会計年度をゆがめる処理―自治体経理の基礎2

はじめに

本記事は、「会計年度独立の原則」の主な例外である、継続費、繰越明許費、事故繰越しについて説明し、繰り越すべきものを繰り越さない、あるいは、会計年度区分を恣意的に変更するなど、会計年度の制度をゆがめる処理について解説します。

第1回目の概要

本記事は、会計年度ってなんだろう?―自治体経理の基礎1に続くものです。会計年度について、基礎的な知識をお持ちの方は、このままお読みください。基礎からお知りになりたい方は、前の記事からお読みください。

第1回目の概要は次のとおりです。

会計年度とは、自治体の歳入と歳出の計算を区分して、歳入と歳出の関係を明確にするために設けられたもので、4月1日から翌年3月31日までの期間です。

これに基づき、会計年度独立の原則が定められています。

どの会計年度に属する収入、支出かは地方自治法施行令に定めがあります。

自治体の一般会計には、出納整理期間の制度があり、5月31日までに収入・支出されたものは、前年度の歳入・歳出に計上されます。

水道事業や病院事業など、公営企業会計で行われる事業については、出納整理期間はなく、3月31日ですべての会計を整理する民間の会計処理に近い方式で処理されます。

会計年度と繰越し

これまで述べたとおり、「会計年度独立の原則」により、各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもって充てなければならないものです。

これには、いくつか例外があります。
当年度の予算を翌年度に繰り越してつかうことのできる制度の主なものとして、継続費繰越明許費(くりこしめいきょひ)、事故繰越しがあります。

《継続費》
自治体の行う事業は、必ずしも1年間(年度内)に終わるものばかりではありません。ある程度の規模の土木・建設工事は、むしろ2年以上かかるものが普通です。

そうした場合に、経費の総額と年割額(1年ごとにつかう予算額)を予算で定めます。この経費のことを「継続費」といいます。
継続費は、その年度に使用しなかった額は次年度以降に繰り越して使用することができます。これを「継続費の逓次繰越し(ていじくりこし)」といいます。

《繰越明許費》
繰越明許費は、予算の経費のうち、「その性質上又は予算成立後の事由で、年度内に支出を終わらない見込みのあるもの」について、予算のなかで繰越すことを定め、翌年度に支出するものです。

例えば、何らから施設の改修工事を3月20日までの期限で発注して、工事を行っていたが、天候不順が重なり、工期に1カ月余りの遅れを生じ、工事の完成が4月末ごろになるといった場合です。それが、3月議会で提案予定の補正予算編成の段階で判明していれば、「繰越明許費」として、予算上の整理をして、議会に議決を得ることになります。
そうすることによって、予算を繰り越して、工事完了後に支払をします。

《事故繰越し》
事故繰越しは、「避けがたい事故のため」年度内に支出を終わらなかったものについて、翌年度に繰り越すものです。

具体的には、先と同様な施設改修工事について、3月に入ってから、大雨等で工事場所への道路が寸断され、工事を中断せざるを得なくなったような場合です。3月議会が始まり、補正予算も提案されている中で、道路復旧の見込みが不確かで、その状況を見ていたが、結果として3月中の工事完了ができなかったという場合が、「事故繰越し」の一例です。
通常、事業は予算に基づいて行うのが原則ですが、こうした場合には、予算に定めがなくとも、次年度に繰り越して予算を使用できます。

繰り越すべきものを繰り越さない問題

この繰越しに関して、時折、新聞等で報道されるのが、繰り越すべきものを繰り越さなかった問題です。

例えば、前の項の事故繰越案件で、道路の復旧がなされ、施設改修工事が再開され、4月15日には工事が完了した。早速工事完了報告を事業者から上げさせ、工事検査を行って、速やかに請求書を求めた。
4月15日という、前年度が終わってからそれほど時が経過していない時期だったため、事故繰越し手続を行わず、工事完了報告と工事検査を前年度中(例えば3月31日付け)で行ったことにして、通常の手続で代金を支払った。
これが後で発見されて、問題となるのです。

どうしてこのようなことをするのでしょう。

それは、面倒くさいからです。また、例外的な処理を嫌がるということもあります。
事故繰越しをした場合には、「事故繰越し繰越計算書」を作成しますし、場合によっては、工事の経過などを上司や、出先機関の場合、本庁に説明しなければなりません。
年度末から年度当初はいろいろ事務の立て込む時期ですから、事業者と示し合わせて(あるいは指示をして)、事務量の軽減を図るつもりがあるのでしょう。
しかし、見つかれば、当然何らかの処分がなされ、上司の監督責任も問われることがあります。説明(釈明)書類の作成も余分な事務です。

仕事は正直にやるのがいちばんです。

物品購入の不適切な処理

この請求書等の日付や品目などを事業者に指示し、改ざんすることによって、会計年度独立の原則や自治体の財務規則に違反する行為をする例は、物品購入にも用いられることがあります。
かつて、いくつかの県で「不正経理」「不適正経理」として問題になったほか、国の機関等による事例は最近でもたまに報じられます。
いくつかを示します。

《預け》
納入業者から架空の請求書を提出してもらい、支払いを行い、そのお金をその業者に預けて、それをもとに翌年度に必要な物品を購入することです。
予算は使い切らなければならないという考えと必要な物品の購入に予算がつかないことがあるということから生まれた手法です。

《差し替え》
納入業者に別の請求納品書を提出させ、欲しい物品を納入させることです。これは文房具や紙類を購入する予算(需用費)はつくが、デジタルカメラやパソコンなどの購入の予算(備品購入費)はなかなかつかないことから行われます。
なお、こうして納品された物を自宅に持って帰って、私物として使ったら、当然犯罪です。

《前年度納入・翌年度納入》
予算上の年度とは異なる年度に納入させること。納入や検品の日付を操作することで行われます。これも予算の使い切りの考えや融通を利かせることが腕がいいという庶務担当者の考えで行われます。

《一括払い》
本来、発注、納品のたびに支払の手続きをすべきところ、事務手続きの面倒くささから、まとめて行うことです。預けなどを行って、納入業者との関係が不適正になるとこうしたことも行われやすくなります。

改善方策

自治体として、こうしたことを避けるため次のような対応がとられています。

《第三者の検収》
「検収」とは、納品されたものが発注内容と一致しているかどうかを確認することです。
発注の担当者がこの確認をしていると、例えば、前記の「差し替え」が行われてもわかりません。
なにより、発注担当者と事業者の間に第三者が関わることによって、きちんと取引を行わなければならないという緊張感が生まれます。

《集中調達》
「集中調達」とは、調達部門を決めて、一定の範囲の物品をその部門が一括して調達することです。
例えば、ペンやコピー用紙やファイル類など、どの部署でも使うようなものについて、調達部門が各部署の要望数を聞いたうえで、まとめて発注します。
そうすれば、各部署の発注担当者と業者の接触の機会が減ったり、なくなったりします。 それによって、そもそもこうした不適正な経理をもとから絶とうとするものです。

これには、調達コストが減少するというメリットもあります。たくさんの種類のたくさんのものを一括で一業者に発注することになるので、入札を行うこととなります。
量が増えたことによるコストの減の効果と今までの相対の取引から入札という競争で調達することによるコストの減の効果が相まって、こうしたメリットが生じます。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第235条の5(出納の閉鎖)
同法第212条及び地方自治法施行令第145条(継続費)
同法第213条及び同令第146条(繰越明許費)
同法第220条及び同令第150条(事故繰越し)

地方自治法施行令第143条(歳出の会計年度所属区分)

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