「長の事務引継」ってなに?-わかるお役所用語解説27

はじめに

内閣改造で大臣が交代すると新旧大臣の事務引継の様子がテレビなどで放映されますが、自治体の長も事務引継を行わなければなりません。本稿は、「長の事務引継」の内容、行えない場合の対応などについて解説するものです。

長の事務引継とは

長の事務引継とは、都道府県知事や市町村長が交代した場合に、後任者が事務を容易に行うことができるよう、また、前任者と後任者との事務執行において、統一と調和を得るために行われる、書類や帳簿等の引き渡しを含む申し送りのことです。したがって、後任者は引継ぎがなければ事務を行えないものではありません。

行うべき根拠は、地方自治法第159条に定められていますが、詳細については政令(地方自治法施行令)に委ねられています。

引継ぎの期間と引き継げない場合の措置

引継ぎをすべき期間については、都道府県知事の場合、退職の日から30日以内、市町村長の場合は20日以内とされています。

その期間内に、特別な事情により引継ぎができないときは、副知事又は副市町村長(その職務を代理する者を含む)に引き継ぐこととされています。
そのような引継ぎを受けた副知事又は副市町村長は、後任の知事又は市町村長に引き継ぐことができるようになったときは、直ちに引き継がなければなりません。

具体的に考えてみましょう。
長が任期満了により退職する場合や再選を目指して任期満了による選挙に立候補し、落選したような場合には、新たな長が誕生しますので、事務の引継ぎが必要となります。新たな長の任期は、前任の長の任期満了の日の翌日から始まります。通常は、その日に初登庁するので、そこで新旧の長の事務引継が行われるケースは多いです。

長が一身上の都合で任期半ばで辞職した場合や議会における不信任議決により失職した場合には、選挙管理委員会がその通知を受けた日から50日以内に長の選挙を行うことになります。
こうした場合には、選挙事務の準備のためと被選挙権を有する者に立候補の検討や準備をさせるため、50日に比較的近い日を選んで選挙期日を定めるのが一般的です。
そうすると、引継期間の30日(都道府県知事)又は20日(市町村長)を過ぎますので、退職(失職)する長は、この期間内に後任の長に引継ぎはできません。よって、副知事や副市町村長に引き継ぐことになると考えられます。

引継ぎの内容

前任の都道府県知事又は市町村長は、書類、帳簿及び財産目録をつくり、処分が未了若しくは未着手の事項又は将来企画すべき事項については、その処理の順序及び方法並びにこれに対する意見を記載します。

ただし、書類、帳簿、財産目録は、作成済みのもので現況を確認できれば、それで代えることができます。

正当な事由なく引継ぎを行わない場合

正当な事由がなく事務引継を行わない場合は、その者に対して、都道府県知事の事務引継にあっては総務大臣が、市町村長の事務引継にあっては都道府県知事が、10万円以下の過料を科すことができます。
正当な事由とは、病気などで引継ぎを行おうにも行えないような状況等と考えられます。

事務の委任を受けた副知事等の引継ぎ

副知事や副市町村長が交代した場合に、長からその者に委任された事務があるときは、その者は退職の日から副知事にあっては15日以内、副市町村長にあっては10日以内に、その事務を長に引き継がなければなりません。

正当な事由がなくこれを行わない場合には、知事や市町村長に対する過料の規定が準用されます。

他の職の事務引継への準用

この長の事務引継の規定は、新旧の副知事や副市町村長、選挙管理委員会委員長、監査委員の事務引継へ準用されています。詳細は下記根拠法令をご覧ください。

一般の職員の事務引継

一般の職員の事務引継については、その自治体の服務規程などで定まっていることが多いと思われます。
公務員は民間企業に比べ異動のペースや異動によって担当する職務内容の幅が広い傾向があります。きちんとした引継ぎを行うことは重要です。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第159条(長の事務引継)
同法第166条第2項(副知事等の事務引継)
同法第193条(選挙管理委員会委員長の事務引継)
同法第201条(監査委員の事務引継)

地方自治法施行令第123条(引継ぎの期間と引き継げない場合の措置)
同令第124条(書類、帳簿、財産目録の調製等)
同令第127条(副知事等の長への引継ぎ)
同令第128条(調製済み帳簿による代替)
同令第130条(廃置分合に係る事務引継)
同令第131条(過料)
同令第140条(選挙管理委員会委員長の事務引継の詳細)

公職選挙法第34条第1項及び第4項第5号(選挙の執行期限)
同法第114条(長が欠けた場合又は退職の申立てがあった場合の選挙)

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