はじめに
どの仕事にも専門用語がありますが、お役所の専門用語は、職員だけでなく、住民の方々に向けてもつかわれることがあります。最近では、こうした専門用語には、短い解説がついていることが多いですが、本記事では、わかりやすく、すこし詳しく説明します。
今回は、「経常収支比率」についての説明です。
「経常収支比率」はお役所の財政関係の専門用語としては、ある程度一般的なものだと思われます。財政関係以外の職員の方や住民の方でお役所の予算や決算に興味がある方は耳にしたことがあるのではないでしょうか。どのような意味をもつ用語か、是非ともご一読ください。
説明は、簡単な説明から詳しい説明へと段階を追って行っています。
いちばん簡単な説明
「経常収支比率」は、県や市町村の財政で、入ってくるお金のうち、必ず支出しなければいけないお金の割合を示す数字です。数字が大きい方がその割合が高く、財政の融通が効きにくいです。
総務省の説明
総務省は、地方自治体や地方自治制度について所管している省です。
同省では、「経常収支比率」について、次の通り説明しています。
(文章による説明)
地方税、普通交付税のように使途が特定されておらず、毎年度経常的に収入される一般財源(経常一般財源)のうち、人件費、扶助費、公債費のように毎年度経常的に支出される経費(経常的経費)に充当されたものが占める割合。
(計算式)
経常収支比率 =
〔人件費、扶助費、公債費等に充当した一般財源等〕←分子
÷〔経常一般財源等(地方税+普通交付税等 +減収補塡債特例分+臨時財政対策債)〕←分母 ×100
(令和3年度地方公共団体の主要財政指標一覧の「指標の説明」より。一部筆者が加工した。)
詳しい説明―総務省の文章による説明の解説
総務省の説明に注釈を加える形で、もう少し詳しく説明します。
総務省の説明は、文章による説明の後に、計算式が示されています。
計算式の説明は、後に譲り、本項では、文章による説明を解説します。
《「経常収支比率」ということばの説明》
総務省の文章の各部分を説明する前に、この「経常収支比率」ということばを説明します。
「経常収支比率」というのは、文字通り、「経常(的)収入」と「経常(的)支出」の比率です。「経常(的)支出」の額は、「経常(的)収入」の額の何パーセントに当たるかを示すものです。
それらが同額なら100パーセントになります。経常(的)支出の方が経常(的)収入より少なければ100パーセントを切りますし、反対なら100パーセントを超えます。
《総務省の文章による説明の解説》
総務省の文章による説明を解説していきます。
「地方税、普通交付税のように使途が特定されておらず、毎年度経常的に収入される一般財源(経常一般財源)のうち」とは、
自治体の収入には、何にでもつかっていい収入とつかう目的が定められている収入があります。前者を「一般財源」、後者を「特定財源」といいます。
「一般財源」の代表的なものが、税金や地方交付税で、「特定財源」の代表的なものが「補助金」や「地方債」です。
そのうち、「毎年度経常的に収入される」という限定がついているので、地方交付税のうち、災害対策など特別な事情により交付される「特別交付税」は除かれ、「普通交付税」のみとされています。
「人件費、扶助費、公債費のように毎年度経常的に支出される経費(経常的経費)に充当されたもの」とは、
「人件費」は職員を雇用していれば毎年支出するものですし、「扶助費」というのは、生活保護費など社会保障関係経費で、法律で支出する義務がある経費です。また、「公債費」というのは、借金返済経費であり、銀行等との約束上毎年の返済計画により返済するものです。
施設の建設費や記念行事費などは、建設期間やその年限りのものですが、そうしたもの以外の、額の違いはあれ、毎年出ていく経費のことです。
「経常収支比率」のもつ意味合い
「経常収支比率」は、自治体の財政構造の弾力性を表す比率だといわれます。
わかりやすく、家計に例をとると、ボーナスがなく、毎月定額給の家庭で、税金や光熱水費、家賃と切り詰めた食費の額で給料の全額を使い果たすような家庭は、いわば経常収支比率100パーセントですが、衣類もろくに買えず、貯金もできず、病気にもなれません。
自治体の歳入と歳出は、もっと複雑ですが、イメージとしてはこのようなものです。経常収支比率が高い=財政の硬直性が高いと、政策の幅が狭まり、将来への投資ができにくいと一般にはいわれます。反対に、経常収支比率が低い=財政構造が弾力的であれば、市民のニーズに応じた施策や施設の建設などができることになります。
市町村の「経常収支比率」は、かつては、70パーセントから75パーセント程度が望ましいといわれましたが、最近は「扶助費」が高まっていることもあり、ほとんどの団体はこれより高く、令和3年度決算の全市町村平均では、88.9パーセントとなっています。
しかし、団体の規模によっても、平均の数値が異なることから、この比率については、類似規模の団体と比較することが大切です。と同時に、ある程度の期間の数値の変化を確認し、どのような傾向にあるのかと、その原因をつかむことも大切です。
もっと詳しく理解するために
《計算式の説明》
計算式の分母の「減収補填債特例分」とは、法人関係税などについて、地方交付税の算定に当たって見込んだ収入額に実際の収入額が満たない場合、その差(減収分)について、行う借金(地方債)のことです。
「臨時財政対策債」とは、国の収支不足を背景として、地方交付税の一部を振り替えることとした借金(地方債)のことです。
先ほどの説明で、「地方債」は特定財源という説明をしましたが、これらについては、その性質から経常収支比率の算定に当たって分母に算入されています。
なお、「臨時財政対策債」について、もう少し詳しくお知りになりたい方は、『「建設地方債」と「赤字地方債」のちがいとは』をお読みください。
《財政分析》
自治体の財政について、経常収支比率のような指標を用いて分析することを「財政分析」といいます。
財政分析については、総務省のホームページに解説と詳しい資料も載っていますので、ご覧になってください。
また、予算の初歩的な分類の仕方については、別のブログ『予算の中身を知りたい人のための「目的別分類と性質別分類」』をご覧ください。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
令和3年度地方公共団体の主要財政指標一覧(総務省トップ→政策→統計情報→地方財政状況調査関係資料→地方公共団体の主要財政指標一覧)
地方財政白書(令和5年版)(総務省トップ→政策→白書)(令和3年度決算における経常収支比率について記載)
財政分析について(総務省トップ→政策→地方行財政→地方財政の分析)
(総務省ホームページは令和5年6月6日に参照したもの)
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