「事務の委任」「専決・代決」-自治体の意思決定の効率化

はじめに

自治体の仕事は、長(知事や市町村長)が行うのが原則です。地方自治法第148条では、「普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体の事務を管理し及びこれを執行する」と定めています。

しかしながら、当然のこととして、実際の事務について、何から何まで長自身が行うのではなく、いろいろな機関や部署を設け、大勢の職員を置き、いわゆる「県庁」や「市役所・町村役場」といった組織全体として事務を行います。

具体的には、長の権限の事務を分掌させるため、支庁、地方事務所や支所、出張所を設けることができますし、また、法律や条例の定めにより保健所、警察署その他の行政機関を設けるものとされています。
また、内部組織(本庁など)についても、例えば、部や課といった名称の組織を設けることができます。

職員についても、副知事・副市町村長をはじめとする職員を置くことができます。こうした職員は「補助機関」と呼ばれます。

このような組織においては、その意思決定をすべて長が行うこととしては効率的でないので、補助機関に任せる仕組みをつくります。それが「事務の委任」と「専決・代決」です。本稿はこれらについて解説します。

事務の委任

事務の委任とは

長は、権限に属する事務の一部を、補助機関である職員や管理に属する行政庁に委任することができます(地方自治法第153条)。

この「委任」については、委任された者(受任者)の職務権限となり、受任者の責任において処理するものです。権限行使における対外的な名称も受任者の名称となります。

委任者の長は自ら処理する権限を失うとされます。しかし、任せっぱなしにしないために、重要な事項や異例の事項などについては、長の指示を受けて行うなど、長の一定の関与を定める自治体もあります。

委任の範囲や委任に当たっての留意点

長は、法令で禁止されているものを除き、委任することが可能ですが、事務の性質上、長固有の権限であるものや自らが権限を行使することが予定されているものについては、委任できないと解されています。例えば、副知事や副市町村長など主要な職員の選任・任命や解職、議会の招集・解散や議案の提出などです。
委任に当たっては、地域や事件を限定することも可能です。

住民に関係がある事務を委任する場合には、委任事務の内容や受任者を「事務委任規則」のような形式で周知することが一般的です。

事務の委任の身近な例を挙げると、自動車を所有している方には、毎年県税である自動車税が課税されますが、その納税通知書には、知事ではなく県税事務所長など税に関する出先機関の長の名が記されていることが多いと思われます。お住いの県の事務委任の規則をご覧になれば、県税に関することを広くこれらに委任しているはずです。

委任した場合の責任

委任された事務については、基本的にはすべての責任が受任者にありますが、長には職員の指揮監督責任がありますので、事務を委任したことによって、その責任まで免れるわけではありません。

財務上の行為については、委任を受けた職員が処理した場合、長は、委任を受けた職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指導監督上の義務に違反し、故意又は過失により委任を受けた職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、自治体の被った損害について損害賠償責任を負うとする最高裁判所の判決があります。

専決

委任を行わず、長が行う事務についても、どの自治体も事務の重要性や事務量などを考え、この事務は副知事や副市町村長までの決裁でいい、これは部長まで、これは課長までというように、意思決定の段階を分けています。
法の定めるものではなく、一般的には、「事務決裁規程」「事務処理規程」などといったきまりをつくり、その中で定めています。この、長までいかないで最終的な意思決定をすることを「専決」するといいます。

事務の委任が、委任された職員の権限と責任により当該職員の名で行われるのに対し、専決は、長からあらかじめ委ねられた範囲の事務について自らの責任で意思決定を行う点は同様ですが、相手方に表示される事務執行者の名は長です。対外的には、長が行ったものと判断されます。

以上のことは、委任された事務についても、委任された事務を行う組織内において同様に考えることができます。また、他の執行機関(各種委員会等)においても同様です。

専決は、権限を補助機関におろすという事務処理の合理化により、事務処理が早くなるとともに、長が対応しなければならない事案に対し時間を割けるという意味からは有用ですが、一方で、長が知っておかなければならないような事項が専決され、後々問題となるおそれがあります。
そこで、専決事項を定める規程には、「重要な事項」「異例な事項」「重要な先例となる事項」「疑義を生じている事項」など様々な表現で、専決禁止事項を定め、上司の決裁を得る旨を規定しています。

なお、「専決」と似たことばに「専決処分」があります。これは議会の議決すべき事項を一定の場合に長限りにおいて決定できる制度のことをいうものです。まったく異なりますので、ご注意ください。「専決処分」については、別のブログ『「専決処分」ってなに?-わかるお役所用語解説15』をご覧ください。

事務の委任と専決の使い分け

事務の委任も専決も長の負担軽減を図り、効率的に事務を処理するための手段ですが、どのように使い分けがされているでしょうか。

明確な定めがあるわけではありませんが、法律で機関の業務が定められている場合(福祉事務所長や保健所長等への委任)、他の執行機関(行政委員会)や出先機関に事務を行わせる場合については事務の委任をし、本庁については専決で整理するという傾向があるようです。

広域自治体である県では、一定のまとまりのある地域ごとに支庁、地方事務所などの機関を置き、その地域に居住する住民や事業者に対する県の行政を行うことが一般的です。地域に出先機関を置くことにより、地域の実情を把握し、事業の現場の問題にも機動的に対応することができ、また、住民にとっても近くで用が足り、便利ですから。
こうした場合には、長から権限の行使を委ねられたことを対外的に表明し、出先機関の長の名で事務の一切を執行する方が適切であろうと考えられます。

一方、本庁については、長の判断にかかわる事案が多く、また、長が日常的にいるので、執行権限を失う事務の委任より、異例事案にも対応しやすい専決によることが妥当だと判断されるのではないでしょうか。
なお、副知事や副市町村長は、その職務として、長の権限に属する事務の一部について、委任を受け、その事務を執行することができることとされています。この規定により、これらの者へ事務の委任を行っている例はあります。

部長名や課長名の文書

今までの説明では、誰の名で行うかというのが重要なポイントでした。専決においては、補助機関の職員が決裁していても、対外的には長が行ったものとなるということです。

しかしながら、実際の事務処理においては、対外的な文書について、部長名や課長名で出されるものも多く見られます。
いくつかの県の文書規程を見ると、文書の施行者は原則知事であるが、文書の性質及び内容により、副知事、部長、課長などの名を表示することができる旨の定めがあり、それぞれの公印の様式も定められていることから、従前から広く行われているやり方であることがわかります。

部や課は長の事務を「分掌」しています。その事務分掌の中には、対外的な回答などをすることが含まれることが一般的です。そうした場合に、法的な効果が発生するような文書や法律・条例などで長の表示が定められているようなものを除き、どの職位の名で対外的文書を発するかについては、分掌事務の内容と専決規定と整合性を取って行っている自治体が多いのではないでしょうか。

専決の説明において、事務の委任との対比で述べると、本項冒頭のようになりますが、実際の事務処理において、すべての文書を長の名前で施行しなければならないということではありません。

代決

代決は、『「長の職務代理」-知事や市長がいなくなったらどうするの?』でも説明しましたが、長が不在等事故あるときに、臨時的に、例えば副知事や副市町村長が意思決定を行うことです。
これに加えて、専決事項の代決も可能です。例えば、部長専決事項について、部長不在時に次長が決裁を行うことも代決です。
以上のことは、委任された事務についても、同様に考えることができます。

要するに、代決は、ある事務に関する権限を一つ下の序列の者が臨時的に代わって行使することです。
専決の説明で述べた「事務決裁規程」などに専決と同様にどの事務について誰が代決できるかを定めています。

代決についても代決禁止事項を規程に定めますし、本来の決裁権者が決裁できることとなった場合には、代決したものを見せる(これを「後閲」といいます)旨の規定があるのが一般的です。

当たり前のことですが、本来の決裁権者に事故などがない場合には代決できません。会計伝票などを代決権者が日常的に代決するような自治体があれば、現行規定の妥当性や専決区分の見直しを検討すべきです。規定と実務の不一致を放置し、漫然とこうしたことを行っていると不適正な経理処理へつながるおそれがあります。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第148条(事務の管理及び執行権)
同法第155条(支庁・地方事務所・支所等の設置)
同法第156条(行政機関の設置)
同法第158条(内部組織)
同法第162条(副知事及び副市町村長の選任)
同法第168条(会計管理者)
同法第172条(職員)
同法第153条(長の事務の委任・臨時代理)
同法第154条(職員の指揮監督)
同法第167条(副知事・副市町村長の職務)
同法第152条(長の職務代理)

昭和62(行ツ)148 平成5年2月16日 最高裁判所第三小法廷判決(委任された財務会計上の行為についての長の損害賠償責任についての判例)

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