はじめに
「過疎地域」「消滅可能性自治体」「限界集落」。これらは人口が減少する自治体に関することばです。一方、「東京一極集中」は、止まらぬ東京都への人口などの集中を表すことばです。
人口減少の問題は、古くからありました。
1950年代後半から1970年代頃までのいわゆる「高度経済成長期」には、東京都、大阪府、愛知県を中心とする地域にその他の地域からの大規模な人口の流入がありました。その結果、地方部の県市町村の中には人口が減少する団体も一定程度ありました。これは「過密過疎」の問題として捉えられてきました。
この時期、日本全体では自然増による人口の増加が著しく、人口の流出を防ぐことを含め、「人口を増加させる」ことが多くの市町村の重要な行政目標でした。同時に、大都市圏においては「過密」への対策が急務でした。
1990年代頃から自然減が問題視されはじめ、少子化が深刻化するにつれて、「限界集落」や「消滅可能性自治体」など、より厳しい表現のことばが登場してきます。
現在、人口減少に悩む市町村では、「人口の確保」が重要な行政目標となっています。
本稿ではことばの意味を解説しながら、「人口の増加」から「人口の確保」への変遷について述べます。
人口増減の原因と「過疎」問題
人口の増減は、社会増減と自然増減に区分されます。社会増減とは、転居による増減です。自然増減とは、出生による増と死亡による減です。外国人を含む人口を議論する場合には、これに外国人の増減を考慮する必要があります。
このうち、社会増減は、日本国全体で見た場合には、プラスマイナスゼロですから、国全体の人口減少問題というのは、イコール自然減の問題となります。
しかしながら、都道府県単位や市町村単位で見ると、社会減の問題は重要です。むしろ今までの地域の人口減少問題は社会減に対してどうするかという問題でした。
この問題は「過疎」の問題として捉えられていました。後程説明する「過疎地域対策緊急措置法」が施行された1970(昭和45)年時点で、過去5年間(1960年→1965年)に人口が10%以上減少する等の要件を満たした市町村は全市町村の約23%あり、また、都道府県単位で見ても1960(昭和35)年より1965(昭和40)年の方が人口が減った団体は25団体ありました。
日本の総人口は、国勢調査の結果で見てみると、1960(昭和35)年に9430万人だったものが、増加を続け、50年後の2010(平成22)年調査の1億2806万人をピークに減少に転じています。
つまり、この間は、自然増はかなりの数があったが、地域間で激しい人口移動が起こり、過疎の団体と過密の団体が生じたということです。
国では議員立法で1970(昭和45)年に「過疎地域対策緊急措置法」が制定され、各種支援制度が設けられたところです。この法律は時限立法でしたが、名称を変えるなどして数次にわたり延長され、現在では「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」として2031(令和13)年3月末までの時限立法とされています。
こうした状況のもとで、当時の市町村が策定する5か年計画などの長期計画においては、住民のくらしを改善し、次に述べる人口増加(=流出防止)の手立てを講じることによって、将来の人口を現状人口より増加させると見込むことは、多くの団体で行っていました。
人口増加の手立て
そのための人口増加対策としては様々なものがありました。
個々の市町村では、地場の産業の振興に取り組み、公共施設を整備して住民の利便性を上げるほかに、より直接的な効果を見込んでの住宅地開発や工場等の誘致を行う団体は多かったですし、県も、県内の各種産業の活性化を図るとともに、工業団地を造成し、企業の誘致を図り、関係自治体と「期成同盟」のような組織をつくり、高速道路の建設や新幹線鉄道の敷設の働きかけを絶えず行ってきました。
社会減となる原因としては、義務教育や高等学校を終えた時点で進学や就職のために故郷を離れ、東京や近傍の都会へ行き、そのまま居ついてしまう、あるいは、大学を終えて、故郷に帰ろうとしても就職口が見つからず、やむを得ず、都会で就職するというケースがかなり多く見受けられます。
加えて、この間、農業や林業等の第1次産業は衰退の一途をたどっていました。よって、就業の場の確保に各自治体ともに力を入れるのですが、そのためには人口集積地とのアクセスの改善が必要だと考えるのです。
例えば、高速道路のインターチェンジができ、その周辺に工業団地や物流団地ができれば、車で通える距離に就業場所ができますし、また、地域の産物を大量消費地へ早く送ることができるので地場産業の振興=働き手の増加につながると考えます。観光地なら、新幹線が通れば、都会からの時間距離が短縮され、多くのお客が見込めるのではないかと考えます。
こうした取組が成功したか失敗したかについては、一概に言えません。個々の地域や個々の市町村ごとに評価されるべきでしょう。
地域自治体が取り組むアクセス改善は両刃の剣で、近くなった人口集積地へ移転しやすくなり、住宅地開発はどうしても市の外延部で農地や林地などにおいて土地区画整理や開発行為の手法で行われることが多いことから、中心市街地の空洞化を招くといった、人口増加の目的とは正反対の結果となることもあります。
自然減と「少子化」問題
市町村によって状況は異なりますが、おおむね1990年代から自然減となる団体は増加してきたと思われます。都道府県単位で見ると、1990年において自然減の団体は高知県だけでしたが、2000年には13団体に増加し、2004年には25団体と自然増団体を逆転しています。翌2005年には全国における出生数を死亡数が上回り、自然減団体も36団体と一挙に増加しました。
自然減とは、出生による増を上回る死亡による減があることです。
第2次ベビーブームの1970年代前半には年間200万人以上の出生がありましたが、1980年代には150万人を切り、2010年代には100万人の大台を切り、その後も減少の一途をたどっています。
一方で、死亡者数は、1970年代には70万人台だったものが、2000年代に100万人を超え、現在は150万人を超えています。よって、前述のとおり2010年の国勢調査をピークに人口は減少に向かいました。
自然減の問題は、人口が減少すること自体よりも出生数の減の方が各方面に与える影響は大きいと考えられています。これが少子化の問題です。
合計特殊出生率という女性が一生の間に産む子の数を示す数値は、1960年当時には2を維持していましたが、平成に入ったころには1.54とかなり少なくなり、その後も1.2から1.4の間を推移しています。
この数値が2を維持できないと人口は減少するのですが、その値が低ければ低いほど、また、出生数が少なければ少ないほど、次世代に出産できる女性の数が減ります。
少子化した自治体・高齢化した自治体を表すことば
過疎地域市町村
これは、前に述べた、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」(従前の「過疎地域対策緊急措置法」)の指定を受けた市町村をいいます。この法律には、これらの団体に対する国庫補助金の補助率のかさ上げや特別の地方債を借りることができることなどが定められており、財政的な支援策としてはかなり手厚いものになっています。
その対象団体の要件は、①昭和50年から平成27年の40年間における人口減少率27%以上。②平成27年における高齢者比率が35%以上かつ若年者比率が11%以下かつ①の期間内の人口減少率23%以上。③平成2年から平成27年の間の人口減少率が21%以上。という①から③のいずれかの要件を満たし、かつ、平成29年度から令和元年度の財政力指数の平均が0.51以下の団体です。このほか、合併した団体については、特例が定められています。
なお、財政力指数については、別のブログ『「財政力指数」ってなに?-わかるお役所用語解説1』をご覧ください。
消滅可能性自治体
「消滅可能性自治体」とは、「20歳から39歳までの女性人口が、2010年から2040年にかけて5割以上減少する市区町村」をいいます。これは、法律に根拠があるものではなく、増田寛也元総務大臣が座長を務めた「日本創生会議」が2014年に公表したものです。
この考え方は、人口が減り続けて、やがて人が住まなくなればその地域は消滅しますが、その「消滅可能性」を測る指標として、人口の「再生能力」つまり、出産可能な女性が次の世代の女児をどの程度再生産できるかに着目したものです。男女が20歳から39歳になるまでに3割程度の人口流出がある市町村の場合、出生率がすぐに2.0となったとしても、流出が原因で出産可能な女性が減っていくので、人口減少が止まらず、やがては消滅する可能性があるということで、こうした表現となっています。
公表当時には非常に話題になりました。
2024年には「人口戦略会議」(議長:三村明夫、副議長:増田寛也)が、2023年11月の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)に基づいた新たな「消滅可能性自治体」リストを公表しています。
限界集落・準限界集落・限界自治体
「限界集落」とは、「65歳以上の高齢者が集落人口の50%を超え、冠婚葬祭をはじめ田役、道役などの社会的共同生活の維持が困難な状態にある集落」をいいます。世帯の類型としては、老人夫婦世帯や独居老人世帯が多くみられます。
「準限界集落」は、「55歳以上の人口が集落人口の50%を超え、現在は集落の担い手が確保されているものの、近い将来、その確保が難しくなっている集落」で限界集落の予備軍的存在です。世帯の類型としては、夫婦のみの世帯や準老人(55歳から64歳まで)夫婦世帯が多く見られます。
また、「限界自治体」は、自治体単位で「65歳以上の人口が過半を占めた団体」をいいます。
長野大学環境ツーリズム学部の大野晃教授(肩書は末尾参考文献の記述による)の提唱にかかるものです。
大野氏は、集落区分について、この区分以外に「存続集落」と「消滅集落」を挙げています。
集落単位で考えるので、都会部であっても、若年層があまり住まず、当初の入居者が住み続けている共同住宅を抱える地域などは「限界集落」や「準限界集落」に該当しているところもあります。
人口の「増加」から人口の「確保」へ
日本全体として自然増が続いていた時代には、人口問題は「過密過疎」の問題でした。不便な地域、不利な地域を支援し、そこに住む人の不便を解消しようとする施策を講じようとするもので、一定数の住民の生活の営みを前提としていたかに思えます。
しかし、そうした施策で回復の道をたどった自治体は少ないでしょう。
自然減がほとんどの自治体で一般的になってきた現在では、日々の生活の営みの困難さとその先にある集落の消滅に対して、どのように対策をしていこうかというレベルの自治体が増えていると思われます。集落に残る老人たちのケアと空家や荒れる一方の自然環境をどうするかという問題です。
小規模な市町村では、住居を付与し、職場の面倒も見ることによって他地域から自らの地域に人口を確保する施策を行う団体が出てきています。こうした施策の是非については様々な意見があると思いますが、少なくともここまで追い詰められている状況は認識すべきでしょう。もはや、市町村にとって、人口は、増加させるものから確保すべきものに変わってしまったのだと思います。
過密や一極集中の問題
過疎が問題となったころから過密の問題は存在しました。過密の問題は過疎地域からの人口の行き先である大都市圏における人口の増加に起因する様々な問題をいいます。大量の人口移動の受け皿として計画された各地のニュータウンや共同住宅の建設とそれに伴う学校、上下水道等のインフラ整備に大都市圏の自治体は翻弄されました。
現在における人口増加の問題は、東京都を中心としたものです。東京都とその周辺の神奈川県、埼玉県、千葉県(これらの区域を「東京圏」といいます)の人口集中の度合いは、昭和の後期もそうでしたが、平成の時代になっても衰えることを知らない勢いを継続しており、なかでも東京都への集中の度合いはものすごいものがあります。
具体的な数値を挙げると、平成の30年間(1990(平成2)年の国勢調査と2020(令和2)年の国勢調査の比較)で東京都の人口は219万人増加しています。第2位の神奈川県の126万人を大きく引き離しています。また、第3位は埼玉県、第5位は千葉県で、これらの4団体の人口の増加数を合計すると512万人となります。日本の総人口はこの間に254万人の増加にとどまっていますから、計算上、その差し引きの258万人をこれら4都県が4都県以外の地域から吸い上げたことになります。
他の中京圏や近畿圏にはこのような極端な現象は見られないことから、東京圏、特に東京都にだけ人口が集中し、加えて政治、経済、文化といった活動も集中してしまう現象を、「東京一極集中」といいます。
東京一極集中の弊害については、様々な論点が挙げられています。例えば、地方の衰退を加速させる、災害が起こったときにダメージがはなはだしい、住環境が悪い(居住コストが高いを含む)、出生率が低い、税収の偏在につながる等々です。
一方で、現在の東京にはビジネスがしやすく、若年層の就職先があり、活力にあふれていて、利便性が高いといった利点があります。何より、少なくとも東日本の地域においては東京や東京圏との結びつきを強く、速くすることによって、振興を図ろうとする手段は重要だったはずです。
これからの取組としては、抽象的な言い方ですが、一極集中のメリットを活かし、デメリットを少なくするという考えに立って進められるべきでしょう。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法
同法関係の総務省資料(総務省トップ > 政策 > 地方行財政 > 地域力の創造・地方の再生 > 過疎対策 > 過疎法改正関係資料)
令和6年(2024) 人口動態統計月報年計(概数)の概況(厚生労働省)(出生数・死亡数の推移)
平成2年から令和2年までの「人口動態統計」の「都道府県別に見た人口動態総覧」
国勢調査結果については、総務省統計局のホームページ及び「e-STAT 政府統計の窓口」からのデータを用いている。
一般社団法人全国過疎地域連盟ホームページ
増田寛也編著『地方消滅―東京一極集中が招く人口急減』中公新書2014年
(同書22ページから29ページにかけて「消滅可能性都市」の説明がなされている。)
大野晃著『限界集落と地域再生』京都新聞出版センター2008年
(同書21ページから24ページにかけて「限界集落」「限界自治体」等の説明がなされている。)
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