「基金」ってなに?-わかるお役所用語解説4

はじめに

どの仕事にも専門用語がありますが、お役所の専門用語は、職員だけでなく、住民の方々に向けてもつかわれることがあります。最近では、こうした専門用語には、短い解説がついていることが多いですが、本記事では、わかりやすく、すこし詳しく説明します。

今回は、自治体の「基金」についての説明です。

「基金」ということば自体は、いろいろな機会に耳にされた方も多いと思います。お役所にも「基金」があります。
お役所の「基金」とは、どのようなもので、どういう役割をはたしているでしょうか。
是非ともご一読ください。

説明は、簡単な説明から詳しい説明へと段階を追って行っています。

いちばん簡単な説明

「基金」は、自治体の貯金です。特定の目的のための基金が多いですが、収入不足を補ったり、余ったお金を積み立てたりする基金もあります。多ければいいというものではありません。

法律の規定

自治体は、「特定の目的のために財産を維持し、資金を積み立て、又は定額の資金を運用するための基金を設けることができる。」とされています。(地方自治法第241条第1項)

基金は、「条例」によって設けることとされており、特定の目的のための基金は、その目的のためにしか基金の財産を処分できません。(同条同項と第3項)
条例設置については、一部、法律で義務付けられているものは条例が不要のものもあります。

また、「基金」は「確実かつ効率的に運用しなければならない」とされています。(同条第2項)

どんな基金があるの?

条文の記載だと、「基金」がどういうものか、今一つ、ピンときませんね。
代表的な「基金」の例をいくつか挙げます。

《庁舎建設基金、〇〇施設整備基金》
老朽化した庁舎を建て替えたり、市民の多くが利用する公共施設を建設したり、修繕したりするために、資金を積み立てるものです。

《減債基金、市債管理基金》
自治体が借金をする場合、国債と同じような証券を発行して、それを住民(国民)に買ってもらう方法があります。その場合に、例えば、10年物市債を発行したら、利息は毎年支払いますが、元金は10年後に一括して支払うことになります。
10年後に一度に支払うのは大変なので、毎年10分の1の額をこのような基金に積み立てておきます。

《美術品取得基金》
自治体で美術館を建設すると、美術品を購入する必要があります。その場合に、こうした基金をつくり、一定の額を基金の財産とします。いい美術品があった場合に、その基金で美術品を購入します。
基金は、一般会計と分けて財産管理をしますから、例えば、10億円で最初にこの基金をつくり、そこから3億円支出して名画を購入した場合、財産としては、現金7億円、美術品3億円というように整理します。

《財政調整基金》
自治体は、決算の結果、黒字になった場合には、その黒字額の2分の1以上の額を積み立てるなど、一定の年度間の財源調整を図ることとされています。(地方財政法第4条の3,第7条)
そのために、積み立てを行い、また、財源に不足が生じたときに、そこから取り崩すという目的で設けられたのが、この「財政調整基金」です。
財務関係者は、略して「財調」などと呼びます。

少し詳しい説明1―基金の分類

前項でいくつか基金の例を挙げましたが、一般的には、これらを「財政調整基金」とそれ以外の「特定目的基金」に分けます。
あるいは、「減債基金」を別建てにして、「財政調整基金」「減債基金」「特定目的金」の3つに分ける方法もあります。

どうしてそのように分けるかというと、「財政調整基金」は事実上どういう目的にも使えますから、自治体の予算編成や収支決算の調整のために活用されます。
具体的には、ある年度の事業量が多く、税収などだけでは財源が不足する場合には、「財政調整基金」を取り崩し、歳入とします。反対に、余裕があるときには、赤字にならない程度の額を歳出として基金に積み立てるのです。

一方で、「特定目的基金」は、その目的にしか処分できないという制限がかかっているので、「財政調整基金」とは別に扱います。

少し詳しい説明2―基金についての考え方

「財政調整基金」は、財政力指数とは別の意味で、自治体の富裕度を見る一つの物差しになります。

財政力指数は、その年度の収支の比(基準財政収入額÷基準財政需要額)ですから、年度単位の財政の豊かさを見るのに対し、「財政調整基金」は、財政の豊かな状況が過去に続き、その結果、多額になるものです。
財政力指数が高い団体が財政調整基金を多額に持ちやすいことは当然ですが、その自治体の実際の歳出状況によっても異なります。

そうすると、「財政調整基金」に残高が多い方がいいのではないかとも思われます。

しかし、自治体の財政は、その年の税収を含めた歳入で、その年のもろもろの歳出を賄うというのが原則です。財政に余裕があるのであれば、それを住民福祉に振り向けるべきです。
そうしたことに前向きでなく、単に財調にため込めばいいと考えているのだとすれば、よいことではありません。(この問題は、国のコロナウイルス対策予算に関する各省庁による予算確保のための基金乱造と執行率の低さについても言われています。)

もうひとつ。こうした「財政調整基金」が多額となる傾向が全国の多くの自治体で見られるようになると、地方は豊かではないかという議論が出てきます。
ご案内のように、国は歳出の財源の多くを国債に頼っています。国の財布を握る財務省は、当然、自治体の基金の状況について、注意深く見ており、その結果は、地方交付税の総額の折衝にも影響を与えるでしょう。

「財政調整基金」はないとたいへん困りますが、多すぎるのも考えものです。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第241条(基金)

地方財政法第4条の3(地方公共団体における年度間の財源の調整)
同法第7条(決算剰余金の積立て)

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