自治体と「人口」3-平成の30年間の都道府県の人口の推移と特徴

はじめに

『自治体と「人口」1』では、人口の多寡により、市町村が市(政令指定都市、中核市、一般市)・町・村に区分され、それぞれの団体ごとに行う事務が異なることを述べました。

『自治体と「人口」2』では、日本の総人口増加の時代から減少の時代を迎え、自治体について、「消滅可能性」や「限界」が議論されるようになり、人口は、「増加」させるものから、「確保」すべきものに変わっていることや、その一方で東京一極集中という人口などの過度の集中の問題があることを述べました。

本稿では、平成時代30年間における都道府県の人口の推移と特徴について取り上げます。

筆者は、この時代に地方行政、とくに県の行政に携わった者として、県民の生活に重要だと考えるいくつかの項目に関し、全国の傾向分析の中では埋もれがちな各都道府県における推移や変化について関心を抱き、比較対照しながらその特徴を知ろうとしています。『自治体と「人口」1』『自治体と「人口」2』でも述べた通り、人口は自治体にとって最も重要で、最も基本的な数値です。

平成の30年間に各都道府県の人口についてどのような変化があったのか、お読みください。

なお、本論に入る前に、「平成」の時代は西暦では1989年から2019年までですが、以下に述べる内容については、国勢調査の数値に基づくため1990(平成2)年調査から2020(令和2)年調査までの期間を平成の期間としていることをお断りしておきます。

日本の総人口について

1990年に行われた国勢調査(以下「90年国調」という。2000年の国勢調査は「00国調」、2010年の国勢調査は「10年国調」、2020年の国勢調査は「20年国調」などという)では、人口総数1億2361万人であり、20年国調では1億2615万人。この30年間で253万人、約2%増加しました。

しかしながら、この30年間を10年ごとに前期、中期、後期に区分すると、前期において331万人増加し、中期において113万人増加したものの、後期には191万人減少しています。

国勢調査年では、日本の人口のピークは10年国調の1億2806万人で、以後2回の調査では減少しています。
この30年間で外国人人口は約180万人増加しており、30年間の増加数253万人の7割程度を占めています。日本人だけで見てみると、自然減の影響はより深刻です。

平成のはじめの人口、終わりの人口

はじめも終わりもトップは東京都、2位は交代

この30年間の県別(以下、「都道府県」を「県」で代表させることがあります。)の人口の推移を見る前に、始点と終点の数値を確認します。

90年国調における人口の多い団体は、
①東京都(1186万人)、②大阪府(873万人)、③神奈川県(798万人)、④愛知県(669万人)、⑤埼玉県(641万人)の順でした。

20年国調では、
①東京都(1405万人)、②神奈川県(924万人)、③大阪府(884万人)、④愛知県(754万人)、⑤埼玉県(734万人)の順となっています。

団体は同じで、いずれの団体の人口も増加していますが、増加数のちがいから、この30年間の間に神奈川県が大阪府を抜き、第2位と第3位が入れ替わっています。

不動の鳥取県、島根県、3位以下は変動

一方、人口が少ない都道府県については、少ない順に、90年国調では、
①鳥取県(62万人)、②島根県(78万人)、③福井県(82.4万人)、④高知県(82.5万人)、⑤徳島県(83万人)の順でした。

20年国調では、
①鳥取県(55万人)、②島根県(67万人)③高知県(69万人)、④徳島県(72万人)、⑤福井県(77万人)の順となりました。

人口の多い団体同様、団体は同じで、いずれの団体も人口が減っていますが、その減少数のちがいで、90年国調では、4番目だった高知県と5番目だった徳島県の順位がそれぞれ一つ繰り上がり、福井県が3番目から5番目となっています。

日本全体としては、90年国調と20年国調を比較すると、前期、中期の貯金のおかげで、人口は増加していますが、個々の団体で見ると、人口の増加団体が12団体、減少団体が35団体と、圧倒的に減少団体が多いです。

増加数―最も人口が増えたのは東京都

以下、30年間の県別の人口の増減の状況を見ていきます。

この30年間の人口増加数は、多い順に
①東京都(219万人増)、②神奈川県(126万人増)、③埼玉県(93万人増)、④愛知県(85万人増)、⑤千葉県(73万人増) となっています。

ベスト5を、愛知県を除いて首都圏の都県が占めています。東京への一極集中の是正、あるいは、首都圏一極集中の是正という問題については、東京都の人口増加は前期にある程度速度低下がありましたが、その後は、それを取り返すかのような勢いで増えています。
また、周辺の埼玉県、神奈川県、千葉県(首都圏の中で、東京都とこれら3県を合わせ、東京圏といいます。)もベスト5に入る増加ぶりで、かえって東京都や東京圏への集中度合いが高まっています。

一方、関西圏について見ると、大阪府のこの間の人口増加数は約10万人にとどまり、周辺の京都府、兵庫県及び奈良県を合計した人口は8万8千人しか増加していません。この関西圏の人口の伸び悩みが首都圏への集中をもたらした原因なのか、あるいは、その結果なのかは判然としませんが、関係性はあるのではないでしょうか。

増加率―トップは沖縄県

90年国調から20年国調への人口の増加率でみると
①沖縄県(20.0%増)、②東京都(18.5%増)、③神奈川県(15.8%増)、④滋賀県(15.6%増)、⑤埼玉県(14.7%増) となっています。

トップの沖縄県は日本の全体的な人口の推移と異なる傾向を示しています。
この30年間自然増が続いているのは沖縄県だけです。
沖縄県の2020年の合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に生む子どもの数)は1.83で、第2位の島根県が1.69、全国平均は1.34です。この1.83は、飛びぬけて高い数値といっていいでしょう。沖縄県の合計特殊出生率が全国平均より0.5程度高い状況は、たまたまのことではなく、30年以上続いています。

自然増は、この出生率が高いためです。その理由について、2019年9月に一般財団法人南西地域産業活性化センターが「沖縄経済レビュー(№12)」として公表した「沖縄県の高い出生率に関する調査分析」によれば、全国に対する沖縄県の出生率の高さに寄与した「寄与度」として最も高かったのは、有配偶出生率、つまり、一人っ子ではなくて、たくさんこどもを持っている家族の割合が高いことで、若くして結婚して30代後半までこどもを産むためだとしています。

減少数―最も人口が減ったのは北海道

続いて、人口が減少した団体を見ていきます。

減少数の多い順に、
①北海道(42万人減)、②新潟県(27.3万人減)、③福島県(27.1万人減)、④秋田県(26.7万人減)、⑤長崎県(25万人減) となっています。

北海道は、95年国調の564万人をピークに減少に転じました。北海道の人口動向を前期、中期、後期に分けてみると、社会減(転入より転出が多い)は前期5万人、中期13.6万人、後期6.6万人と後期ではブレーキがかかっているように見えます(住民基本台帳移動報告による)。

一方、自然増減は前期9.5万人増加、中期6.7万人の減少、後期26.2万人の減少と減少幅が拡大しており(人口動態調査による)、これが30年間で大きく減少したことの要因です。

また、第3位の福島県は27万人の減少数のうち、後期で20万人減少しており、2011年3月に発生した東日本大震災と原子力発電所事故の影響の可能性もあるところです。

減少率―トップは秋田県、目立つ東北の県

減少率でみると、
①秋田県(21.8%減)、②青森県(16.5%減)、③高知県(16.2%減)、④長崎県(16.0%減)、⑤山形県(15.1%減)  となっています。

秋田県は15年国調までは100万人の大台を維持していましたが、20年国調でそれを割りました。また、90年国調以後毎回人口が減少しており、人口のピークは1955年国調の135万人でした。
秋田県は住民基本台帳移動報告によるとこの30年間常に社会減(転入より転出が多い)であり、人口動態調査による自然減も1993年から始まっています。
この減少率21.8%は、第2位以下に16%台の団体が並んでいるだけに、突出しています。

地域的に見て、5団体中3団体が東北地方の県です。岩手県も第7位であり、全体的に東北地方の人口減少率が高い状況です。

人口格差は拡大

人口の増加数について、大規模県(人口が500万人以上の東京都、神奈川県、大阪府、愛知県、埼玉県、千葉県、兵庫県、北海道、福岡県)とそれ以外の県(中・小規模県)に分けてみてみると、30年間の総人口の増加数は、250万人余りであるのに対し、大規模県の増加数は約600万人で、差し引き350万人ほど中・小規模県の人口が減ったという計算になります。

このように大規模県とそれ以外の県の格差が広がっています。大規模県への集中が進んだということです。20年国調では、90年国調に比べ、大規模県の人口シェアは51%から55%へと4ポイント上昇しています。

さらに、最も人口の多い東京都はこの30年間で人口を219万人も増やしています。最も人口の少ない鳥取県は6万人減らしています。この結果、東京都の人口を鳥取県の人口で割った倍率は、19.3倍から25.4倍となりました。人口最大県と最少県の格差も拡大しています。
東京都は大規模県の人口増加数の3分の1を1団体で占めています。ものすごい集中ぶりです。

まとめ

平成30年間の各都道府県の総人口の推移についてまとめますと、次のとおりです。

・日本の総人口は増加したが、県単位で見ると、増加団体12、減少団体35と減少団体の方が多い。
・大規模県への人口集中の度合いは高まっており、都道府県間の人口の格差は拡大している。
・とりわけ、東京圏、特に東京都への人口の集中はすさまじく、日本の総人口の増加数が250万人である中で、東京都は219万人増加した。一方、関西圏はほとんど人口の増加が見られない。
・東京圏以外では、沖縄県の人口の伸びが目立つ。
・人口が大きく減少した団体、減少率の高い団体は、北海道、東北地方に多い。とりわけ秋田県の人口減少率が20%を超えて、他団体よりも高い。

参考文献

人口の値については、国勢調査(総務省統計局)によった。
自然増減の値については、各年の人口動態調査(厚生労働省)から筆者が整理した。社会増減の値については、各年の住民基本台帳移動報告(総務省統計局)から筆者が整理した。

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