どうして「都」「道」「府」「県」があるのか

はじめに

本記事は、権限がほぼ同じであるにもかかわらず、どうして、都道府県は、都・道・府・県と呼び方が4種類に分かれているのかを解説する記事です。

まず押さえよう

「都道府県」は、広域的な業務、市町村に関する連絡調整業務、規模又は性質から一般の市町村が処理することが適当でない業務を行う、市町村を包括する広域自治体です。

都の特別区との関係を除き、都道府県に権限のちがいはありません。

それにもかかわらず「都」「道」「府」「県」と名称が4つに分かれているのは、歴史的な経緯によるものです。

都道府県とは

都道府県庁にお勤めの方や都道府県庁と取引のある方を除いて、みなさんは都道府県の庁舎や出先機関の事務所に行かれたことはありますか?

行ったことあるよ。たしか、小学校のときの社会科の時間に見学に行った。でも、その後、庁舎を建て替えたというから、今の建物になってからは、たまにニュースで見るだけだな。
こういう方は多いのではないかと思います。市役所や町村役場と比べて、馴染みは少ないですね。

都道府県はどういう業務をやっているのでしょうか。

日本の地方自治の制度は都道府県と市町村の2層構造になっています。2つには役割分担が定められており、都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、
1,広域にわたるもの
2.市町村に関する連絡調整に関するもの
3.規模又は性質から一般の市町村が処理することが適当でないもの
を処理すると定められています。

イメージとしては分かりますね。
実際に都道府県が行う事務は、個々の法律で定まっているものがほとんどです。
ただ、事務の中には、都道府県だけがやるものもあれば、都道府県も市町村もやれるものもあれば、都道府県が民間企業と同じ立場でやっているものもあります。

都道府県は具体的にどういう仕事をしているか

都道府県の仕事で、いちばんみなさんに密接なのは、警察ではないでしょうか。免許の取得・書き換えは都道府県の設置する「免許センター」や警察署に赴きますね。道路にはパトカーや白バイがたくさん走っています。
それから、パスポートの申請や受け取りをするのも都道府県の設ける旅券事務所です(もっとも申請については、市町村で行うことができる県もありますが)。

高校について、都道府県立の高校は多いですが、市でも設けているところはありますし、私学もありますね。
小さいお子さんをお持ちの方は保健所に検診や予防接種に行くことがありますね。保健所も都道府県の機関です(一部、市が設けています)。児童福祉の関係では児童相談所も多くは都道府県が設けています。

以上、一般の方を対象とした仕事について何点か挙げましたが、もともと住民に密接な仕事は市町村が主に処理しますので、それほど一般の方を直接対象とした仕事は多くありません。

地方自治法の「広域的にわたる」仕事について挙げますと、例えば、都道府県は、区域全体の計画を立てます。総合的な地域振興の計画をはじめ、防災の計画、医療の計画、環境に関する計画、農林水産業や商工業の振興に関する計画、公共施設整備計画、教育に関する計画など分野ごとにも様々な計画を立てます。
筆者は、環境関係の部署にいたとき、1年間で「一般廃棄物の処理計画」など3つの計画をつくったことがありますが、このように計画づくりは都道府県の主要な仕事です。

こうした計画の立案に当たっては、多くの場合、市町村や関係事業者の意見を聴きます。個別に聴く場合もありますが、委員会のようなものをつくり、各関係分野の代表者に委員に就任していただき、その場で計画を説明し、意見をいただくというのがよくある形です。
計画では、一定の目標を定め、その到達状況を県庁内の各部局や内容によっては市町村、事業者に照会し、フォローしていくといった形態をとることが多いです。

「規模又は性質から一般の市町村が処理することが適当でないもの」としては、比較的規模の大きい、又は、複数市町村にまたがる道路や河川などの建設、改修などがあります。
国道は、「国」と名前がついていても、国直轄ではなく都道府県が管理を行っている道路はたくさんあります。河川管理も国と役割分担がされています。これらのイメージとしては、県の行う「公共事業」ですね。

専門性の高い研究を行う研究機関や大学を設けている都道府県もありますが、これらもこの範疇に入りますね。
このほか、都道府県として、バスや地下鉄などの交通事業、水道や工業用水道の事業、発電の事業、病院事業、土地開発の事業などを行っている団体もあります。これらの多くは、1市町村の区域を越える地域を対象としています。

個別の事業者を対象としたものとしては、事業や施設設置に関係する許認可業務や運営の監督業務と産業振興の助成などの業務です。一定の専門知識を有しないと事業や施設が法律に定める要件に該当しているかどうかが判断できませんので、様々な法律で、都道府県が行うこととされています。
例えば、土地の開発をすることの許可、病院や老人ホームなどを開設する許可などです。これらの施設には、運営状況をチェックするため検査・監査をしに行くこともあります。
産業振興の助成については、事業者の相談に乗り、国の助成制度に基づく具体的な申請交付事務やこれらの助成制度の上乗せ又は県独自の助成を行っています。

こうした業務の多くは、法律に定められた基準によって行われますが、都道府県側として、実情に応じた運用ができにくいことから、地方分権に関する議論のテーマになっています。
地方分権については、いくつか別の記事を書いておりますので、そちらを参照ください。

どうして4種類の呼び方があるのか

都道府県については、「都」について、「区」との関係で一部異なるところがありますが、基本的に、「都」であっても「道」であっても「府」であっても「県」であっても、上記のような業務の内容や権限は同じです。

市町村は、「市」と「町村」では行う事務の範囲がちがいますし、「村」が「町」になるのは、一定の要件を満たす必要があります。
そうした権限やその自治体の満たす要件に応じて、呼び名に違いがありますが、都道府県の呼び名のちがいは、歴史的な経緯によるものです。

なお、「市」の要件については、別のブログ『市にはランクがあるー「政令市」「中核市」と普通の市』をお読みください。

「府」「県」の誕生―版籍奉還、廃藩置県

今から150年あまり前、1869(明治2)年に版籍奉還が行われました。江戸幕府のもとで領土(版)と人民(籍)を所有していた藩主が朝廷にそれらを返還しました。また、幕府の天領(直轄地)は府と県に分けられました。

「府」は奉行が治めていた行政や軍事上の大事な地域、「県」は代官が治めていた地域ということで呼び名が分けられました。
「府・県」ともにもともとの由来は中国の行政制度における呼び名からだとのことです。

このときは「府」「県」「藩」の区分でしたが、2年後の1871(明治4)年に廃藩置県が行われて「府県」制になりました。
当時の「府」は東京、京都、大阪でした。

蝦夷地から「北海道」へ

版籍奉還が行われた1869(明治2)年に、それまで「蝦夷が島」「蝦夷地」と呼んでいた地域を「北海道」と改めました。
もともと「道」は「東海道」「北陸道」のように近畿内以外の地域を7つに分けた地方の行政単位の呼び名でしたが、それを広い北海「道」に当てはめました。

「道府県」については、1869年から1871年にかけて、今の呼び名になったわけです。

「都」の由来―東京市と東京府から東京都へ

それでは「東京府」だったのがいつ「東京都」になったのでしょう。

1943(昭和18)年です。東京府と東京市を廃止して東京都としました。
昭和18年と言えば第二次世界大戦の真っ最中、「都制実施により東京に帝都たるの国家的意義と重要性に対する確乎たる体制を確立する」(当時の内務大臣の答弁)とするとして都制が実施されました。

今の都道府県制を定めているのは地方自治法という法律で1947(昭和22年にできましたが、都道府県(と市町村)の名称については、「従来の名称による」としています。
「都」「道」「府」「県」の呼び方については、権限のちがいを表すものではなく、歴史的な経緯によるものです。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第1条の3条(地方公共団体の種類)
同法第2条第3項(都道府県の事務)
同法第3条(地方公共団体の名称)

参考文献

橋本勇著『地方自治のあゆみ―分権の時代に向けて』良書普及会、1995年
(都制の施行に関して、同書121ページから123ページの記述を参考にした)

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