「実質公債費比率」ってなに?-わかるお役所用語解説3

はじめに

どの仕事にも専門用語がありますが、お役所の専門用語は、職員だけでなく、住民の方々に向けてもつかわれることがあります。最近では、こうした専門用語には、短い解説がついていることが多いですが、本記事では、わかりやすく、すこし詳しく説明します。

今回は、「実質公債費比率」についての説明です。

「実質公債費比率」はお役所の財政関係の専門用語としては、あまり馴染みがないと思われます。財政関係以外の職員の方や住民の方は、よほど自治体財政に興味がないと耳にしたことはないでしょう。
しかし、大切な指標です。どのような意味をもつ用語か、是非ともご一読ください。

説明は、簡単な説明から詳しい説明へと段階を追って行っています。

いちばん簡単な説明

「実質公債費比率」は、県や市町村の借金返済額の収入に対する割合です。数字が大きいと財政が苦しく、新たな借金に制限がかかります。

総務省の説明

総務省は、地方自治体や地方自治制度について所管している省です。
同省では、「実質公債費比率」について、次の通り説明しています。

(文章による説明)
当該地方公共団体の一般会計等が負担する元利償還金及び準元利償還金の標準財政規模に対する比率の過去3年間の平均値で、借入金(地方債)の返済額及びこれに準じる額の大きさを指標化し、資金繰りの程度を表す指標のこと。
「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」における早期健全化基準については、市町村・都道府県とも25%とし、財政再生基準については、市町村・都道府県とも35% としている。

(計算式)
実質公債費比率=
 〔(地方債の元利償還金+準元利償還金)-(特定財源+元利償還金・準元利償還金に係る基準財政需要額算入額)〕 ←分子
÷〔標準財政規模-元利償還金・準元利償還金に係る基準財政需要額算入額〕←分母 ×100

そして、準元利償還金(分子の2番目)とすべきものが列挙されています。
(令和3年度地方公共団体の主要財政指標一覧の「指標の説明」より。一部筆者が加工した。)

詳しい説明―総務省の説明の解説

総務省の説明に注釈を加える形で、もう少し詳しく説明します。

個別の事項の説明の前に、もう一度、「いちばん簡単な説明」をご覧ください。
「実質公債費比率」は借金返済額の収入に対する比率です。借金返済額÷収入のパーセント表示です。
家計に例えれば、住宅ローン(や車のローン等)の年間返済額の年収に対する比率です。

総務省の文章による説明の「当該地方公共団体の一般会計等が負担する元利償還金及び準元利償還金の標準財政規模に対する比率」というのは、このことをいっています。

このカギカッコの中には、3つのキーワードがあります。

《元利償還金》
まず、「元利償還金」です。
これは公的金融機関や市中の銀行から自治体が借金をすると、次年度から毎年いくら返すという返済計画が決まります。その額の当該年度分のことです。家計の住宅ローン等の一年分の返済額と一緒です。

《準元利償還金》
次に、「準元利償還金」です。名前の通り、「元利償還金」に「準ずる」ものです。
最初の「元利償還金」は、一般会計で借りたお金の返済金ですが、この「準」元利償還金は、一般会計自体の借金ではありませんが、一般会計が負担すべき借金のことです。

例えば、同じ自治体でも水道事業、病院事業、観光事業などは別会計(公営企業)で行っている団体が多いですが、そうした別会計へ一般会計から支出したお金のうち、借金の返済分とする部分。
また、ごみ処理事業や葬祭の事業などについて、一部事務組合を近隣自治体と設立して行っている場合には、そのような組合に支出するお金のうち借金の返済分とするもの。

借金を証券発行で行う場合の一定のもの(詳しい説明は後の項で行います)
などです。

《標準財政規模》
最後が、分母(収入)に当たる「標準財政規模」です。
「標準財政規模」とは、交付税の計算の時に「基準財政収入額」を計算しますが、そのときの計算の仕方で計算した税収総額(これを「標準税収入」といいます)と地方譲与税等と普通交付税の合計額です。
なお、普通交付税には、臨時財政対策債を含みます。

基準財政収入額自体の計算の際には、税収(標準税収入)に75%を掛けますが、標準財政規模の計算のときは掛けませんので、ご注意ください。

標準財政規模=標準税収入+地方譲与税等+普通交付税(臨時財政対策債含む)
です。

この「標準財政規模」ということばは、財政分析ではよく出てきます。
以上が実質公債費比率の計算のしかたです。

実質公債費比率のもつ意味―総務省の文章による説明の後半の解説

総務省の文章による説明の後半は、

「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」における早期健全化基準については、市町村・都道府県とも25%とし、財政再生基準については、市町村・都道府県とも35% としている。 

とあります。

これは、何を言っているかというと、自治体が、あまり借金をし過ぎると、いろいろな制限をかけて、財政の健全化を図りますよ、ということです。
具体的には、実質公債費比率が25%を超えると「財政健全化計画」を、35%を超えると「財政再生計画」をつくらなければならない。つくらないと、これ以上の借金は認めないということです。

しかし、実質公債費比率については、総務省のこの文章には記載がありませんが、18%という基準があります。

これ以上になると、自治体は「公債費負担適正化計画」という、公債費を下げるための計画つくらなければなりませんし、借金をするにしても、通常の団体が「協議」でいいところを、総務省(都道府県)の「許可」をもらわないといけません。
自治体は、まず、この数値を意識することになります。

もっと詳しく理解するために

《準元利償還金の補足説明》
先の【詳しい説明―総務省の説明の解説】のところで、後で説明することとした、「借金を証券発行で行う場合の一定のもの」について、説明します。

自治体が借金をする場合に、公的金融機関や市中銀行から借金をする方法と、国債のように「県債」「市債」という証券を発行して、広く一般の方に購入してもらう方法があります。

そのような場合には、利息は、例えば年2回支払うにしても、元金については、30年債なら、30年後に一括して支払うことになります。通常の銀行借入なら、元利均等あるいは元金均等など、元金部分について少しずつでも支払っていきますが、証券発行の方法の場合は、29年間支払いがない。つまり、その間、公債費の計上がないことになります。

それですと、自治体の財政運営が健全であるか、よくわかりませんので、準元利償還金の一項目として、
「満期一括償還地方債について、償還期間を30年とする元金均等年賦償還とした場合における1年当たりの元金償還金相当額」が設けられ、1年分の支払額は、分子に算入することとしています。

《計算式で、「元利償還金・準元利償還金に係る基準財政需要額算入額」が分母・分子から除かれていることについて》
総務省の計算式では、「元利償還金・準元利償還金に係る基準財政需要額算入額」が分母・分子から除かれています。一定の地方債の元利償還金については、地方交付税の基準財政需要額に算入するという制度があります。
言い換えれば、その部分については、国が面倒を見ると約束している部分だから、この計算の対象外とするということです。

《ほかのブログの紹介》
実質公債費比率は、自治体の財政制度に深く関係していますので、それらの理解が必要です。
今まで書いたブログの中で、参考となるものを次に記載します。よろしければ、ご一読ください。

準元利償還金について、「一般会計」と「特別会計」の説明―『何も知らない人のための「自治体の予算」とは
準元利償還金について、「一部事務組合」の説明―『地味に大切な仕事をしていますー自治体の「組合」
標準財政規模について、地方交付税の基準財政収入額の算定方法の説明―『わかる「交付税」1―もらう交付税と交付する交付税
証券発行による借金の方法についてー『「国債」「地方債」-国と自治体の借金の制度

「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」の内容については、今後、別のブログで触れたいと考えていますが、この法律制定のきっかけとなった事案の説明については、『出納整理期間をつかった不適正処理―自治体経理の基礎3』をご覧ください。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方財政法第5条の4(地方債の許可を要する場合)

同法施行令第23条(起債許可団体の判定のための実質公債費比率の数値)

令和3年度地方公共団体の主要財政指標一覧(総務省トップ→政策→統計情報→地方財政状況調査関係資料→地方公共団体の主要財政指標一覧)

財政分析について(総務省トップ→政策→地方行財政→地方財政の分析)

地方公共団体の財政の健全化(総務省トップ→政策→地方行財政→地方財政制度)
(総務省ホームページは令和5年6月9日に参照したもの)

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