選挙の「なぜ、どうして」にお答えします―選挙の豆知識3

はじめに

くらしを考えるうえで大切な選挙。でも、選挙の制度はなかなか複雑でわかりにくい、とっつきにくいと思われている方もたくさんいると思います。
選挙を身近に感じていただくため、選挙の制度や事務の中から、「へー」「ふーん」というようなエピソードをいくつか紹介します。

今回は、選挙に関する素朴な疑問にお答えします。

ひらがなばかりの氏名の候補者がいるのはなぜ?

ポスター掲示場で候補者のポスターを見ると、ひらがなばかりで氏名が書かれている候補者を目にします。
投票所に行って、候補者名を記入する台の前面に貼ってある氏名の一覧表でも、漢字ばかりで書かれている氏名もあれば、名字は漢字、名前はひらがな、あるいはその逆、あるいは全部ひらがなといろいろです。

選挙の決まりでは、立候補の届出については、戸籍に書かれている氏名で届出をしなければならないことになっています。ですから戸籍の名前がひらがなでなければ、ひらがなで届け出ることはできません。

しかし、候補者の氏名が有権者の目に触れる、先ほどの投票記載台の氏名掲示や選挙公報、新聞広告などについては、漢字をひらがなやカタカナにして書いてもよいことになっています。
ただし、勝手に直せるわけではなく、立候補届出のときに「通称使用申請書」という申請書を出して、認定を受けます。

どうしてひらがなやカタカナにするかは、漢字の、とくに難しい名前は有権者に書いてもらいにくい、親しみやすさを出すといった候補者の考えがあると思われます。

この「通称」ですが、芸能人が芸名をつかって選挙運動をしたい場合や作家がペンネームをつかって選挙運動をしたい場合も、申請をして認定を受けます。
例えば、大阪府知事を務めた横山ノック、参議院議長を務めた扇千景、国会議員や千葉県知事を務めた森田健作、先般除名処分を受けた元参議院議員のガーシーなどは、いずれも通称です。

この場合には、通称使用申請書に本名に代わるものとして広く通用していることを証明する資料を添付し、説明することとされています。

ポスター掲示場にほとんどポスターが貼られていないのはなぜ?

選挙が始まって、ポスター掲示場を眺めると、ずいぶん区画数が多いけれど、そのほんの一部にしかポスターが貼られていない、なんていう光景がたまにあります。
あれには、主として2つの理由があります。

一つには、ポスターを貼る、貼らないは候補者の自由であることです。当然、たくさんあるポスター掲示場にすべて自身のポスターを貼れば、それだけ顔や氏名や政策が浸透することになります。
しかし、候補者の主義として、そうした選挙運動を行わないという考えの候補者もいますし、また、費用的な面から全部の掲示場に貼り切れないという候補者もいるでしょう。

もう一つは、候補者数に比べて、区画数が多い場合です。
選挙管理委員会が、ポスター掲示場の区画数を決める資料とするのは、立候補の説明会に来た人数やその後、届出関係書類を選挙管理委員会に取りに来た人数、さらに、新聞などにより出馬の意向がある人数などを総合的に判断して決めます。

その判断の時期についても、実際に設置工事を行う期間を考慮しなければなりませんので、公示日(告示日)のぎりぎりまで待つということはできません。
そうすると、安全側に区画数を多めに決定することになります。

書類を取りに来たけれど、その後、立候補を取りやめる人が多くなると、結果的に実際に立候補した人の数より区画数がけっこう多かったということもあります。
反対に、選挙管理委員会が少なめの予想を立てて、区画数が立候補者数に足りなくなったら大変ですしね。

朝早く駅前で候補者がお辞儀だけをしているのはなぜ?

選挙期間中にたすきをかけた候補者が駅の近くで壁を背にして、何も言わず、お辞儀をしている姿をよく見かけますね。
一方で、元気よく演説している光景も見ます。

どうして、違うのでしょうか。

それは、時間によるのです。
候補者が街頭で演説することができるのは、午前8時から午後8時までと決まっています。
夜の間は演説ができません。ちなみに、選挙カーから名前を呼び続ける行為(「連呼行為」といいます)もこの時間帯はできません。

理由は、うるさいからですね。

街頭演説については、時間制限のほかにも、学校や病院などの周辺では、授業や診療などの妨げにならないように、演説に当たり十分注意を払わなければならないとされています。

朝、お辞儀をしている候補者を見たら、時計で時間を確認してください。きっと、8時前のはずです。

午後8時になるといっせいに当選確実が出るのはなぜ?

まず、選挙管理委員会は「当選確実(当確)」というお知らせはしません。

「当確」はテレビや新聞などの報道機関が打ちます。報道機関は投票所で投票を終えた人にだれに投票したかを訊いたり(「出口調査」といいます)、世論調査やいろいろな情報を総合して、独自に、この候補者が当選するだろうと報道するわけです。
事前の調査の結果が大差であれば、実際の開票を待たずとも「当確」を打ちます。

それが午後8時以降であるのは、午後8時までは投票を行っている時間だからです。その時間中に選挙結果に関わる報道をすると、有権者の投票行動に影響を与えるおそれがあります。
当確報道の直接の禁止規定ではありませんが、公職選挙法では「人気投票の公表の禁止」が定められており、その趣旨は動機の不公平さと先ほど述べた選挙への影響です。こうしたことから、有権者が投票を終えた午後8時以降にいっせいに「当確」報道がされます。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

公職選挙法第164条の6(夜間の街頭演説の禁止)
同法140条の2第2項(学校等の周辺における平穏の保持)
同法第138条の3(人気投票の公表の禁止)

公職選挙法施行令第88条第8項、第9項(通称使用認定の申請。本項は衆議院小選挙区選挙の届出に関する規定であるが、他の選挙についても同様の規定がある)

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