「債務負担行為」ってなに?-わかるお役所用語解説25

はじめに

自治体の財政に関する用語として、「債務負担行為」があります。翌年度以降に自治体が金銭的負担をする場合に、その内容や限度額などを予算書に定めておくものです。

本稿は、「債務負担行為」について、どのようなものかをわかりやすく解説する記事です。

まず押さえよう

「債務負担行為」は、予算の一部をなすものです。

自治体の予算(歳入歳出予算)は、単年度主義ですから、その年度の歳入歳出だけを定めますが、例外として、翌年度以降の支出として、「継続費」「繰越明許費」とこの「債務負担行為」を定めることとされています。

定める事項は、債務負担行為の事項(内容)、債務負担行為をする期間、債務負担行為の限度額です。

債務負担行為の制度はなぜ必要か

例えば、総額10億円の事業で、この年度に1億円、翌年度に9億円かかるものがあったとします。債務負担行為の考え方がないとすれば、歳出予算には1億円しか載ってこないのですが、翌年度になれば9億円の歳出が組まれることになり、しかもやり始めている事業ですから、やめるのはまず無理です。
これでは、予算を審議する議員も自治体の予算の執行状況をきちんと把握したい住民も困りますね。

そこで、歳入歳出予算とは別に、翌年度以降に自治体が債務を負う(=金銭的な負担をする)ものについては、予算書に載せ、事業の全体的な負担がわかるようにしています。

どのような場合に債務負担行為を設定するか

債務負担行為を定める条文では、「歳出予算の金額、継続費の総額又は繰越明許費の金額の範囲内におけるものを除くほか、普通地方公共団体が債務を負担する行為をするには、予算で債務負担行為として定めておかなければならない。」と定められています。

当該年度中に翌年度以降にわたる事業を行おうとするとき

具体的には、当該年度(歳出予算の年度)に契約の相手方を決めて、当該年度の途中から又は翌年度の初めから、翌年度以降にかけて事業を行うような場合です。
事業の内容によっては、前払いや中間払いの必要がある場合がありますので、その場合には、当該年度の歳出予算にそれらの額を、残額を債務負担行為の金額として設定します。
支払いが事業者の履行の確認後となる場合には、全額を債務負担行為として設定します。

後者の場合には、単純に翌年度において歳出予算の計上だけをすればよいのではないかと思う方がいるかもしれませんが、契約の相手方を当該年度に決める場合には、その時点(正確には「支出負担行為」の時点)で、その事業の予算上の措置がなされてなければいけませんので、当該年度の予算において、債務負担行為として措置をします。

債務保証や損失補償を行おうとするとき

前記は自治体自身が事業を行う場合ですが、住民や自治体と関係のある団体が事業を行うに際し、自治体が債務保証や損失補償をする場合があります。その場合にも債務負担行為を設定します。

債務保証は、例えば、被災した住民が融資を受けるに際し、自治体がその債務を保証し、住民が債務の支払いができない場合に、自治体が代わって弁済するものです。債務保証は、会社や法人に対しては、一部の例外(土地開発公社等)を除いて、できないこととされています。

これと似たものに、損失補償があります。損失補償とは、融資の全部または一部の返済不能によって、金融機関が損失を被ったときに、その損失を補償するものです。

自治体の関係する法人(例えば、自治体の出資する第三セクター)の金融機関からの借り入れについて、債務保証はできないが、損失補償はできるとされています。その可否について、訴訟で争われたことがありますが、債務保証と損失補償は異なるものであり、損失補償については、公益上の必要性の範囲内で法人に対してもできるという判決があります。

いずれにしても、こうした債務保証や損失補償をする場合には、具体的に金銭の支出が確定していなくとも、限度額を債務負担行為として定めます。

債務負担行為を定める場合としては、上記2例がほとんどを占めますが、歳出予算等以外に債務を負担するものがあれば、これらに限らず、定めることとなります。

債務負担行為のもつ意味

債務負担行為は、翌年度以降、つまり、将来の負担となるものですから、その額がどのくらいあるかを把握することは、中長期的な財政運営の安定化のために重要です。

「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)では、自治体の財政を健全に保つため、いくつかの指標(健全化判断比率)を定めていますが、そのひとつに、「将来負担比率」があります。

これは、地方公共団体の借入金(地方債)など現在抱えている負債の大きさを、その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したものですが、現在抱えている負債のなかには、債務負担行為に基づく支出予定額が含まれます。

財政健全化法については、別のブログ『「財政健全化法」ってなに?-わかるお役所用語解説19』をご覧ください。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方自治法第214条(債務負担行為)
同法第215条(予算の内容)
同法第212条(継続費)
同法第213条(繰越明許費)
同法第232条の3(支出負担行為)

地方自治法施行規則第14条及び別記(予算の調製の様式第4表)(債務負担行為の様式)

法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律第3条(法人に対する債務保証の禁止)

地方公共団体の財政の健全化に関する法律第2条第4号(将来負担比率)

損失補償に関する判例
平成22(行ツ)463  地方自治法に基づく怠る事実の違法確認等,地方自治法に基づく怠る事実の違法確認請求事件
平成23年10月27日  最高裁判所第一小法廷判決

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