初歩の手前の条文の見方2―かっこ書きに気をつける

はじめに

本記事は、お役所の仕事の中で不可欠な法律や条例の読み方について、地方自治法の例を示しながら、まったく法律を読んだ経験のない方にもわかるように解説する記事です。
地方自治法の載った法令集をお持ちでない方は、「e-GOV 法令検索」で調べてください(「e-GOV法令検索」のつかい方については、この記事の第1回『初歩の手前の条文の見方1―「項」「号」ってなに?』をご覧ください。)

( )が読めれば条文はほぼ読める

条文の中に( )でくくられた文言がたくさんあります。これが法律の条文をとっつきにくくしているひとつの要因ですね。でも、( )はとても大切です。
条文の文言は何一つおろそかにできませんが、とくに( )には気をつける必要があります。
この部分を指すときは、「かっこ書き」又は「かっこ書きの部分」といいます。

( )の内容

( )は、

1. 法律番号を付記する場合
2.その条文のカッコ書きより後から、〇〇〇〇〇〇を□□に言い換えますよという場合
3.直前に書かれた内容について、その適用対象を一部除外したり、似たようなものを含めたり、又は適用対象を限定したりする取り扱いを書く場合あるいは補足説明する場合

に用いられます。以下、実例を示します。

法律番号を付記する場合

地方自治法の第74条の2第13項を見てください。この条文は、条例の制定・改廃の直接請求に関係して、署名の証明などについて規定したものですが、その第13項に「第8項及び第9項の訴えについては、行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)第43条の規定に・・・」とあります。
法律の中にほかの法律を引用する場合には、かならず法律の正式名称を書き、そのあとに( )で法律番号を付すことになっています。これは最初に引用する場合だけ必要で、2回目以後に法律番号の付記は不要です(法律番号については、第1回で説明しています)。

言い換えの場合

ひとつ前に戻って、第74条第1項を見てください。「普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者(以下この編において「選挙権を有する者」という。)は・・・」とあります。

この条文は第2編にありますから、第2編の中では、「選挙権を有する者」というのは、「普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者」のことをいうということです。「選挙権を有する者」というのが、この後の条文で出てきたら、頭の中で、自動的に「普通地方公共団体の・・・選挙権を有する者」と置き換えなければいけません。
衆議院議員や参議院議員の選挙権を有するかどうかは関係ありません(自治体の長や議員の選挙権の要件には、18歳以上のほかに3か月以上居住要件があります)。

気をつけなければいけないのは、この言い換えの( )は、当然、最初に言い換えるときにしか出てこないので、それを知らないと解釈を間違えてしまうおそれがあるということです。

例えば、第182条に「選挙管理委員は、選挙権を有する者で・・・」とありますが、この条文も第2編の中にありますので、この選挙権を有する者は「普通地方公共団体の・・・選挙権を有する者」になります。

そういう意味からも、担当する事務の法令の内容をすべて知らないといけません。自分で勝手に思い込んでいた用語の意味が、実は前の方の条文で定義されていたのに後で気がついたという経験は筆者にもあります。

同じ条文の第3項を見てください。「普通地方公共団体の長は・・・その結果を同項の代表者(以下この条において「代表者」という。)に通知するとともに・・・」とあります。この場合は、次の条文以下で「代表者」と出てきても、置き換える必要はないわけです。

どうしてこのようにするかというと、同じ言葉を繰り返すと条文が長くなってわかりにくくなるからです。
前に戻って第2条第9項を見てください。第1号に(以下「第一号法定受託事務」という。)として、それより前の記載がこれの説明になっています。これは言い換えというより、定義のような内容ですが、条文ごとに繰り返したら、ほんとうに何を言っているかわからないものになってしまいますね。

一部除外、範囲拡大、限定の場合

第12条第1項を見てください。条例の制定・改廃の請求権についての規定ですが、「日本国民たる普通地方公共団体の住民は、・・・その属する普通地方公共団体の条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものを除く。)の制定又は改廃を請求する権利を有する。」とあります。

この意味は、( )がない場合には、すべての条例について、制定又は改廃を請求する権利を有するのですが、( )でその例外(除外)を定めています。
( )を含んで読むと、地方税の賦課徴収・・・手数料の徴収に関するもの以外の条例の制定又は改廃を請求する権利を有するということになります。
これが、直前の内容の一部除外を定めている例です。

第221条第2項を見てください。この規定は長の補助金交付者等に対する状況調査等の権限を定めたものですが、対象者として「工事の請負契約者、物品の納入者、補助金、交付金、貸付金等の交付若しくは貸し付けを受けた者(補助金、交付金、貸付金等の終局の受領者を含む。)又は調査、試験・・・」とあります。これは( )の記載によって、似たような者を含む(範囲を拡張する)場合の書き方です。

( )がないと、例えば、県が補助金を市に交付して、市が県分と市の上乗せ分を事業者に補助するような制度の場合、県は市までしか調査等の権限が及ばないことになりますが、( )により、市から補助金の交付を受けた事業者まで権限が及ぶことになります。そうしないと、この規定の趣旨が完全には生かされないので、( )を加えたと考えられます。

第238条の4第2項第3号を見てください。だんだん参照条文自体が長くなってきて、いやかもしれませんが、我慢してください。
この規定は、自治体が業務を行うために持っている財産については、貸し付けなどができないことの例外規定(つまり、貸付などができる場合)を定めたものです。例外について、第1号から第6号までで具体的に定められています。

第3号では、「普通地方公共団体が行政財産である土地及びその隣接地の上に当該普通地方公共団体以外の者と一棟の建物を区分して所有するためその者(当該建物のうち行政財産である部分を管理する普通地方公共団体が当該行政財産の適正な方法による管理を行う上で適当と認める者に限る。)に当該土地を貸し付ける場合」とあります。
自治体と一緒に自治体の持っている土地とその隣の土地に建物を建てて、区分所有する者については、貸し付けができるとしていますが、( )の中で、その自治体がその財産を適正管理する上で適当と認める者に限るという限定をかけています。これが対象を限定する例です。

かっこ書きをわかりやすく読む方法

このようにかっこ書きは、実際にその条文を適用するうえでは、非常に大切なものです。しかし、これがあるために、読んでいくうちになにがなんだかわからなくなってしまいます。

こうした条文を読む場合には、まず、かっこ書きを無視して読みましょう。そうするとだいたいの内容がわかります。そこで、かっこ書きが直前の内容の一部を除外しているのか、拡張しているのか、限定しているのか、あるいは補足説明をしているのかもわかります。

そうしたら、ノートや電子メモにかっこ抜きの「原則」部分を書き出して、その下にかっこ書きの部分を一文字下げ、(除外)(例外)などの項目を付してその内容を書くなどして、整理してみるとわかりやすいでしょう。

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