所得税とは仕組みがちがう「住民税」にご注意

はじめに

本記事は、いちばん暮らしに関係するのにわかりにくい税金の制度を、地方税を中心に説明し、併せて、所得税のかげに隠れた存在ですが、ずいぶん違ったところもある住民税について解説する記事です。

まず押さえよう

みなさんや企業の納める税金には、国税地方税があります。

地方税には、都道府県が徴収する税金と市町村が徴収する税金があります。

みなさん(個人の方)が毎年納める主な税金としては、住民税、固定資産税、自動車税などがあります。

住民税は、市町村民税と都道府県民税の総称で、前年の所得を基準にして課税されます。

新たに就職して1年目にはかかりませんが、2年目にかかることになります。また、前年に退職した方は、今年無収入でも、前年の所得に応じて課税されます。

やさしい税金と地方税のはなし

税金の話は難しくて困る。なんだか勝手に取られている気がする。そういう方もたくさんいらっしゃると思います。

お勤めの方の多くは、給料明細に所得税と住民税の欄があり、そこに金額が書いてあり、その額が支給額から控除されていますね。これは事業主が所得税については、源泉徴収義務者、住民税については特別徴収義務者になって、税務署や県や市に代わって取る制度だからです。

税金はおおきく国税と地方税に分かれます。イメージとして、税務署が扱うのが国税、都道府県や市町村の税務部局が扱うのが地方税です。
以下、いろいろなポイントによる税金の区分けを説明します。

1 都道府県の税金と市町村の税金

地方税は、都道府県の税金と市町村の税金に分かれます。

都道府県の税金は、住民税のうち都道府県民税(個人分と法人分)、法人事業税、自動車税などです。どの都道府県も本庁に税務部門、各地域に「県税事務所」などという出先機関を持っています。
市町村の税金は、住民税のうち市町村民税(個人分と法人分)、固定資産税、都市計画税などです。

なお、地方消費税は、都道府県が収入し、その2分の1が市町村へ交付される仕組になっています。

東京都に関しては、他の道府県と異なり、固定資産税や法人区民税など数税目は特別区ではなく都が取り扱います。

なお、都道府県税について、詳しくは別のブログ『「地方税」ってなに?(都道府県税編)-わかるお役所用語解説10』を、市町村税については、『「地方税」ってなに?(市町村税編)-わかるお役所用語解説11』をご覧ください。

2 普通税と目的税

地方税は、用途が限られない普通税と、一定の用途に使う目的税に分けられます。

住民税や固定資産税は普通税です。都市計画税や入湯税(温泉に入ると取られる税金)は目的税です。
入湯税は、「環境衛生施設、鉱泉源の保護管理施設及び消防施設その他消防活動に必要な施設の整備並びに観光の振興(観光施設の整備を含む。)に要する費用に充てるため」という目的につかうことが定められています。

3 担税力に基づく区分

税金の分け方として、何を基準にして税金を負担してもらうのか(担税力)に注目した分け方もあります。

所得に注目して負担してもらうのが、個人や法人の住民税(国税の所得税や法人税もそうです)などです。
資産に注目して負担してもらうのが、固定資産税(国税の相続税や贈与税もそうです)などです。
品物やサービスを買うことに注目して負担してもらうのが、消費税(消費税には国税の消費税と地方消費税があります)やいずれも国税の酒税、たばこ税などです。

4 直接税と間接税

税金を納める人と実際に税金を負担する人が同じなのが、直接税
実際に負担する人と納める人がちがうのが、間接税です。

所得税や住民税や自動車税は直接税です。
勤め人の皆さんは、天引きだから負担はしているけれど、納税自体はしていないよといわれるかもしれませんが、天引きの制度は給与所得とか預金の利子とか一部には用いられていますが、所得税も住民税もほかの一定の所得があれば確定申告が必要です。

消費税、酒税、たばこ税などは間接税の代表的なものです。

5 地方税収

地方税収の額は、都道府県で20兆5千億円、全収入の約33パーセント、市町村で20億3千万円、全収入の約26パーセントを占めています(令和2年度決算)。

住民税という税金はない

これから、みなさん(特に土地や建物や自動車を持たない方々)にとって、地方税の中では最も身近な住民税について、こんなところに気をつけた方がいいという点も含めて説明していきます。

いままでの説明の通り、住民税というのは、都道府県民税と市町村民税(区民税)の総称です。地方税について定めているのは、地方税法という法律ですが、住民税という項目はありません。

住民税には、みなさんが支払う個人の住民税のほか法人が支払う法人住民税がありますが、これからの説明は、特に注記のない限り、個人の住民税についての説明となります。

住民税は若い人にとっては所得税より高い

住民税の税率は10パーセントです。所得が10万円の人も1千万円の人も、10億円の人も税率は同じです。

一方で、所得税は、所得によって税率が違います。現在(令和5年)の所得税の税率は、所得が
194万9千円までは5パーセント
195万円から329万9千円までは10パーセント
330万円から694万9千円までは20パーセント
695万円から899万9千円までは23パーセント
などとなっています。
ちなみに最高税率は所得4千万円以上の45パーセントです。
この所得が多い人ほど負担の率も大きくなる制度を「累進課税」制度といいます。

なお、所得は収入と違います。会社勤めの場合は、支払われた給与総額から一定額の控除(給与所得控除)をしたものが給与所得になります。
年収5百万円の人の給与所得は356万円、年収1千万円の人の給与所得は805万円です。

年収5百万円=給与所得356万円の人の所得税額はいくらかというと、税額の計算は、給与所得から社会保険料控除や基礎控除やほかのいろいろな控除をした後の額に税率をかけるものですので、一概にはいえませんが、仮に、社会保険料を収入の15パーセントとし、基礎控除48万円だけを考慮して計算すると、13万5500円です。

それでは、この人の住民税はいくらでしょうか。
住民税は基礎控除が43万円ですから、それで計算すると23万8千円になります(細かくいうと、これに均等割というのが付きます)。
なんと、住民税は所得税の2倍近くになります。住民税、おそるべし!

所得税は今の給料、住民税は去年の給料基準で天引き

会社に就職してしばらくの間は住民税を払いません(就職前にほとんど収入がなければ)。
翌年の6月ごろになると、細長い紙(特別徴収税額の決定通知書)を渡されますが、そこにはこれから毎月支払うこととなる住民税の額が書いてあります。それと一緒に、あるいはあとで渡される6月分の給与明細では、手取り額がぐっと減っていて、その原因が何かと調べると今まで空欄だった「住民税」の欄に金額が書いてあります。

これが「2年目ショック」です。よほど1年間で給料が上がらないと、新採2年目は1年目より手取り額が少なくなります。住民税は前年の所得に基づいて、1年おくれて課税されるからです。

もっと深刻なのは、退職の翌年度です。

年度の終わりの3月で退職した人に対しても、6月頃市町村から郵便で住民税の納税通知書が届きます。それは前年1月から12月までの所得をベースとした税額です。今まで給料天引きでそれほど住民税額を意識していなかった人の多くは驚きます。しかも天引きは12か月均等ですが、納税通知書による場合は、数回に分けての支払いになりますので、一回の支払額も多くなります。

所得税と住民税とどうしてちがうのかというと、住民税は所得税の所得をベースとして各自治体で課税するということになっているからです。所得税の所得は、翌年3月半ばまでの確定申告期間を経ないと決まりません。自治体は事業主から送られる前年の給与支払いのデータや税務署の確定申告のデータによって課税しているからです。

そして、給与所得者の場合、所得税は、毎月の給料手当がいくらだと税金はいくらというように天引きしていって、年末に「年末調整」という制度で、税金の額が確定できます(他の一定の所得がなければ確定申告不要ということです)。住民税については、毎月支給される額に応じた税額を取るという制度ではないからです。

FIREというのが流行っているそうですが、翌年の収支計画に住民税と、ここでは説明しませんが、もっとこわい国民健康保険料、さらに国民年金の掛金はお忘れなく。

都道府県民税は市町村が代わって徴収している

さきほどの特別徴収額決定通知書をご覧になると、都道府県民税と市町村民税の内訳が書いてあります。都道府県民税分も市町村が一緒に収納し、それを道府県に払う仕組みになっています。もちろんただで請け負っているわけではなく、都道府県は市町村に手数料を支払います。

住民税についてのその他の基本事項

住民税は、1月1日現在に住所がある市町村(都道府県)で課税されます。ですので、年が変わって(1月2日以後に)他市へ引越した場合には、今の市ではなく、前に住んでいた市に納めることになります(6月の通知は前の市から来ます)。

住民税の細かい内訳は、所得に応じて税額が決まる所得割と納税義務者全員に均等に課される均等割、それに利子や配当などについて課される利子割等があります。
所得割は都道府県分の税率が4パーセント、市町村分の税率が6パーセントです。均等割は都道府県分が1500円、市町村分が3500円となっています(異なる場合もあります)。
利子割等の税率は5パーセントです。

まとめ

以上、住民税について、所得税とも対比しながら説明してきました。

個人の住民税は、都道府県や市町村が安定的に確保できる重要な財源です。そして、『地域社会の費用の負担を住民が広く分かち合う「地域社会の会費」的な性格を有する税』と説明されています(所得によらない均等割制度が設けられています)。

この記事で、少しでも税、とくに住民税を身近に感じていただけたら幸いです。

根拠法令等

本記事の根拠法令等は次の通りです。
解説は分かりやすくするために、主な事項だけを説明したり、法令にはない用語を用いたりしている場合があります。
正確に知りたい場合には、条文や文献等を確認してください。

地方税法第32条から第50条の10(個人の道府県民税)
同法第292条から第340条(市町村民税)
同法第734条及び第735条(都の特例)
※なお、地方税は地方税法に基づいて、各自治体が条例によって賦課徴収するものですので(地方税法第3条)、具体的な税率などは自治体により地方税法の標準的な定めと異なる場合があります。

地方税制度(総務省ホームページ→政策→地方行財政 2023年2月9日参照)

コメント

タイトルとURLをコピーしました