面部分を青森県側6割、秋田県側4割とする覚書を締結し、同年12月の官報告示により境界が確定しました。
その区域は、60.02平方キロメートルに及びます。
境界画定がされないことのデメリット
境界が確定されないと様々な不都合が生じます。
まず、住所の表示が決まりません。住民が住んでいた場合には、どちらの自治体がサービスを行うのか、また、課税関係がどうなのかという問題も起こります。都道府県が異なれば、警察の所管もちがいますから、泥棒が入ったらどちらの警察が捜査するのかというようなことも起こりえます。
実際には、そうした問題については、関係自治体や関係機関が話し合って、境界問題とは切り離して実務上の対応を定めている例が多いでしょう。
では、そのような対応をすれば、全く問題ないのでしょうか。
そうであれば、十和田湖の湖面の面積を確定させたのはなぜでしょうか?
ひとつには、やはり、境界は自治体の権限が及ぶ地理的範囲を定める基本的なものですから、決まっていることが望ましいことであるのは間違いないでしょう。
もうひとつ。自治体の面積は、地方交付税の計算の単位となっている場合があります。未確定の地域について、自治体の面積から除かれると、それだけ地方交付税が減るということもあるのです。
実際に、十和田湖の場合、境界確定の結果、関係県と市町で年間6700万円の地方交付税が10年間分追加交付されることとなったとのことです。
境界確定の手続
市町村の境界変更は、関係市町村が当該議会の議決を経て、都道府県知事に申請し、都道府県知事が議会の議決を経て、これを定め、総務大臣に届け出ます。
総務大臣がそれを官報に告示すると効力が発生します。
その市町村の境界変更が、都道府県の境界変更を伴う場合には、関係の都道府県と市町村は、それぞれの議会の議決を経て、総務大臣に申請し、総務大臣が定め、官報に告示します。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方自治法第5条(自治体の区域)
同法第7条(市町村の境界変更)
測量法(この中で国土地理院の測量について定める)
「令和5年全国都道府県市区町村別面積調(4月1日時点)」(国土地理院)
十和田湖湖面の境界画定については、十和田市の「広報とわだ」2009年2月号を参考とした。
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