「形式収支」「実質収支」ってなに?-わかるお役所用語解説5

はじめに

どの仕事にも専門用語がありますが、お役所の専門用語は、職員だけでなく、住民の方々に向けてもつかわれることがあります。最近では、こうした専門用語には、短い解説がついていることが多いですが、本記事では、わかりやすく、すこし詳しく説明します。

今回は、自治体の収支についての説明です。

自治体収支には、「形式収支」「実質収支」など捉え方によっていろいろな名称の「収支」があります。
自治体の収支には、どのような種類のものがあり、それらはどのような意味を持つのでしょうか。
是非ともご一読ください。

説明は、簡単な説明から詳しい説明へと段階を追って行っています。

いちばん簡単な説明

自治体のすべての歳入からすべての歳出を差し引いたものが、「形式収支」です。
それに、翌年度への繰越しを考慮すると、「実質収支」になります。
自治体の収支には、そのほかに「単年度収支」や「実質単年度収支」があります。

総務省の説明の前にーどうしていろいろな収支があるのか

総務省は、収支の種類について、次の項で紹介するように、「形式収支」「実質収支」「単年度収支」「実質単年度収支」の4つを挙げています。

単純にその年度の収入からその年度の支出を差し引いた「形式収支」で済ませられれば、それに越したことはないのですが、自治体の財政の状況を「収支」の面からみるためには、それでは足りません。
そのために、あとの3つの収支があります。

3つの収支がある理由としては、ひとつには翌年度への「繰越」や前年度からの「繰越」を考慮する必要があること、もうひとつは、自治体の歳出には、貯金の積立てを含み、歳入には、貯金の取り崩しを含んでいるので、それらの影響を除く必要があるからです。

このことを念頭に置いて、次の総務省の説明をお読みください。

総務省の説明

総務省は、地方自治体や地方自治制度について所管している省です。
同省では、自治体の収支について、次の通り説明しています。

《形式収支》
歳入決算総額から歳出決算総額を差し引いた歳入歳出差引額。

《実質収支》
当該年度に属すべき収入と支出との実質的な差額をみるもので、形式収支から、翌年度に繰り越すべき継続費逓次繰越(継続費の毎年度の執行残額を継続最終年度まで逓次繰り越すこと)、 繰越明許費繰越(歳出予算の経費のうち、その性質上又は予算成立後の事由等により年度内に支出を終わらない見込みのものを、予算の定めるところにより翌年度に繰り越すこと)等の財源を控除した額。
通常、「黒字団体」、「赤字団体」という場合は、実質収支の黒字、赤字により判断する。

《単年度収支》
実質収支は前年度以前からの収支の累積であるので、その影響を控除した単年度の収支のこと。具体的には、当該年度における実質収支から前年度の実質収支を差し引いた額。

《実質単年度収支》
単年度収支から、実質的な黒字要素(財政調整基金への積立額及び地方債の繰上償還額)を加え、赤字要素(財政調整基金の取崩し額)を差し引いた額

詳しい説明―総務省の説明の解説

総務省の説明に注釈を加える形で、もう少し詳しく説明します。

《形式収支》
「歳入決算総額から歳出決算総額を差し引いた歳入歳出差引額」ですが、自治体の決算は、現金主義ですので、その年度の収入とすべきものと支出とすべきものについて、翌年度の5月末日(出納閉鎖日)までに実際に収入支出があったものを、歳入・歳出の決算額とするものです。

なお、会計年度や出納整理期間について、もうすこし詳しく知りたい方は、別のブログ『会計年度ってなんだろう?―自治体経理の基礎1』をお読みください。

《実質収支》
「当該年度に属すべき収入と支出との実質的な差額をみるもので、形式収支から、翌年度に繰り越すべき」もの「の財源を控除した額」です。
そして、継続費逓次繰越、繰越明許費繰越が挙げられていますが、これらと事故繰越が、対象となる繰越になります。

これらの繰越については、『会計年度をゆがめる処理―自治体経理の基礎2』に解説しておりますので、このブログをお読みください。

「通常、「黒字団体」、「赤字団体」という場合は、実質収支の黒字、赤字により判断する。」とされているのは、次のような意味からです。

例えば、決算をして、歳入総額が100億円、歳出総額が99億円だった場合、形式収支は、100-99=1億円の黒字になります。
ここで、3億円の工事が、本来は年度内に終わって、出納整理期間内には支払いが終わっているところ、繰越により、未払いだとします。
そうすると、100億円の歳入のうち、3億円は、この工事が完了したら支払わなければならないお金ですから、これを差し引きます。その結果、この自治体は2億円の赤字となります。

工事の遅れという原因があったから、決算上は浮いたお金ですが、制度上はその年度に支払わなければいけないものと考えるのが、「実質収支」の考え方です。

《単年度収支》
「実質収支は前年度以前からの収支の累積であるので、その影響を控除した単年度の収支のこと」というのは次のような意味です。

対象年度の前年度の実質収支が2億円の黒字だとします。その2億円は、この年度に繰り越されます。歳入に「繰越金」として入るわけです。

この年度の決算をした結果、実質収支は1億円の黒字となったとします。でも、それは、前年度からのお金が2億円あったので、1億円のプラスとなっている。つまり、この年度だけ考えれば、1億円のマイナスです。
よって、1-2=-1という計算で、この年度の単年度収支は1億円の赤字となります。

《実質単年度収支》
「単年度収支から、実質的な黒字要素(財政調整基金への積立額及び地方債の繰上償還額)を加え、赤字要素(財政調整基金の取崩し額)を差し引いた額」というのは、以下のような意味です。

単年度収支の説明では、繰越金の影響だけを考慮しました。
それ以外に、歳入総額にも歳出総額にも貯金の積立てや取崩しが入っています。
自治体の場合の貯金は「基金」と呼ばれます。

例えば、3月の補正予算の編成段階で、歳出の見込みが予算から5億円減って90億円、歳入の見込みが予算から5億円増えて100億円だったとします。そのまま補正すれば、差し引き10億円の黒字です。一般会計の予算は歳入歳出同額で計上するのが通常ですので、10億円をどうするかという問題があります。

いろいろ手法はありますが、その10億円を財政調整基金に積み立てるという方法もあります。そうすると、形式上、歳入歳出同額となります。

その後、決算をすれば、歳入歳出ともに最終的な予算額との差が出るのは当然ですが、それを無視すると、形式収支はプラスマイナスゼロですが、実は基金積み立て=貯金を10億円しているからそうなったということはおわかりですね。

この積立金の10億円が総務省のいう「実質的な黒字要素」です。

逆に、当該年度の歳入だけでは歳出を賄いきれない場合には、財政調整基金を取り崩します。この取崩し額が「赤字要素」になるわけです。

なお、総務省の説明の中で「地方債の繰上償還額」を黒字要素の一つとしています。これは、通常、地方債は、借金したときの返済計画で、毎年の返済額が決まっていますが、いろいろな事情によって、個別の地方債の残っている返済額を一括して返済する場合があります。そうすると、本来返す額より余分に返した=貯金を増やしたと同じ効果であるということで、黒字要素となるわけです。

なお、「基金」について、詳しく知りたい方は、『「基金」ってなに?-わかるお役所用語解説4』をお読みください。

まとめ

以上の説明の通り、いくつかの「収支」を見ることによって、形式収支だけではわからない自治体のその年度の決算状況、さらに、それを一定期間、財政調整基金の残高の推移などと一緒に見ていくことによって、その自治体の近年の歳入歳出の状況がどうであるかがわかります。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

「地方財政の状況(令和5年3月)」(総務省)の「用語の説明」6ページから総務省の説明の引用をした。

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