はじめに
自治体の財政を理解する上で、地方交付税の制度を知ることはとても重要です。しかし、地方交付税制度は複雑で、深く理解しようとすると、税財政制度全般や自治体の行う各業務についての知識が必要となります。
本稿は、都道府県庁や市町村役場の財政・予算担当以外の職員、はじめて財政・予算部門へ配属される職員と官公庁を志望される方を含めた一般の自治体財政に興味を持つ方々を対象にして、正確性をある程度犠牲にしたうえで、できるだけわかりやすく交付税制度を説明しようとするものです。
なお、末尾に根拠となる条文等を掲げておきますので、正確に理解されたい方はそちらを参照のうえ、専門書に当たっていただくことをお願いします。
もらう交付税と交付する交付税
交付税(正式には「地方交付税」といいますが、本稿では、単に「交付税」といいます)の交付時期や予算編成時期などに、交付税がいくら増えたとかいくら減ったという話が、財政当局からされることがあります。
交付税は、国から交付されますが、その全国の自治体への交付総額が増えたり減ったりすることと、各自治体がもらう交付税が増えたり減ったりすることは別物です。
これからの説明では、それらを分けて説明していきます。最も気になるのは、自分の団体に来る交付税の額や仕組みですので、これを「もらう交付税」として説明します。
一方、国が地方に交付する交付税の額や仕組みについては「交付する交付税」として説明します。
「もらう交付税」と「交付する交付税」は仕組みが違いますし、その額も、説明の仕方によって、一致したり、一致しなかったりします。これも交付税がよくわからない一つの理由ですが、後回しにします。
まずは、なぜ交付税という制度があるのかをかんたんに説明します。
なぜ交付税の制度があるのか
交付税は、自治体の収入(メインは税収)だけでは、自治体の仕事に費やす経費に足りない場合に交付されるお金です。
交付「税」という名前ですが、国の税金(所得税や法人税などの一部)を国が自治体に交付する制度です。交付税という独立した税目(税金の種類)があるわけではありません。
家計は、基本的には収入の範囲内でやりくりして暮らしていきます。安い野菜を見つけたり、ブランドもののバッグは買わず、旅行にも行かないなどして、なんとか収支の帳尻を合わせたり、子どもの将来の学費を貯金します。
自治体も節約に努めるべきですが、自治体の仕事のほとんどは、法律でやることが義務付けられたものです。収入が少ない団体が、勝手に、これとこれはやらなくていいと決めたら、裁判になり、負けてしまうでしょう。自治体は法令に基づいて住民サービスを行うためにある団体ですから。
一方、自治体の収入の方はどうでしょう。高齢者で年金暮らしの人が多く住んでいれば税収はそれほど上がりません。また、そもそも人口が何百人という村では、総額もたいしたことはありません。
反対に都会で高給取りがいて、大企業がたくさんあるところは、自治体(市町村)のメインの税収の住民税(個人住民税と法人住民税)や固定資産税(土地や建物や設備にかかる)がたくさん入ってきます。
やるべき仕事はどの自治体も同じようにやらなければならないのに、その収入にはたいへんな格差があるのが現実です。
そこで登場するのが交付税です。
自治体は義務付けられた仕事をきちんとこなさなければなりませんから、自治体の収入とそうした仕事にかかる経費の差額(足らず前)は国が交付しますということです。このことを交付税の「財源保障機能」といいます。
また、教科書的にいうと、税収の多い少ないを交付税でならすことになるので、これを交付税の「財源調整機能」といい、交付税の2つの機能は? という問いにはこれらを答えることになります。
もらう交付税の仕組み
収入と支出(経費)の差額が交付税だということは、交付税を計算する場合には、収入と支出をそれぞれ計算して、それを差し引くということです。
収入のことを、交付税の用語で「基準財政収入額」といいます。
支出のことは、「基準財政需要額」といいます。
ここで、「基準」というのが頭についていますが、収入額や需要額の計算に当たっては、実際の収入額や実際の支出額によるのではなく、総務省が決めた一定の計算方法によって計算するということです。計算の中で、ある項目については実際の額を用いるということはあります。
交付税額=基準財政需要額―基準財政収入額 ということになります。
これがマイナスの場合、つまり、収入の方が多い団体には、「普通交付税」は交付されません。こうした団体を「不交付団体」といい、一般に財政が豊かな団体とされています。
なお、交付税には「普通交付税」と「特別交付税」があります。普通交付税が交付税総額の94パーセント、特別交付税が6パーセントです。
需要額と収入額の引き算で計算されるのは、普通交付税の額で、特別交付税はこうした計算に入らない特別な需要に対して交付されます。ですので、違った算定方法によります。
以下の説明は、普通交付税の説明になります。
基準財政収入額の計算
基準財政収入額の計算対象は、自治体が徴収する税の収入と「地方譲与税」など国が徴収した税金などの地方の取り分です。
このうち、税収については、一定の方法でその年度の税収見込みを計算して、それに75パーセントを掛けます。地方譲与税等はそのままです。
基準財政収入額=税収×75% + 地方譲与税等 ということになります。
どうして税収全額を収入額にしないかというと、交付税は、基準財政需要額と基準財政収入額の差し引きですので、例えば、税収の全額と地方譲与税等の額の合計額を基準財政収入額とした場合には、それと基準財政需要額が等しい場合には、交付税は交付されません。
これはどういうことかというと、法律で義務付けられた仕事以外(あるいは、総務省が必要だと考えて需要額に算入した仕事以外)は、自治体はできないということになります。25パーセント分(これを「留保財源」といいます)が残れば、法律に定めはないが、住民にとって必要な行政もできることになります。これを地方団体の自主性、独立性を保障すると総務省は説明しています。
また、75パーセント算入であれば、税収が増加すると、自治体の独自施策につかえる残りの25パーセント分も増えることになります。これを税源かん養の意欲を失わせないためと総務省は説明しています。
以上が、「基準財政収入額」の説明です。次回は「基準財政需要額」の説明をします。
根拠法令等
本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。
地方交付税法第2条(用語の定義)
同法第6条(交付税の総額―交付税の原資となる国税の種類と原資とする割合が示されている)
同法第6条の2(交付税の種類等―普通交付税と特別交付税の説明)
同法第10条(普通交付税の額の算定)
同法第14条(基準財政収入額の算定方法)
普通交付税に関する省令第3章(基準財政収入額の算定方法)
総務省ホームページ(政策→地方行財政→地方財政制度→地方交付税)
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