はじめに
本記事は、あまり知られていませんが、暮らしに身近な事業を行っている団体が多い「組合」について解説する記事です。
まず押さえよう
「組合」は自治体が人や金を出し合って、自治体のやるべき仕事を共同して処理するためにつくる組織です。
地方公共団体には、「普通地方公共団体」と「特別地方公共団体」があり、普通地方公共団体は、都道府県と市町村ですが、組合は特別地方公共団体に分類されます。
「組合」には「一部事務組合」と「広域連合」という2区分があります。
「一部事務組合」は大規模な施設を用いて行う業務について、共同処理の方法として大きな役割を果たしています。
「広域連合」は後期高齢者保険の業務や県域を越えた事務を行っています。
地方公共団体の種類
住民票や戸籍の届出や写しの交付の請求、保育所や福祉の手続などには市役所(町村役場)に行きますし、公立なら市町村立の小中学校へ通います。その代わり、市町村長名で納税通知書が届きます。
身の回りのいろいろな仕事をやっているのは、市役所(町村役場)ですね。
でも、ちょっと待ってください。例えば、ごみ処理、消防、水道、火葬場や斎場、こうしたものは、市役所・役場とは別の団体がやっているかもしれませんよ。
そんな地味だけれど大切な仕事をやっている団体が、「地方公共団体」のなかにあるのです。
自治体の組織について定めている地方自治法では、地方公共団体を「普通地方公共団体」と「特別地方公共団体」に区分しています。
普通地方公共団体は、都道府県と市町村です。
そして、特別地方公共団体として、
東京都の「特別区」。港区とか中央区とか新宿区ですね。
「財産区」
「地方公共団体の組合」 という3種類を規定しています。
「特別区」については、ご存じですね。
「財産区」というのは、自治体に帰属しない、一地区が持っている山林やため池などの施設を維持管理するために設けられた仕組みです。
地方公共団体の組合とは
「組合」というと、労働組合や農業協同組合などを思い浮かべる方もいるかもしれません。
ここで説明するのは、それらとは別の地方公共団体のつくる「組合」についてです。
「組合」の種類としては、「一部事務組合」というものと「広域連合」というものがあります。まず、「一部事務組合」から説明します。
一部事務組合とはどういう団体か
「一部事務組合」は、特別区ほどなじみはないかもしれませんが、地味に市町村の仕事を市町村に成り代わってやっている組織です。例えば、家庭や事業所からでるごみの処理、消防、毎日使う水道の事業、火葬場の仕事、こうしたものをいくつかの市町村がお金や人を出し合って事業体をつくり、そこで処理させる仕組みが「組合」です。
今挙げた仕事に共通するものがありますが、おわかりでしょうか。
それは、大規模な施設が必要だということです。
ごみを処理するためには一定規模の焼却施設が必要ですし、消防は消防自動車・救急車をはじめ、いろいろな設備と人員が必要です。水道事業には浄水施設と各家庭に水を送る長い管路がいりますし、火葬場にはもちろん火葬の施設が不可欠です。
こうした大規模な施設は、人口が何十万人もいる市なら単独でつくれますが、数万人、あるいは何千人という市町村ではとても無理です。だから一定の地域でまとまってこうした事業だけを行う組織をつくります。
全国で、一部事務組合は、約1300団体あります(令和元年度末(広域連合を含む)、「令和3年版地方財政白書」による。以下、一部事務組合関係の数字の根拠は同書)。市町村の数が約1700ですから、それに近いですね。
その1300団体に加入している自治体の数は、延べ8800団体です。ということは、1市町村当たり、5つの組合に加入していることになります。
それだけ、この組合が身近な仕事を処理しているということです。
今まで挙げた仕事は、大規模施設の設置を伴うものですが、それ以外の業務を共同で行う組合もあります。
例えば、「広域市町村圏事務組合」などと呼ばれる組合は、職員の採用や研修、広域圏の計画づくりなど、いわゆるソフトな業務も共同処理します。ほかに電算事務や職員の退職手当を処理する組合もあります。
広域連合とはどういう団体か
もうひとつの「広域連合」を説明します。
これは後期高齢者(75歳以上)については、国民健康保険などと別の保険になっていますが、その仕事を県単位で行ったり、「関西広域連合」のように都道府県の区域を超えて、防災や観光や産業振興などいろいろな仕事をやったりしています。
例外はありますが、大規模に、あるいは非常に広範囲に一緒の仕事をやるのが「広域連合」という仕組みです。
組合の組織
これらの一部事務組合や広域連合の代表者は、その組合を組織する市町村や県の首長がなる例が多いです。
一部事務組合をつくるときに、関係市町村で協議し、名称や行う事務のほか、議会と執行機関の組織や選ぶ方法、経費の出し方などを「規約」に盛り込みます。
職員については、独自に採用するパターンと組織する市町村などから派遣されるパターン、あるいはその混合のパターンがあります。
混合のパターンの場合、組合が採用した職員を「プロパー」といい、市町村などから「派遣」「出向」してきた職員に対することばとしてつかいます。
ごみ処理や水道など大規模な設備を用いる組合においては、その維持管理に従事する職員はプロパーが多いですね。一定の専門知識や技術がないと動かせないので、異動のないプロパーの職員が携わります。
これに対し、総務や財務などの担当やお金や人を出している団体(構成団体といいます)と折衝する役目の幹部、あるいは組合の事務方のトップなどは構成団体から二、三年の任期で派遣や出向してくる組合もあります。
派遣・出向者とプロパーの関係はいろいろです。平和的に自らの役割をそれぞれこなしていく団体が多いと思いますが、両者のそりが合わない、あるいはプロパー側がさまざまな要求を出すというところもあるようです。
派遣・出向者は多少トラブルがあったとしても、双方とも一、二年の辛抱で済むからまだいいですが、プロパー同士は、異動もないので、退職まで同じ職場です。長く一緒にいると、昔のエピソードもみんな知っているということで、人間関係は深くなります。これは、小さい組織によくあることですが、うまく解決するのは難しいですね。
もう一つ、構成団体の方から見ると、事務のシステムが違いますので、予算などの面でコントロールが効きにくいという問題があります。
大規模な施設を持っているということは、修繕や耐用年数が過ぎたことに伴う更新に多額の経費が掛かるということになりますので、構成団体としては、組合側の都合だけで話を進められると困るということです。
こうした問題をうまく解決していけば、この仕組みは大変効率的だと思います。
共同処理はどの事務でもできるの?
なんとなく、市町村の中の仕事は、全部市役所(町村役場)がやっていると思っている方も多かったと思いますが、実際には、この共同処理の仕組みは多く用いられています。
それでは、市町村の仕事はなんでも共同処理できるでしょうか。
市町村のコアとなる仕事はできなそうな気もしますね。でも、コアとなる仕事とは何でしょうか。税金をかけたり取ったりすることでしょうか。小中学校を建てることでしょうか。
実は理屈のうえからはなんでも共同で行えます。それって、合併するってことと一緒じゃないのとの声が聞こえてきそうですが、確かにそうですね。
町村については、かつて「全部事務組合」という制度があって、それができると町村は消滅すると定められていました。細かい話を別にすれば、合併と同じですね。だからこの制度はほとんどつかわれることがなく、廃止されてしまいました。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方自治法第1条の3(地方公共団体の種類)
同法第3編(特別地方公共団体)
令和3年版地方財政白書 第1部令和元年度の地方財政の状況 6一部事務組合等の状況(総務省ホームページ→政策→白書、2023年2月6日参照)
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