「ラスパイレス指数」ってなに?-わかるお役所用語解説6

はじめに

どの仕事にも専門用語がありますが、お役所の専門用語は、職員だけでなく、住民の方々に向けてもつかわれることがあります。最近では、こうした専門用語には、短い解説がついていることが多いですが、本記事では、わかりやすく、すこし詳しく説明します。

今回は、自治体の「ラスパイレス指数」についての説明です。

このことばは、地方公務員の給与の高低について述べられるときによくつかわれますが、正確な意味をご存じの方は少ないと思われます。
是非ともご一読ください。

説明は、簡単な説明から詳しい説明へと段階を追って行っています。

いちばん簡単な説明

「ラスパイレス指数」は、地方公務員と国家公務員の給料水準を比較する指数です。100を超えると地方公務員の方が高く、100未満だと国家公務員の方が高いことになります。

しかし、比較対象は、国と地方の全職員を対象としたものではありません。

総務省の説明

国家公務員行政職俸給表(一)の適用者の俸給月額を100とした場合の地方公務員一般行政職の給与水準。
職員構成を学歴別、経験年数別に区分し、地方公共団体の職員構成が国の職員構成と同一と仮定して算出するものであり、地方公共団体の仮定給料総額(地方公共団体の学歴別、経験年数別の平均給料月額に国の職員数を乗じて得た総和)を国の実俸給総額で除して得る加重平均。

そもそもラスパイレス指数とは?

自治体の中でラスパイレス指数というと、前項の総務省の説明のように給与水準の比較のためのものというイメージがありますが、一般には物価変動の状況を示す指数として用いられることが多いです。

具体的な例を示しますと、
基準年次において、商品Aが数量100、価格100で売られており、商品Bが数量120、価格110で売られていたとします。
比較年次(例えば1年後)に、商品Aは数量90、価格110で売られ、商品Bが数量110、価格130で売られていたとします。

この場合に、物価変動率をラスパイレス方式で計算するとします。
ラスパイレス方式の計算は、数量は基準年次のままで、価格の変動だけを反映させる計算方法です。

基準年次について計算すると、
商品A:数量100×価格100=10000、商品B:数量120×価格110=13200 
この二つを足して10000+13200=23200です。

比較年次について計算すると、
商品A:数量100(ここで90でないことに注意)×価格110(価格は比較年次のもの)=11000
商品B:数量120(ここで110でないことに注意)×価格130(価格は比較年次のもの)=15600
この二つを足して11000+15600=26600となります。

計算は、比較年次÷基準年次(パーセント表示)ですから
26600÷23200×100=114.7 となります。
物価は14.7パーセント基準年次に対して上昇したことになります。

詳しい説明―総務省の説明の解説

前項のラスパイレス指数の計算方法の説明をもとに、総務省の説明を見ていきましょう。

物価の比較は、基準年次と比較年次で比べますが、給料のラスパイレス指数は、国家公務員の給料が基準年次に相当し、地方公務員(各自治体の職員)の給料が比較年次に相当します。

ラスパイレス方式の計算方法の特徴は、数量は基準年次のままということでした。
この数量とは、この場合「国家公務員についての、学歴別、経験年数別の職員の数」です。当然、自治体ごとの実際の学歴別、経験年数別の職員数は国とちがいますが、比較に当たっては、同じ数だと仮定するということです。
このことを、総務省の説明では、「地方公共団体の職員構成が国の職員構成と同一と仮定して算出するものであり」といっています。

次に価格です。これがその学歴別、経験年数別の職員がもらう給料の額になります。国家公務員の給料が基準年次の価格、地方公務員の給料が比較年次の価格に当たります。

物価の例では、商品Aと商品Bの2種類で比較しましたが、給料のラスパイレス指数については、大学卒、高等学校卒、中学校卒などの学歴と、経験年数も10段階以上に細分化されたものを用います。
しかし、計算の方法は二つのときと同じです。

分母は、各区分ごとの国家公務員の人数×給料 の合計
分子は国家公務員の区分ごとの人数×当該自治体のその区分に属する職員のもらう給料 の合計です。

このことを、総務省の説明では、「地方公共団体の仮定給料総額(地方公共団体の学歴別、経験年数別の平均給料月額に国の職員数を乗じて得た総和)を国の実俸給総額で除して得る加重平均」といっています。

ラスパイレス指数についての誤解を解く

ラスパイレス指数についての、最も多い誤解は、これが100より高いと地方公務員(または当該自治体)の給与水準が国より高いと理解されていることです。

総務省の説明の冒頭には、「国家公務員行政職俸給表(一)の適用者の俸給月額を100とした場合の地方公務員一般行政職の給与水準」と記されています。

これはどういうことかいうと、国家公務員の給料表には、幹部に適用される「指定職俸給表」というのが別にあり、いわゆるキャリア官僚は、ある程度の年次に達すると多くがこの表の適用を受けます。
一方で、都道府県の中には、指定職の制度をとっている自治体もありますが、多くは通常の給料表の適用を退職まで受けます。

つまり、ラスパイレス指数とは、全国家公務員と全地方公務員(または、当該自治体の職員)の比較ではなく、一定の高級官僚を除く国家公務員と地方公務員の比較であるというのが正確な理解です。

なお、「一般行政職」というのは、いわゆる「事務屋」のことです。教員や警察官、医師など専門職については、地方公務員でも別の給料表が用意されています。そうした給料表の適用を受けない職です。国家公務員の「行政職俸給表(一)の適用者」も同様の意味です。
上記を加味すると、ラスパイレス指数は、高級官僚を除く国の事務職員と地方(各自治体)の事務職員の給与水準の比較ということになりますね。

また、今までの計算方法をご理解いただければ、学歴の低い職員が努力して高い地位に就いた場合には、当該自治体のラスパイレス指数が高くなる場合があります。

ラスパイレス指数は何のためにある

地方公務員の給与については、生計費や国、他の自治体の職員、民間企業の給与などを考慮して定めなければならないこととされています。
ラスパイレス指数は、そうした定め方がされているかどうかを確認する一つの資料ですから、高い場合にも低い場合にもその原因を分析し、給与制度の適正な運用のため活用すべきと思います。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方公務員法第24条第2項(給与等の根本基準)

総務省の説明は、令和3年度地方公共団体の主要財政指標一覧(総務省トップ→政策→統計情報→地方財政状況調査関係資料→地方公共団体の主要財政指標一覧)から引用。

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