落選に納得できなければ裁判で―選挙争訟について

はじめに

立候補者数の多い市町村議会議員選挙においては、一、二票の差で当落が分かれることもあります。一方、選挙の投票には、不正確な記載などで、だれに投票したか判別しがたいものなどが存在し、僅差の場合にはこうした投票の有効無効の判断が当落の結果に影響を及ぼすことがあります。

落選した候補者などが開票時の判断に不服な場合には、関係の選挙管理委員会や裁判所で、その判断を争える道が残されています。

選挙に関する争訟の種類

選挙に関して裁判などで争うことができるものとして、「選挙の効力」に関する争訟と「当選の効力」に関する争訟があります。

「選挙の効力」に関する争訟とは、選挙の全体の有効無効を争うもので、例えば、選挙管理委員会が選挙の管理を行うに当たって公正な手続を行わなかったので、選挙自体が無効だと主張するような場合です。国会議員の選挙の定数訴訟もこの区分に該当します。

「当選の効力」に関する争訟とは、特定の個人の当落を争うものです。

なお、「争訟」ということばは、裁判所で争う「訴訟」とその前段階として、関係の選挙管理委員会に不服を申し出る手続を合わせた用語です。

本稿では、「当選の効力」に関する争訟を取りあげていますが、手続については「選挙の効力」に関する争訟もほぼ同じです。

「当選の効力」に関する争訟の流れ

「当選の効力」に関する争訟については、市町村議会議員又は市町村長の選挙、都道府県議会議員又は知事の選挙、国会議員の選挙によって、流れが異なります。

市町村議会議員又は市町村長の選挙

(異議の申出)
市町村議会議員又は市町村長の選挙に関する当選無効の争訟においては、まず、その選挙が行われた市町村の選挙管理委員会に対して、「異議の申出」を行います。これは、当選の告示から14日以内に行わなければなりません。それを過ぎると、選挙結果は確定し、争うことはできません。

(市町村選挙管理委員会の決定)
これに対して、市町村の選挙管理委員会は、申出を認めるか認めないか(却下又は棄却)の「決定」をします。この決定は、申出を受けた日から30日以内にするよう努力義務が課されています。

(審査の申立)
この決定に不服の者(具体的には、異議の申出が認められなかった場合には、異議の申出をした落選者、認められた場合には、その結果、落選とされた者)は、都道府県の選挙管理委員会に対して、「審査の申立」をすることができます。
これは、異議の申出の決定書の交付を受けた日又は、この決定書が告示された日から21日以内にしなければなりません。

(都道府県選挙管理委員会の裁決)
これに対して、都道府県の選挙管理委員会は、申立を認めるか否かの「裁決」を行います。この裁決は、申立を受理した日から60日以内にするよう努力義務が課されています。

(訴訟の提起)
この裁決に不服の者(審査の申立の記載参照)は、都道府県の選挙管理委員会を被告として高等裁判所に訴訟を提起することができます。
これは、審査申立の裁決書の交付を受けた日又は、この裁決書が告示された日から30日以内にしなければなりません。

(判決)
訴訟の判決は、事件を受理してから100日以内にするよう努力義務が課されています。

(上告)
高等裁判所の判決に不服がある者は、一般の訴訟と同様、最高裁判所に上告することができます。

都道府県議会議員又は知事の選挙

都道府県議会議員又は知事の選挙について不服がある者は、直接、都道府県選挙管理委員会へ「異議の申出」をすることになります。

それに対して、都道府県の選挙管理委員会は、「決定」をし、それに不服の者は高等裁判所に訴えを提起します。(市町村選挙管理委員会に対する手続がなく、不服の申出のしかたが、「審査の申立」でなく、「異議の申出」に、判断結果が「裁決」ではなく、「決定」となります)

その後は市町村議会議員又は市町村長の選挙の記載と同様です。

国会議員の選挙

国会議員の選挙については、選挙区選挙と比例代表の選挙で相手方が異なります。

選挙区選挙については、その選挙を管理する都道府県選挙管理委員会を被告として、比例代表の選挙については、中央選挙管理会を被告として、高等裁判所に訴えを提起します。
国会議員の選挙の場合には、直接裁判となるわけです。

その後は市町村議会議員又は市町長の選挙の記載と同様です。

当選無効の争訟の類型

当選無効の争訟で多いのは、次点者(落選者のうち最も得票数が多い者)と最下位当選者の票差が僅差の場合に、次点者が申出をするケースです。

選挙において、立候補者は、開票立会人を出すことができ、開票立会人はすべての投票を見ることができますから、有効無効の判断が微妙なもののうち、自らの候補者の得票とされなかったものや最下位当選者の得票とされたものについても、チェックが可能です。それらの投票に対する不服を理由とするものがあります。

また、開票立会人を出していない場合にも、異議の申出や審査申立には経費が掛かりませんので、伝聞に基づきこうした主張をする場合もあります。

こうしたもののほかに、最近目立つのは被選挙権を争うものです。

例えば、市町村議会議員として立候補するためには、「引き続き3箇月以上市町村の区域内に住所を有する」ことが必要です。これは単に住民票を移しただけでは足りずに、実際に暮らしていること、いわゆる「居住実態」が必要だと解されています。

居住実態が争われた場合には、周辺の聞き取り調査や電気、ガスの検針票による使用量の確認などにより、実体的に審査することになります。

なお、選挙犯罪に関連して当選無効となる制度もありますが、性質が異なりますので、ここでは説明の対象としません。

投票の再点検

都道府県の選挙管理委員会が、投票の有効無効を理由とする当選無効の異議の申出又は審査の申立をされた場合には、問題となる投票のある市町村へ赴いて実際に投票を確認することがあります。
これを「投票の再点検」などといいます。

投票の再点検に決まった方法はありませんが、申立者の立ち合いの下、まとめてある投票の束を一枚一枚確認し、申立対象票やそのほかの疑問票を特定し、それらの投票の写真を撮影したり、コピーをとったりして、持ち帰ります。
後日、選挙管理委員会を開催し、過去の裁判例や実例などに照らし、それらの有効無効を判断し、それをもとに、決定書又は裁決書を作成するという流れのことが多いでしょう。

筆者もこうした業務を何回か行ったことがありますが、市町村の開票時には大勢で開票するものを、いったん整理されたものとはいえ、限られた人数で確認するのは、なかなか根気のいる仕事でした。 

決定や判決の努力義務について

市町村選挙管理委員会の「決定」、都道府県選挙管理委員会の「裁決」又は「決定」、裁判の判決には、それぞれ何日以内にするという努力義務が課されています。

これは、公職には任期があり、確定判決までは、開票時の当選人がその身分を保持しているので、それと異なる判断がなされる可能性があるこうした争訟はできるだけ早く結論を得、正当な当選人を公職に就かせるためです。
任期ぎりぎりの判断となっては、争訟自体の意味がほとんど失われてしまいますから。

選挙犯罪に関係する当選無効などの裁判については、訴訟日程についてもより細かい定めがされ、「100日裁判」などといわれます。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

公職選挙法第15章 争訟(第202条から第220条まで)
同法第62条(開票立会人)
同法第67条(開票の場合の投票の効力の決定)

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