「監査委員」ってなに?-わかるお役所用語解説9

はじめに

自治体には、執行部の仕事をチェックする仕組みがいくつかあります。

議会は執行部から提出された各種議案、予算案や決算などの審議・審査を通じて執行部の仕事を事前及び事後にチェックするほか、調査権を使って特定の事項について詳細に調べることができます。

また、都道府県や政令指定都市は、外部監査を導入することとされています。外部監査は、弁護士や公認会計士などが自治体との契約に基づいて行うもので、包括外部監査と個別外部監査に分かれます。

そのようなチェックの仕組みの中において、自治体の執行機関として、日常的、専門的に行政のチェックを行う「監査委員」の制度が設けられています。
今回は「監査委員」を取りあげ、その職務等について解説します。

監査委員とは

監査委員は、地方自治法の規定によって、都道府県及び市町村に必ず置かれる執行機関の一つです。
なお、執行機関全般の説明については、別のブログ『「行政委員会」ってなに?-わかるお役所用語解説7』をご覧ください。

委員の人数は、都道府県と人口25万人以上の市(以下「都道府県等」といいます。)については4人、その他の市町村については2人とされています。この人数は条例で増加できます。

監査委員になれる人・なれない人

監査委員になれるのは、「識見を有する者」とその自治体の議会の議員です。
「識見を有する者」というのは、自治体の「財務管理、事業の経営管理その他行政運営に関し、優れた識見を有する者」です。

自治体の仕事を最もよく知っているのはその自治体のOBですから、OBが監査委員になっているケースはよくあります。

OBが監査委員になることには、執行部側としていくつかメリットがあります。
執行部は、人となりをよくわかっている人物から選ぶことができ、また、直接間接に携わってきた業務も多いことから、業務の執行状況について理解を得られやすいこともあります。再就職先のポストを確保できるということもあるでしょう。
しかしながら、こうしたメリットは監査委員の役割である執行部側のチェックという観点に立つと、デメリットにもなりかねません。よって、OBは1人しか監査委員になれないこととされています。

また、議員から選出される監査委員は、都道府県等について1人又は2人、その他の市町村については、1人と決まっています。条例で議会から選ばないと決めることも可能です。

以上のことから、特に条例で別の定めをしなければ、4人の監査委員の都道府県等の場合には、2人又は1人が議員選出、3人又は2人が識見選出で、そのうち1名は都道府県等職員OBでも可という組合せになります。

監査委員は、首長が議会の同意を得て選任します。

一方で、監査委員になれない人がいます。
知事や市町村長、副知事や副市町村長と親子、夫婦又は兄弟姉妹の関係にある者です。
監査委員は、自治体の事務のチェックをする者ですから、当然ですね。

これに類するものとして、自己又は一定の親族の事件等に対する監査の「除斥」が定められています。
また、監査委員は自治体の常勤の職員及び短期間勤務職員と兼務できません。

なお、監査委員の任期は、識見委員は4年、議会選出の委員は議員の任期によります。

監査の種類

監査委員による監査にはいろいろな種類があります。必ず行わなければならないもの、任意のもの、各方面から要求があった場合に行うものという区分で説明します。

《必ず行う監査》特記ない限り年に1回

財務監査―自治体の財務事務が適正に行われているか監査するもの。年に1回のほか、必要があれば任意にもできる。全部局が対象なので、事務量的にはこの監査が最も多い。

決算審査―会計管理者が調製した決算の正確性を確認するもの

例月出納検査―会計管理者の現金の出納の正確性を確認するもの。月に1回。

基金運用審査―長の基金の運用の正確性を確認するもの。

健全化判断比率審査―長の計算した健全化判断比率の正確性を確認するもの

内部統制報告書審査―長が作成した内部統制報告書の適正さを確認するもの

《任意に行う監査》

行政監査―事務の執行が法令の規定に則って行われているか確認するもの

財政援助団体等監査―自治体が補助金等を交付していたり、一定の出資を行っている団体等の出納その他の事務で財政援助等に係るものが適正に行われているか確認するもの。長の要求によっても行う。

指定金融機関等監査―指定金融機関等が扱う公金の収納・支払事務が適正に行われているか確認するもの。長の要求によっても行う。

《各方面から要求があった場合に行う監査》

1 長からの要求によって行う監査

 財政援助団体等監査及び指定金融機関等監査―《任意に行う監査》参照

 長の要求監査―自治体の個別事務について長が要求した場合に行い、長に政策判断の材料を提供するもの

 職員賠償責任監査―職員の賠償責任の有無及び額を決定するもの

2 議会からの請求によって行う監査

 議会からの請求監査―議会の請求により事務執行を監査し、議会に政策判断の材料を提供するもの

3 住民からの請求によって行う監査

 直接請求(事務監査請求)監査―住民の請求により事務執行を監査し、住民自治を保障するもの。監査の結果は、請求者に送付されるとともに、公表され、議会及び長等関係機関に提出される。

 住民監査請求監査―違法又は不当な公金の支出等について、住民の請求により財務の事務執行を監査し、住民自治を保証するもの。これに不服であれば、住民は訴訟を起こすことができる。

《その他》

賠償責任免除の意見―議会による権利放棄が行われる際の、当該議決が適正かどうかを判断するもの。

独任制と合議

前項の監査については、必ず監査委員全員が一堂に会して行う必要はありません。出先機関の監査などは4人の監査委員のうち、1人又は2人で行うということは筆者の勤務した県でも行われていました。
これを「独任制」の機関といいます。監査委員がほかの行政委員会とは異なる点です。

ただし、監査した結果について、監査報告として決定するときやそれに付す意見を決定するときには、監査委員の「合議」によるものとされています。

「合議」とは、委員全員の協議により、その意見を一致させることです。
合議が整わない場合には、監査結果の報告等は決定できないこととなります。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第2編第7章第3節第5款(第195条から第202条まで)(監査委員)
同法第150条第4項及び第5項(内部統制報告書の監査)
同法第243条の2の2第3項(職員の賠償請求の監査)
同法第75条第1項から第3項(監査の直請請求)
同法第242条第4項(住民監査請求)
同法第242条第10項(権利放棄議決に係る意見)

地方公共団体の財政の健全化に関する法律第3条第1項(健全化比率の監査)
同法第22条(資金不足比率の監査)

【監査の種類】の記述に当たっては、地方公共団体における内部統制・監査に関する研究会第1回(平成29年10月17日開催)会議資料4「参考資料」中の「Ⅱ.地方公共団体における監査制度」を参考とした。(総務省トップ→組織案内→研究会等)

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