ちょっとちがいます―お役所ことばの似て非なるもの

はじめに

わかりにくいといわれるお役所ことば。その一つの原因は、似ていて紛らわしいことばがあることです。窓口で説明する際も、マスコミなどに対応する際も、ちょっと気をつけた方がいい、そのようなことばをいくつか紹介する記事です。

「以上」と「超」、「以下」と「未満」

最初は「以上」と「超」、「以下」と「未満」です。
これは、このように対比させてみると、文字面から意味のちがいが読み取れるのではないかと思います。

「以上」は、基準となるものを含んで、それか、それより大きい(多い)ということ、「超」は基準となるものを含まず、それより大きい(多い)ということです。
例えば、「1以上」というのは、(整数で数えられるものなら)、1,2,3・・・になります。「1超」あるいは「1を超える」というのは、2.3.4・・・ということになります。

同じように、「以下」は基準となるものを含んで、それか、それより小さい(少ない)ということ、「未満」は、基準となるものを含まず、それより小さい(少ない)ということです。
例えば、「10以下」というのは、10,9,8・・・になります。「10未満」は9,8,7・・・ということになります。

こんなの当たり前と思いがちですが、いろいろな仕事をやっていると、ある規定が、どちらの定めであったか、わからなくなることがあります。そうしたときには必ず条文や解説書で確認することが大事です。

また、分数とこうした表現がセットで定められている条文もよくあります。そうしたときには計算を間違わないようにしないといけません。
例えば、市町村議会議員について、その欠員が定数の6分の1を「超えた」ときに補欠選挙を実施することとされていますが(公職選挙法第113条第1項第6号)、定数が18の場合、補欠選挙を行わなければならないのは、欠員が4となった場合です。

「・・・日から」と「・・・日から起算して」

「1月15日から1か月」と「1月15日から起算して1か月」は同じ意味でしょうか。
「・・・の申請をした日から1か月」と「・・・の申請をした日から起算して1か月」は同じ意味でしょうか。

正解は、同じ意味である場合もあれば、違う意味である場合もある、です。

お役所の仕事やお役所への申請や書類の提出には「期間」「期限」があるものがほとんどです。その計算は、特別の定めがない限り、民法の定めに従うことになっています。
民法では、「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。」ことになっています。「ただし、その期間が午前零時から始まるときは」算入します

ですので、「1月15日から」が午前零時から始まるものである規定の場合(例えば、その定めが前年中に施行されているような場合)には算入し、そうでなければ1月16日を第1日として計算します。
「・・・の申請をした日から」の場合には、お役所の窓口は、そんな真夜中から開いていませんので、ほとんどの場合は、申請の翌日を第1日として計算します。

これに対して、「1月15日から起算して」「・・・の申請をした日から起算して」の場合には、1月15日を第1日として、また、申請の日を第1日として計算します

実際の期間の計算としては、初日不算入の場合には、1月16日の1か月後の応当日2月16日の前日2月15日が1か月の満了日になります。
1月15日から起算する場合には、その1か月後の応当日2月15日の前日2月14日が1か月の満了日になります。
1日のずれが生じてきますので、注意が必要です。

先ほど、特別の定めのない限り、民法の計算の方法に従うと述べました。特別の定めとして大変重要なのが、年齢の計算の場合です。
年齢の計算については、「年齢計算に関する法律」によって、出生の日から起算することとされています。

例えば、令和5年4月20日生まれの人が1歳となるのは、令和6年4月19日です。
平成29年4月1日に生まれた子は、令和5年3月31日に6歳となります。学校教育法の規定で、その親は翌4月1日から始まる小学校の1学年に就学させる義務を負います。
これによって、4月1日生まれの子は、前年度に生まれた子と一緒に学校に行くことになります(早生まれです)。

「・・・である」と「・・・と聞いている」

国語の問題ではありませんが、「・・・である」というのは直接体験したことを述べるときにつかい、「・・・と聞いている」は人から伝え聞いたことを今自分がしゃべっているということです。

しかし、お役所の世界で、この二つのことばは、それだけの意味で区別されているわけではありません。
この二つのことばは、責任の所在に関係しています。
その事件の対象が、自己または自己の所属(例えば、県の職員なら県庁)の担当すべきもののときには前者をつかい、国や市町村などの責任で処理すべきことのときには後者をつかます。

県庁の建物のすぐ隣に市立公園があり、そこでなにかトラブルが起きているのを県庁から見ていたとしても、その事柄について県としてのコメントするときには市から「聞いている」ことになります。
本来、市が責任をもって対応すべきことをたまたま県に尋ねられた場合には、市に訊くように促すか、せいぜい市から「聞いている」内容を言う対応で十分です。

反対に、例えば出先機関において、何らかの不祥事らしきものが起きた場合に、実際にその場におらず、連絡内容について対外的に話すときには、「聞いている」というと、多少他人事のように聞こえます。

例えば、「報告を受けて、(一報を受けて)・・・のように把握している」などと言うことが好ましいでしょう。「報告」は指揮命令系統に基づくものであり、任意的な「聞いている」とは意味合いが異なります。責任ある対応のような印象を与えます。

余談ですが、「聞いている」の否定形の「聞いていない」というのがあります。
この発言が仕事をやっている際に飛び出したときには、問題です。

「聞いていない」というのは、その人が本来聞いておくべくこと、つまり、こちら側からすれば、説明すべき、あるいは、報告を入れておくべき人に話しておかなかったときに発せられるからです。

間違いなく、この発言をした人は無視されたことを怒っています。怒っている人間に対しては、すみやかに礼を尽くして謝るしかありません。それまではその物事を進めてはいけません。
仕事をやっていくうえで、意外にこれは多いです。ある仕事というのは、自分の想像を超えるところで、ほかの部署に影響を与えることが往々にしてあるからです。

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