はじめに
自治体の政治体制は、長と議会の二元代表制であり、また、国が議院内閣制であるのに対し、大統領制だともいわれます。これらは民意の反映のしかたや長と議会の役割分担を表すことばですが、本稿では、具体的な議会の権限を説明しながら、これらを解説します。
議会とは
都道府県と市町村には議会が置かれています。議会の議員は選挙によって選ばれ、多数決でものごとを決めていきます。そのものごとの多くは、長から提案された議案などです。
これから、議会の権限を説明していきますが、基本的に、議会は、執行機関である長の提案の良し悪しを判断するのが仕事です。これを議決権といいます。多くの場合、議会の議決を得ないと意思決定ができないので、その意味では、議会は自治体の重要な意思決定機関ともいえます。
また、調査権をはじめ、長の行政の内容について調べ、責任の所在を明らかにする権限も有しています。その意味では、議会は、長のチェック機関ともいえます。
議会の権限《議決権》
議会は、地方自治法(以下「法」といいます)第96条に定める事項について議決をしなければなりません。議決は法律に別の定めがあるほかは出席議員の過半数で決します。
以下に、その主なものを記します。
条例の制定や改正・廃止をすること、予算を定めること、決算を認定すること、条例で定める契約を締結すること、条例で定める財産の取得又は処分をすること、負担付の寄附又は贈与を受けること、権利を放棄すること、条例で定める重要な公の施設につき条例で定める長期かつ独占的な利用をさせること、訴訟や和解を行うこと などです。
当然すべて重要なことなので議決を得られないと長側は困るのですが、実際上、影響が大きいのは、予算に関する議決です。自治体の仕事にはすべて予算の裏付けが必要ですから、これについて否決され、あるいは、その手前で、長と議会の間で問題が生じるとたいへんです。
議会においても予算審議は重要だと考える団体は多く、当初予算を審議する2月(3月)議会において、予算委員会というような組織を設け、複数日にわたって予算を集中的に審議する団体もあります。
なお、この予算に関しては、議会が不要な項目を削除する等減額修正をして議決することもできますし(例外あり)、予算を増額して議決することもできます。ただし、増額する場合には、長の予算の提出の権限を侵すことはできないと定められています。
どういう場合に長の権限を侵すかについては、その増額内容等に即した総合的判断ですが、新たに款や項を付け加えたり、継続費等に全く新しい事業を加えたりするのは、これに該当するおそれがあるでしょう。
議会の権限《調査権》
議会のもう一つの強力な武器は、調査権です。
これは、自治体の事務(いくつか例外はあります)について、議会として、調査を行うことができる権限で、必要があれば、関係人の出頭及び証言や記録の提出を求めることができます。罰則も定められています。
この調査権は、法第100条に根拠があることから、これにもとづく調査のための委員会を「100条委員会」と呼びます。
100条委員会については、別のブログ『「ここから出ていって」「あなた、除名!」-議会の仕組みと用語2』の該当箇所も合わせてご覧ください。
議会の権限《その他の権限》
検閲・検査権と監査請求権
議会の執行機関に対する監視権限として、前記の調査権以外に事務(労働争議のあっせんや国の安全を害するおそれのある事項など除外されるものがあります)の検閲・検査権と監査委員に対する監査請求権があります。
検閲・検査権とは、書類や計算書など書面により議会が調査を行ったり、報告を求めたりするものであり、監査請求権とは、監査委員をして、事務の管理、議決の執行、出納を検査させることです。
意見書提出権
議会は、その自治体の公益に関する事件について、意見書を国会や関係行政庁に提出することができます。この関係行政庁には、他の自治体や自らの自治体も含まれます。一方で、行政庁に限られることから、裁判所等は含まれません。
議会の同意権、選挙権、決定権
議会は議決権を持つと説明しましたが、これに似た議会の意思決定の態様として、同意、承認、許可があり、また、議会において選挙が行われ、その効力や議員資格について議会はこれを決定します。
同意の例としては、長の期限前の退職への同意、副知事や副市町村長の選任同意などがあります。
承認の例としては、長の職務を代理する副知事や副市町村長の期限前の退職承認や長の専決処分についての承認などがあります。
許可の例としては、議長・副議長の辞職や議員の辞職の許可があります。
議会における選挙については、議長及び副議長の選挙、仮議長の選挙といった自らの組織の構成を決めるための選挙と選挙管理委員や補充員、臨時補充員の選挙が行われます。
これらの選挙において、投票の効力に関し異議があるときは、議会がこれを決定します。また、議員について、その被選挙権の有無や兼業禁止規定に該当するどうか(公職選挙法第11条及び第252条該当の場合を除きます)は、議会が決定します。これは議会が自律的に活動するためのものと解されています。
なお、公職選挙法第11条及び第252条は、犯罪を犯し、一定以上の刑に処せられた者の選挙権や被選挙権の喪失について規定したもので、裁判の結果によるので、除外されています。
不信任議決権
議会が長の施策や議会への対応も含む行政への取組姿勢、資質などに不満を有し、これ以上調整を図ることが難しいと判断した場合には、長の不信任議決をすることができます。
この議決は、議員数の3分の2以上が出席し、4分の3以上の多数による議決が必要です。
これに対して、長はそれを受け入れて失職するか、議会を解散するかのいずれかの選択を行うことができます。
不信任議決について、詳しくは、別のブログ『「不信任」と「議会の解散」―首長と議会の対立の極致』をご覧ください。
まとめ
以上、議会の権限を説明してきましたが、改めて、地方自治制度における議会の重要性が明らかになったと思います。その根底には、議会の議員も選挙で選ばれているという二元代表制の重みがあります。長も議員も住民の意思をともに代弁するものということから議会の強い権限が由来しているのではないかと思います。
一方で、地方自治は大統領制といわれます。この大統領制という意味は、長が選挙で選ばれ、行政権限の多くが長にあるという点では、定義のとおりですが、既述のとおり、議会は議決権により主要な自治体の意思決定に関わっています。また、議会による長の不信任の制度もありますので、議会との意思疎通をある程度前提とした大統領制であるといえます。
このブログでは、議会の関係についての記事をいくつか書いております。
ご興味ある方は、次のリンクによりご参照ください。
議員定数ー『「議員の定数は何人でもいいの?」-わかるお役所用語解説23』
議会の招集、会期、議長選出、表決方法-『「亀の甲より年の劫」「議長譲ります」-議会の仕組みと用語1』
除斥、議員の懲罰、100条委員会-『「利害関係者は外へ」「あなたクビです」-議会の仕組みと用語2』
長の不信任と議会の解散-『「不信任」と「議会の解散」―首長と議会の対立の極致』
再議-『「再議」ってなに?-わかるお役所用語解説14』
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方自治法第6章議会
同法第89条(議会の設置)
同法第96条(議決事件)
同法第116条(表決)
同法第97条第2項(予算の増額議決)
同法第100条(調査権)
同法第98条(検閲・検査権と監査請求権)
同法第99条(意見書提出権)
同法第145条(長の期限前の退職への同意)
同法第162条(副知事、副市町村長の選任同意)
同法第165条第1項(長の職務を代理する副知事や副市町村長の期限前の退職同意)
同法第179条第3項(長の専決処分の承認)
同法第108条(議長、副議長の辞職許可)
同法第126条(議員の辞職許可)
同法第103条(議長・副議長の選挙)
同法第106条第2項(仮議長の選挙)
同法第182条(選挙管理委員・補充員の選挙)
地方自治法施行令第第135条及び第136条(選挙管理委員の臨時補充員の補欠選挙)
地方自治法第118条第1項(投票の効力についての議会の決定)
同法第127条(議員の被選挙権がないことについての議会の決定)
同法第178条(長の不信任議決)
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