義務付け・枠付けの見直しとは、何を見直すのだろう

はじめに

本記事は、第2期地方分権改革の柱の一つ「義務付け・枠付けの見直し」について解説する記事です。

まず押さえよう

「義務付け・枠付けの見直し」とは、地方分権改革に関係することばです。

地方分権改革は、これまで全国一律の中央集権型の行政から、地域の自主性や自律性を高める行政へと改革するものです。

そのためには、自治事務に区分された自治体の仕事については、法律の定めのうち、一定の全国統一基準による必要があるものをのぞいては、自治体が条例で定めることができるようにすることが必要です。

そのことを「義務付け・枠付けの見直し」といいます。

この見直しの一環で、自治体が国の定めに替え条例で定める内容につき、国が示す基準として、制約の程度により、「従うべき基準」「参酌すべき基準」「標準型」といった区分けがされています。

「法定受託事務」と「自治事務」の誕生

どうして「義務付け・枠付けの見直し」が議論されるようになったかという経緯を説明します。

地方分権改革は大きく第1次分権改革と第2期分権改革に分けられます。

第1次分権改革の成果としては、2000(平成12)年に、機関委任事務の廃止と自治体の事務を法定受託事務・自治事務という2区分に整理したことが挙げられます。

この詳細については、別のブログ(自治体の行う「法定受託事務」「自治事務」とは)をご覧になってください。

この二つの事務のちがいは、法定受託事務は、「国が本来果たすべき役割の」事務で、国が「適正な処理を特に確保する必要がある」事務です。
簡単にいうと、自治体にやってもらっているけれど、国が強く関与し、国は事務について処理の基準をつくれ、自治体がやらなければ代わりにやる(代執行)こともできる事務です。

一方で、「自治事務」は、「法定受託事務」以外の事務です。
自治事務については、自治体が地域の特性に応じて処理できるよう国が配慮することが定められています。
制度上も代執行はできなく、是正を要求するところまでとなっています。

これによって、自治体が「行政」を行う上での国の関与は小さくなり、その分自治体の自主性が発揮されることになりました。

「義務付け・枠付け」って何?

でも、自治事務についてもたくさんの法律で、自治体の事務のやり方について定められていますし、各省庁はそれの細目を政省令でさらに細かく定めています。

第2期分権改革では、これに注目しました。
2008(平成20)年12月に地方分権改革推進委員会が出した「第2次勧告」の中で、こうした「地方公共団体に対する事務の処理又はその方法の義務付け」のことを「義務付け・枠付け」と呼びました。

この「義務付け・枠付け」の規定について、本当に法律や政省令で定める必要があるのかを検討し、廃止又は自治体の定める条例で地域の実情に沿った定め方ができるようにしようというのが、「義務付け・枠付けの見直し」です。

これは「立法」面での国の関与の縮小と自治体の自主性の拡大(条例制定権の拡大)を目指すものです。

「義務付け」と「枠付け」のちがい

「義務付け」と「枠付け」という2つのことばがありますが、どのようなちがいがあるのでしょうか。

勧告の中で、「義務付け」とは、自治体に一定の活動を義務付けることだとしています。
「〇〇する」ことの義務付けです。

「枠付け」とは、自治体の活動について手続、判断基準等の枠付けを行うことだとしています。
〇〇するに当たっては、「△△という手続を踏んで、□□という基準で判断しろ」と定めていることです。

勧告では、「義務付け」と「枠付け」は連続的な概念なので、分けずに「義務付け・枠付け」を一体として見直しの対象とするとしています。

見直しの方針と「従うべき基準」「参酌すべき基準」

勧告では、自治体が私有財産制度などの根幹の事務を行う場合の定めや地方自治の基本的なルールについての定めなどの例外を除き、原則、こうした規定の廃止、又は内容の全部又は一部を条例に委ねることを基本方針としています。

廃止しない場合には、今まで国が定めていた基準の内容を全部そっくりそのまま条例に定めればよいでしょうか。
それでは、地域の実情を反映できなくなってしまいます。
そこで、そうした基準について、内容に応じたしばりの強さによって、3タイプに分けました。

しばりの強い順に、「従うべき基準」型、「標準」型、「参酌すべき基準」型です。

「従うべき基準」型というのは、国が示した内容と同じ内容を条例で定めなければならないものです。この基準と違う内容を定めることはだめ(=違法)ですが、基準の範囲内で、地域の実情に合ったものを定めるのは許容とされています。

「標準」型というのは、国が示した内容と同じ内容を条例で定めるのが標準ですが、合理的な範囲内で、地域の実情に応じた「標準」と異なる内容を定めることは許容とされています。合理的な理由がない場合に違法になります。

「参酌すべき基準」型というのは、条例制定に当たって、十分にこの基準を参照するという基準で、十分に参照した結果、地域の実情に応じて、この基準とちがう基準を定めることを許容するものです。十分参照しないと違法になります。

十分に参照するというのは、おもしろい表現ですね。

この区別は、2009(平成21)年10月に出された地方分権改革推進委員会の第3次勧告に載っています(別紙2)。

「義務付け・枠付けの見直し」のしくみ

こうした勧告事項については、内閣府が各省庁に見直しの可否等を照会し、可となったものについては、法改正をします。

2014(平成26)年からは、勧告の見直し事項以外に、この「義務付け・枠付けの見直し」と権限移譲について、自治体から広く提案を募る「提案募集方式」も導入されました。
権限移譲について、全国一律の見直しが難しい場合には、「手挙げ方式」という、提案自治体や賛同する自治体に対する見直し事項の適用の方法も併せて、取り入れられました。

提案された事項については、有識者会議や提案募集検討の専門委員会の省庁へのヒアリングなどを行い、内閣府と各省庁で調整を図っています。

法改正と条例制定の状況

こうした見直しの事項は、「地方分権一括法」として、2011(平成23)年以来2022(令和4)年までに12回の法改正が行われています。

また、見直しの結果を活かした自治体の独自条例も、公営住宅の入居基準や整備基準、道路の構造や標識の基準、保育所の配置人員や面積基準など多くの分野で制定されています。
詳細は内閣府の地方分権改革のホームページをご覧ください。

根拠法令等

地方自治法第2条(地方公共団体の法人格とその事務―法定受託事務と自治事務)等 (詳細は『自治体が行う「法定受託事務」と「自治事務」とは』のブログ参照)

内閣府の地方分権改革のホームページ(内閣府ホーム→内閣府の政策→地方分権改革 2023年1月17日参照)(このホームページからいろいろなリンクをたどると、地方分権改革の全体がわかります)

地方分権改革推進委員会第2次勧告~「地方政府」の確立に向けた地方の役割と自主性の拡大~(平成20年12月8日)

地方分権改革推進委員会第3次改革~自治立法権の拡大による「地方政府」の実現へ~(平成21年10月7日)

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