「不信任」と「議会の解散」―首長と議会の対立の極致

はじめに

本記事は、首長と議会が何らかの原因で対立した場合に、それを最終的に解消する制度として定められている、議会における首長の「不信任」議決と、それに対する首長の「議会の解散」の制度について、解説する記事です。

まず押さえよう

議会と首長が何らかの原因で対立し、話し合い等による関係修復が困難な場合に、議会は、首長の「不信任」議決を行い、首長を辞めさせることができます。

それに対し、首長は、「議会の解散」を行うことができます。

議会の解散が行われた場合には、議員全員の選挙が行われますが、その後招集された議会で、再び首長の不信任議決がされた場合には、首長は「失職」します。

議会と首長はどうして対立するのか

議会も首長も住民の選挙で選ばれますので、国政とちがって、議会のなかで、いわゆる首長与党が必ずしも多数派を占めているとは限りません。
また、特に市町村においては、無所属の議員が多く、保守系の議員のなかでも「会派」という、ある程度主義主張を共通した者でつくった組織単位に分かれて活動を行うという実態もあります。よって、国政における政党単位の与野党より、会派単位での与党会派、野党会派の数が重要になってきます。

こうした状況はありますが、多くの団体では、仮に与党会派が少数の首長であっても、議会に丁寧に説明するとか、議員の要望に耳を傾けるとか、それぞれの方法によって、議会と意思疎通を図り、日々の行政を深刻な対立を生むことなく行っていっています。
議員も、自身が地域や地区の代表であるという意識を持ち、行政側とコミュニケーションをとり、自らの地域や地区の振興を図るという考え方の者は多いです。

しかしながら、時に、その自治体の重要施策における新首長の方針変更、議会との意思疎通を図らない独断専行、実現が難しいと思われる選挙時の公約についての当選後の撤回、部下に対するパワーハラスメントや関係者へのセクシャルハラスメント、また、収賄等の犯罪行為などによって、首長として不適格、あるいは市政を混乱させた、市政への信頼を失わせたなどという理由により、不信任案が提出される例があります。

不信任案の提出と議決

こうした対立が生じた場合には、議会は混乱します。一定の関係修復への努力がされるのが常ですが、不調に終わった場合には、議会側の最後の手段として、首長の不信任の決議が議会に提出されることになります。
決議自体は議会のルールにより、少数の議員でも提出することはできますが、選挙で選ばれた首長を失職させるのですからそれなりの慎重な手続が定められています。

在任議員の3分の2以上の者が出席して、その4分の3以上の賛成が必要です。
例えば、在任議員の数が30人だとしたら、最低20人が議会に出席して、そのうち15人が賛成しなければならないことになります。全員出席なら、23人以上の賛成が必要です。

通常の議案が可決されるためには、定数の半数以上の出席でその過半数の賛成があればいいので、かなり厳しい要件となっています。ちなみに国会における内閣不信任の議決は過半数の賛成でよいことになっています。

首長の選択―辞職か議会の解散か

自治体の議会で不信任議決がされた場合に首長としての対応はふたつあります。
失職」か「議会の解散」かです。これは内閣不信任案議決の場合に「内閣総辞職」か「衆議院の解散」かの選択肢とほぼ同じです。

その選択の期間は議決通知の日から10日間です。

白旗を挙げて失職を選んだ場合にも再び次の首長の選挙に立候補はできます。それは議会の言い分をもっともだと認めることにもなります。
首長としては、自らの行動を正当と考えているのでしょう。実際には、ほとんどの場合は解散を選んでいます。

失職を選択したのは、収賄罪で起訴されたとか、議会議員の任期満了が近く、もともと議員選挙の予定があるので、解散を選択することに意味がない場合が多いようです。

解散を選択した場合は、議長あてにその旨文書を渡します。それによって議員全員の議員資格が失われ、選挙をすることになります。

そうすれば首長の首はつながりますが、いろいろな事情で解散後に自ら首長の職を辞めるケースもあります。その場合には、首長選挙と議員選挙のダブル選挙が行われることになります。

議会のリターンマッチー再可決

議会が不信任を突きつけたが、それに応じず解散という形で身分を失うこととなった議員側には「リターンマッチ」のチャンスが選挙後に訪れます。それが不信任案の再提案と再可決です。

リターンマッチは前回より議会が有利です。再可決の場合は、在任議員の3分の2以上の出席は同じですが、その過半数の賛成でよいこととされています。
出席議員が30人とした場合に、前回は4分の3の23人の賛成が必要だったのに対し、今回は16人でいいことになります。首長派の議員が半数を占めないと、首長は失職してしまいます。実際にその成功率は高いです。

予算を減額しても不信任

予算は自治体にとって仕事をやるうえで不可欠なものです。予算についても、議会の議決がないと成立しません。

予算の中には法律で支出が義務付けられている経費や、災害復旧や感染症予防のための経費が計上されています。議会がこうした経費を削除したり減額したりした場合には、「こういう理由で計上したので、考え直してもらえませんか」と首長は議会に言います。これを再議に付すといいます。

それでも災害復旧等の経費を議会が削除または減額した場合には、首長はその議決を不信任議決とみなすことができることとされています。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第178条(不信任議決と長の処置)
同法第177条(収入又は支出に関する議決に対する長の処置)

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