「低入札価格調査制度」「最低制限価格制度」とは何か

はじめに

本記事は、自治体が工事等の発注をする場合の品質確保とダンピング受注防止の取組みを解説する記事です。

まず押さえよう

自治体が工事等を発注する場合には、入札によることが原則ですが、入札制度の下では、最低の価格を提示した事業者と契約することとされています。

しかしながら、予定価格とあまりにかけ離れた価格を提示した事業者については、工事の品質確保の点で問題がある場合があります。

また、価格競争が過度なものになると、事業者が適正な利益を得にくく、公正な取引の点でも問題があります。

こうしたことに対応し、一定金額以下の入札について、価格の妥当性を調査する「低入札価格調査制度」、入札を失格とする「最低制限価格制度」があります。

入札制度における問題点

自治体は税金によって事業を行いますので、できるだけ経費を安くしなければなりません。そのため、自治体が事業を発注する場合には、一般競争入札や指名競争入札といった、事業者を価格面で競わせて、最低の価格を提示した事業者と契約することとなっています。これを「最低価格落札方式」といいます。

なお、入札がどのようなものかわからない方は、別のブログ「自治体の契約は一般競争入札が原則」をご覧ください。

自治体が工事等の発注を行う場合には、どのような設計にし、どのような資材をつかって、どのくらいの人員で、どのくらいの期間で工事ができるかという積算をし、それに基づいて、このくらいの金額であれば、工事ができるだろうという金額を決定します。この金額のことを「予定価格」といいます。

入札に参加する事業者は、こうした「仕様書」や「設計図書」を参照し、金額を見積もります(予定価格は基本的には非公開です)。
事業者は、予定価格以下の金額を提示する必要がありますが、どうしてもこの事業を受注したいと考えれば、極端な話1円で入札してもいいことになります。

自治体としては、安く発注できる点はいいのですが、こうした「ダンピング受注」が多くなってくると様々な問題が生じてきます。

まず、手抜き工事の問題です。必要な資材をつかわず、施工もいい加減な工事をされても、自治体側はそのすべてを見抜くことはできません。
また、工事が完成しないおそれもあります。
さらに、適正な利益が上がらないことから、この事業者の従業員の解雇や給料の不払いの問題や下請け事業者の倒産などの問題を引き起こします。

このようなことから、あまりに予定価格からかけ離れた金額を提示した事業者について、ほんとうにできるのか調査したり、そもそも契約の相手方としないという制度ができています。
それが、「低入札価格調査制度」と「最低制限価格制度」です。

低入札価格調査制度

低入札価格調査制度とは、工事・製造その他についての請負契約において、
1.最低価格を提示した事業者の提示価格では当該契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認める場合、
2.その者と契約を締結することが公正な取引の秩序を乱すこととなるおそれがあって著しく不適当であると認める場合
には、最低価格の入札者を落札者とせずに、次に低い価格で申込みをした者を落札者とする制度です。

具体的に説明します。
なお、こうした工事等の入札制度の詳細な制度については、国土交通省が決めています。以下の説明もそれによったものとなっています。
1 調査基準価格
まず、低入札価格制度の適用があるかないかを判断する基準についてですが、これについては、予定価格の一定の割合の金額です。
予定価格は、先ほど説明したように、資材や工事を行う人の手間賃などを積み上げたものですが、その中身は、「直接工事費」「共通仮設費」など項目別になっています。それぞれの項目ごとに予定価格に一定の率をかけたものを合計して調査基準価額を決めます。

2 調査の内容
低入札価格調査の対象となった事業者は、自治体から求められる資料を提出します。自治体は、その資料に基づき、聞き取りを行います。
この提出資料は、かなりのボリュームがあるもので、事業者が見積もった入札価格の内訳を記載し、例えば、安い資材をつかう旨の記載があれば、どうしてその資材を入手できるのか、人件費が安ければ、どうして安く雇えるのかなどを説明するものとなっています。

3 判断
自治体は、提出資料と聞き取りにより、きちんと工事が行えると判断すれば、その者と契約をします。事業者の主張に納得できない点があったり、資料に信頼性がなかったりした場合には、契約の相手方とせず、その次に低い価格を提示した者と契約します。
ただし、その次に低い価格を提示した者の価格が、調査の対象の価格であるときには、同様の調査をその事業者に対しても行います。

最低制限価格制度

最低制限価格制度とは、工事・製造その他についての請負契約において、あらかじめ最低制限価格を設けた上で、予定価格の制限の範囲内の価格で最低制限価格以上の価格をもって申込みをした者のうち最低の価格をもって申込みをした者を落札者とする制度です。

これは、「低入札価格調査制度」とはちがって、資料の提出や聞き取りを行うことなく、入札の価格によって判断し、最低価格に満たなかった者を失格とするものです。

その基準の価格は、上記の「低入札価格調査制度」の調査基準価格と同様に、予定価格の項目ごとに一定の率を掛けたものの合計となっています。

まとめ

以上、工事等の発注における品質確保、ダンピング防止の取組みとして、「低入札価格調査制度」と「最低制限価格制度」について紹介しました。

工事等以外の、例えば庁舎の清掃や警備などといった委託業務についても、こうした制度を導入している自治体もあります。

また、工事の品質確保の取組としては、価格だけでなく技術提案の内容もあわせて事業者を決定するという「総合評価方式」もあります。契約業務にご興味のある方は、総務省や国土交通省のホームページをご覧になってください。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第234条(契約の締結)
地方自治法施行令第167条の10第1項(低入札価格調査制度)
同条第2項(最低制限価格制度)

地方公共団体の入札・契約制度(総務省ホームページ→政策→地方行財政→地方自治制度(2023年2月25日参照))

公共工事の入札契約制度(国土交通省ホームページ→政策・仕事→土地・不動産・建設業→建設業・不動産業→建設業(2023年2月27日参照)

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