はじめに
自治体のもっとも重要な財源である地方税。でも、税金にはたくさんの種類があるので、どれが国税でどれが地方税か、地方税でもそれが都道府県の税金か市町村の税金かは判別が難しいですね。今回は、国税と地方税の区別や、地方税(都道府県税)の内容について、わかりやすく解説します。
分けてみよう
いきなりですが、以下の税目(税金の種類)は、国税でしょうか、地方税のうち都道府県税でしょうか、それとも市町村税でしょうか。
1 所得税
2 住民税
3 固定資産税
4 法人税
5 消費税
6 事業税
7 都市計画税
8 酒税
9 自動車税
《答え》
まず、国税ですが、1の所得税、4の法人税、5の消費税、8の酒税です。
なお、消費税については、「地方消費税」という地方の収入となる税金も消費税の支払いのときに一緒に支払っています。あとで触れます。
残りはすべて地方税ですが、このうち都道府県の収入となるのは、2の個人住民税のうち都道府県民税分、6の事業税、9の自動車税です。
市町村の収入となるのは、2の個人住民税のうち市町村民税分、3の固定資産税、7の都市計画税です。ただし、固定資産税と都市計画税については、東京23区内は東京都の所管となります。
また、個人住民税については、都道府県民税分も含めて、市町村が課税します。
ここに挙げた税目は、国税及び地方税のすべてではありません。国税に限っても、他に、贈与税、相続税、印紙税、登録免許税、自動車重量税などたくさんあります。
地方税についても、あまり耳にしたことのないような税目もあります。
税金の区分けのしかた
これから、都道府県の税金と市町村の税金について説明しますが、単に税目を羅列するより、一定の区分けのしかたに沿って説明した方が、理解しやすいのではないかと思います。
税金の区分けのしかたには、いろいろありますが、地方税にとって重要なものとして、「法定税」と「法定外税」の区分けがあります。
自治体の税金の種類や税率などは、地方税法という法律で定まっており、その範囲内において、各自治体の条例で定めて賦課徴収するということになっています。
ただし、自治体は総務大臣に協議をし、同意を得れば、地方税法に定めのない独自の税目を条例に設け、課税することができます。これを「法定外税」といいます。
「法定外税」には、産業廃棄物関係や核燃料関係の課税をしている団体が多いですが、一般の方を対象とし、比較的馴染み深いものとしては、東京都などが課税する「宿泊税」があります。
今回の記事では、「法定税」のみを扱い、「法定外税」については、この紹介に留めます。
次に、「普通税」と「目的税」という区分けのしかたについてです。
これは、税金の使途に注目した区分けのしかたです。
自治体の収入についてみる場合に、どのような使途にも使えるお金と特定の使途にしか使えないお金を区分することはとても大切です。
税は通常どのような使途にも使えるお金に区分されます(「普通税」)。しかし、この「目的税」というのは、特定の施策目的のため、その施策目的から利益を得る者に課税するものです。あとで、説明しますが、税目としては、都市計画税、入湯税などがあります。
税の分類の仕方については、このほかにも、担税力による区分(所得課税、資産課税、購買力課税)や税の支払者と負担者の関係による区分(直接税、間接税)などがあります。
これらについて、お知りになりたい方は、別のブログ『所得税とは仕組みがちがう「住民税」にご注意』の【やさしい税金と地方税のはなし】の項をご覧ください。
今回と次回の記事では、都道府県と市町村の税金について、「普通税」と「目的税」に分けて説明していきます。
都道府県の税金《普通税》
都道府県民税(個人分)
いわゆる個人住民税のうち都道府県分です。個人の住民税については、市町村が都道府県分も合わせて課税します。
また、サラリーマンなどは、特別徴収の制度により、所得税と同じように給料から天引きされている方も多いです。
特徴としては、昨年の所得に対して課税されることで、収入の変動の多い方は、昨年より収入が激減したうえに、高額の住民税がかかるということがあります。
個人住民税については、別のブログ『所得税とは仕組みがちがう「住民税」にご注意』で詳しく解説しておりますので、詳細はそちらをご覧ください。
都道府県民税(法人分)
法人の住民税です。
法人住民税にも個人住民税と同じように均等割と所得割(法人税割)があります。
均等割は資本金の額に応じて額が異なります。
法人税割は、法人税の額に1%をかけた額です。複数の県に事業所がある場合には、従業員数で按分した額を各県に納めます。
都道府県民税(利子割、配当割、特定株式等譲渡所得割)
銀行預金の利息や株式の配当、株式の譲渡などにかかる税金です。税率は5%。
事業税(法人事業税)
法人が行う事業に対して課される税です。
法人は、住民税も支払っていますが、住民税については、その地域社会の構成員たる法人に対して課されるもの、事業税は、法人が行う事業に対して、自治体が提供するサービス(道路整備、上下水道等)に対する経費として課されるものという区分がされています。
付加価値割・資本割・所得割・収入割の4つの区分で税額が決まります。
付加価値割は、各事業年度における従業者への給与などや利子、賃借料の合計額と1年間の損益の合計額をいいます。
資本割は資本金の額、所得割は法人の所得額に応じて課税されるもので、収入割は、一定業種について、所得割のかわりに課されるものです。
付加価値割と資本割については、資本金1億円超の法人にのみ課されるもので、「外形標準課税」といわれるものです。
外形標準課税分は、事業が赤字であっても納めるものです。近年、コロナウイルスを原因とする企業経営の厳しさから、大企業でも、資本金を減じ1億円以下とする動きがありますが、その動機の一つには、この制度の適用を免れようとすることがあります。
税率は、資本金1億円超の普通法人については、付加価値額の1.2%+資本金等の額の0.5%+所得の1.0%、資本金1億円以下の普通法人等については、所得金額により、3.5%から7.0%などとなっています。
事業税(個人事業税)
個人事業税についても、課税の論拠は法人事業税と同じです。ただし、法人と個人の事業規模のちがいや受ける行政サービスのちがいから、以下のように定められています。
個人事業税の課税対象者は、物品販売業や製造業などの「第1種事業」、畜産業・水産業・薪炭製造業の「第2種事業」、医業や弁護士業などの「第3種事業」の3区分に分類されています。
税率は、上記の種別により3から5%と異なっています。
地方消費税
住民税とならんでもっとも身近な地方税です。消費税10%の中身は、国税の「消費税」が7.8%、「地方消費税」が2.2%というのが正確なところです。
消費税は、間接税で、税の実質的負担者は消費者ですが、納税義務者は各事業者となっています。各事業者は申告書とともに税務署に消費者から受け取った消費税相当額とそれから仕入れ等の際に支払った消費税相当額を控除した額を納めます。
集まった地方消費税は、消費に関する統計などをもとに、各都道府県に分配されます(地方消費税の「清算」)。
なお、交付を受けた都道府県は、その額の2分の1を市町村に交付します。ですので、地方消費税の税収としては、県2.2%ですが、実質的には、県、市町村1.1%ずつとなります。
自動車税(種別割)
4月1日現在に自動車を所有する者に対して、その自動車の種類と排気量に応じた税額が課される税金です。
なお、軽自動車については、市町村税の税目となります。
現在は、一定の環境性能を満たした新車については、税率の引き下げ、一定年数を経過した自動車については割増税率の適用といったグリーン化特例(軽課・重課)の制度が設けられています。
自動車税(環境性能割)
自動車の取得者に対し、取得時にかかる税金です。
税額は、自動車などの通常の取得価額に、その自動車の燃費基準や排出ガス規制の達成度に応じた環境性能などに応じて、0~3%の税率を乗じた額です。
以前は、「自動車取得税」という税金がありましたが、消費税率10%への改定の際に廃止され、この税金となりました。
不動産取得税
不動産(土地・建物)を「取得」するとかかる税金です。「取得」は売買に限らず、贈与や交換、それに建物の建築なども含まれます。
固定資産の評価額に4%をかけたものが税額になりますが、一定の住宅と住宅用地については、軽減の特例が定められています。
取得時に1回だけかかる税金です。その点で、毎年課税される固定資産税とは異なります。
固定資産の評価額については、市町村の税金の固定資産税の項をご参照ください。
道府県たばこ税
たばこに税金がかかっていることは知っていても、その内訳までご存じの方は少ないと思います。
たばこの税金には、国税の「たばこ税」「たばこ特別税」のほかに、地方の税金として、この「道府県たばこ税」と「市町村たばこ税」があります。
税額は、例えば、紙巻きたばこ1000本につき、国のたばこ税が6802円、たばこ特別税が820円で、道府県たばこ税が1070円、市町村たばこ税が6552円、合計15244円です(2023年9月現在)。1本あたり、15.2円ということになりますね。
たばこの販売事業者等の納税義務者が自治体に申告し、納付します。
なお、ここで「道府県」と、「都」が抜けていますが、地方税法では、「道府県」が課することのできる税を定め、東京都については、別条を設けて、道府県が課税する税目に加え、23区の区域において、道府県では市町村が課税する税目の一部を都が課税する特例を定めているためです。都にもたばこ税の収入はあります。
ゴルフ場利用税
ゴルフ場の利用者が払う税金です。
1人1日800円が標準の税率です。
数ある娯楽の中で、どうしてゴルフ場の利用について税がかかるのかについて、総務省では、「ゴルフ場が、開発許可、道路整備、防災、廃棄物処理などの地方公共団体の行政サービスと密接な関連を有していること、また、ゴルフ場の利用料金は、他のスポーツ施設の利用料金と比較して一般に高額であり、その利用者の支出行為には、十分な担税力が認められることに着目し」たと説明しています。(総務省のホームページ「地方税制度」中の「ゴルフ場利用税」より)
軽油引取税
軽油は、ディーゼルエンジンの自動車の燃料としてよく使われるものです。
税率は、当分の間、1キロリットルにつき15,000円とされています。
元売業者又は特約業者から現実の納入を伴う軽油の引取りを行う業者が納めます。
鉱区税
鉱区は、鉱物や石油・天然ガスなどを採掘する区域です。これらのものを採掘する場合には、鉱業法の規定で鉱区の設定許可を受けなければなりません。
この許可を受けた者が、採掘する面積に鉱物等の種類による単価をかけた金額を納付するものです。
都道府県の税金《目的税》
狩猟税
狩猟税は、鳥獣の保護や狩猟に関する行政施策の実施に要する費用に充てられる税金です。
狩猟者免許を有する人が、その有する免許の種類によって一定額を納めます。
有害鳥獣の捕獲を行う一定の者や猟友会については、課税免除や税の軽減の措置があります。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方税法第3条(地方税の賦課徴収に関する規定の形式)
第259条、第669条、第731条(法定外税の規定)
第2章第1節第23条以下(道府県民税)
第2節第72条以下(事業税)
第3節第72条の77以下(地方消費税)
第4節第73条以下(不動産取得税)
第5節第74条以下(道府県たばこ税)
第6節第75条以下(ゴルフ場利用税)
第7節第144条以下(軽油引取税)
第8節第145条以下(自動車税)
第9節第178条以下(鉱区税)
第4章第3節第700条の51以下(狩猟税)
本ブログ記載に当たって、以下のものを参考とした。
総務省ホームページの「地方税制度」の税目解説及び「地方税制度」中の「やさしい地方税」の税目解説(総務省トップ > 政策 > 地方行財政 > 地方税制度)
一般社団法人日本たばこ協会ホームページ
※地方税は地方税法に基づいて、各自治体が条例によって賦課徴収するものですので(地方税法第3条)、具体的な税率などは自治体により地方税法の標準的な定めと異なる場合があります。
※上記記載の税目、税率等は2023年9月現在のものです。地方税法は毎年のように改正が行われます。地方税実務に携わる方や取引の参考としてこのブログをご覧の方は、必ず、最新の税制についてご確認ください。
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