よくわからないことば1「総合的に」「適切に」

はじめに

本記事は、お役所ことばの中で、一見もっともらしいが、何を言っているのかよくわからない「総合的に」「適切に」について解説する記事です。

「総合的に」の使われる場面

「総合的に」は、議会での質問に対する答弁、記者からの取材に対する回答でよく耳にします。

少し前のことになりますが、時の総理大臣が、日本学術会議の会員の選任の関係で、「総合的、俯瞰的に」検討した結果であるという答弁を繰り返しましたが、その一例に限らず、頻繁に用いられます。
どうして、それほど使われるのでしょうか。

便利だからです。このことばは後ろに「判断して」「検討して」がくっついて、選択や決定の結果に対する理由を説明することばですが、お分かりのように何も理由を説明していません。
しかし、質問に対しては、何らかの理由を説明しなければなりませんから、「総合的に」を理由としているのです。

ベターなつかい方

本来、「総合的」というのは、判断や決定をする際に、最低でも二つ、通常は三つ以上の考慮事項や観点があって、それらのメリットデメリットを比較考慮し、一つの結論を下す際につかうものです。
例えば、新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言を発するかどうかについては、感染者数の推移や病床のひっ迫具合などの流行による医療健康面の危惧と飲食店の営業時間の短縮や移動制限による経済へのダメージなどといったものを「総合的に」判断して決めているはずです。

ですので、答弁に「総合的に」をつかう場合には、そうした考慮事項や観点について、「〇〇や□□などの点を総合的に判断して」などとするのがよいでしょう。
もちろん、二の矢として、もっと具体的な根拠を求められることもありますから、一定の準備が必要です。

ただし、人事事項は、人事権者の幅広い裁量がありますから、通常は「適材適所」との説明で十分足りるはずです(学術会議の件は推薦を否定したというケースだから、理由の説明が必要となったものと思われます)。

「適切に」の使われる場面

「適切に」もよく質問に対する回答で使われます。「総合的」と似ていますが、どちらかというと、「今後どういう対応をとっていくのか」などという、将来的な対応を問う質問に対する答えとして用いられる感が強いです。

本当に「総合的に」検討した場合には、一定の検討結果を述べることができますが、「適切に」の場合には、状況の変化に応じた対応を取る必要があることが多いので、このように回答するのもやむを得ないですね。

ベターなつかい方

そうはいっても、「どう対応しますか」-「適切に対応します」のやり取りだけでは、聞いている方として、大丈夫かな、紋切型だなという印象を受けます。

ですので、取れる対応の選択肢を示したり、関係者がいる場合には連携を示したりして、「状況の変化に対応し、〇〇や□□の措置を講じるなど適切に対処してまいりたい」や「関係者と連携、協議の上、適切に対応してまいりたい」などとするのがよいでしょう。

「総合的に」「適切に」に似たことば

「総合的に」や「適切に」似た抽象的なことばとして次のようなものが挙げられます。

「様々な観点から」
このことばをつかう場合には、どういう観点からか、一つ二つ例示をするといいでしょう。

「等」
このことばをつかう場合には、〇〇等の〇〇以外に何があるかを確認する必要があります。お役人の習性でつい「等」をつけて、実は思いつかないということもあります。

「最重要課題」又は「最重要課題のひとつ」
この「最」は、最近では、「とても」ぐらいの意味にしかとれませんね。それくらいありきたりの表現になっていると思います。全体的にお役所の文章も修飾がインフレになっている感があります。最近の物価高はつらいですね。

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